【あらすじ】

 法勝寺は巨大な九重塔をもつ飛塔である。仏教発祥の星、閻浮提を代表する寺として三十九光年離れた持双星の大仏の御開帳に向かうため七名の僧を乗せ四十九日の旅に出た。幾度となく偽佛に襲われるも僧たちは、それぞれ、自らの寺より受けた秘密の指令を抱えながら持双星を目指す。無事に持双星に着き、御開帳の時、現れた蓮華王万手大観音はおぞましき方法にて衆生を救済しようとする。僧たちは、真の救いにあらずと立ち向かう。

 第9回創元SF短編賞受賞。仏教とSFの新たな出会いを描いたスペクタクル小説である。

 

 

 お彼岸・お盆をきちんと行う仏教が生活の中に入り込んだ家庭で育った私にとってはなんともワクワクする話だった。

 

 

 ついに法勝寺が天駆する。

 その知らせを聞いた善男善女は、閻浮提―教化しえぬ衆生が呼ぶところの地球―の全土で歓喜の声を上げた。…この年月、三千大千世界の数百万の善男善女が法勝寺を訪れ、百十四言語での読経に参加し、祈念炉に祈りを捧げてきた。

 

 

もうお経に出てくるオンパレードに、知識のない人には難しいかもしれないが、仏教用語を実に巧みに使いこなしている点がすでに面白い。

 

 

 やたらと用語を用いてディスるのかと思いきや、テーマはしっかりとしていて、誰かの犠牲の上に成り立つ「救い」などあり得ないという強いメッセージが伝わってくる。欲を言えば、終盤がもう少し丁寧に描かれていれば深みが出たように思うが、十分楽しめる小説だった。

 

 

 それにしても、「もう一度読みたくて探しているSFがあるんだけど、タイトルもなにも分からなくて…」という話に、「それは知らないけれど、このSFなら楽しめるんじゃない」とすっと紹介してくれる親友の懐の深さよ。彼女と読書の趣味はあまり合わないと思っていたのだが、食わず嫌いをせずに読んでみるべきだなと反省した。