弥吉の話を八の字眉をきゅうと顰めて八は聞いた。

八つぁん、おいらがお救い小屋に行きたくなかったのは、長屋に遊び人の安つぁんって人が居てね・・

安さんはは景気のいい時は菓子を奢ってくれてた。
普段は貸本屋の荷担ぎやっていたの。

時々大金持ってたりで
ほんとは盗人の舐め役(下見役)じゃないかって、
陰で噂もあったんだけどね。

やっぱり小さい時火事で親を失くして、
お救い小屋にいってたんだって。

そん時の話をしてくれた事があって、
養い親も決して優しい里親なんかじゃないって、
辛い話をいろいろ聞かせてくれたんだ。

その話は怖くってねっつ、鬼のような親に薪で殴られたり、夜中に酒を買いに生かされたり、寝る間もなかったって・・

それがあっておいらはお救い小屋がいやだったのさ。
迎えに来る親類なんていやしないからね。

ふむっ、そうさなぁたとえ縁者がいたとしても、
喜んで引き取る人ばかりじゃまいしなぁ。
遠くの縁者より近所の情けって事もあるさぁねぇ。

弥吉つぁんはおとっつぁんは亡くなっていたのかぃ。

・・多分ね・・おっかさんは話してくれなかった。
おいらが生まれてすぐいなくなったって。
でもその後・・・妹が生まれたんだよ・・

え~っそれじゃ妹さんは誰か他の男の子供かぃ。

でもさ、妹とおいらはそっくりなんだもん。
でも、おっかさんには聞けなかったんだ。
おいらが生まれた時は水天宮のお宮近くに住んでたの。

妹が生まれてから深川の菊川町の長屋に移って、
おっかさんも働くようになったんだ。

ふぅ~んおっかさんにも何か事情があったんだろね~

だけどなつっ、平つぁん達のことは、
お上に知れるとお救い小屋で戻される。

だからといって弥吉つぁんの懐を宛にされると、
これからもやってくるだろうしなぁ~
どうしたもんだろうかなぁ。

いっそ凛さんと伊三次さんに話してみるのがいいやぁ、
あの人達なら五文の銭の事だぁ、正直に言えば殴ったり叱ったりはしねえさ。

優しくしてくれる養い親に隠し事はいけねぇからね、
言うのは辛いだろうが、まっとうな気持ちで話せば、
きっと解ってくれるにちげえねぇよっ。

何かあったらおいらも無い知恵しぼっから、
便りにならねえけど話においでなっ。

弥吉は噛んで含むように静かに話す八に、
こくんと頷いて、
あいっお話してみます、ちょっと息を吐いて微笑んだ。

おうっ冷えてきた、おたがい急いでお店に戻らねぇと、
弥吉つぁん転ばぬように走っておいきなぁ。

八も腰を上げて荷を担いで笑顔を見せた。

ごちそうさまでしたぁ~八つぁんありがとう。
ぺこりと辞儀をして弥吉も梅香亭に走った。

世間にはいろんな人がいるもんだ・・
実の子供を殴る親も、そこらの他人の子でも、
気遣って情けを掛けてくれる人もいる。

平ちゃんもかよも六助も気の毒だが、
おいらは出来ることを精一杯やらなくちゃな、
何ができるんだろうか・・

師走の風の中を弥吉は思いを振り切るように走った・・