そうなる前に、魂を見つけ

供養出来れば良いのじゃが、、



田鶴、、


さ、皆の者、

田鶴の亡骸を持て、先に出た

瀬名の一行に従うのじゃ。


屋敷はどうしてあのような事に。

火の元などは平素より十分に

気をつけておった筈じゃが。


それがきっと

魔の力なのであろう。


屋敷は焼け落ちておるだろうな。


そうかもしれぬ。 

だが、大切なのは屋敷より

そこに集う人の心。



屋敷など、また建て直せば良い。

亀、お前も手伝うてくれ。

いきなり直親がおとわを

抱きしめた。


おとわ!

わしの妻になってくれ。


亀、しのの前で気でも狂うたか?



いや、しのの前じゃから

そなたに聞いておるのじゃ。


しの、わしは愛を貫く。

わしは、そなたを見ていて

そう感じたのじゃ。


わしを夫にと思えばこそ、

そなたはわしに一所懸命じゃった。


果ては、そなたを愛しもしない

わしに嫉妬までして、、

それが故に

そなたは命まで失った。


だが、わしはそなたの気持ちを

今ではよく分かっておる。


それだけわしと本物のめおとに

なろうと、ただその一心で、、


それは、わしがそなたに話した

何時か本物の夫婦になれたら、、


そう、我らの想いは

同じだったのじゃ。


我らがもし、己が心の内を

素直に打ち明けあっておれば、、


わしはそれが残念でならぬ。

だから、心に誓った。

もう心の内を隠して、

後悔するのは真平じゃとな!


しの、そなたは本当に

素晴らしいおなごじゃった。


おとわより先に

そなたと知り合っておれば

わしは迷わずそなたを妻に

選んだであろう。


だが、わしはおとわと先に

出会うてしまった。


それでも、おとわは仏門の身。

我が想いを貫くなど

考えた事も無かったが、


元康様が田鶴の事を

こう申しておられた事を知り、


そなたが

百姓の娘でも何でも構わぬ

どんな事をしてでも、

そなたをわしの妻にしたい。


わしは田鶴でないと

なのじゃ!


気がついたのじゃ。

わしもおとわが僧侶であろうが

何であろうが構わん。


どんな事をしてでも、

わしの妻にしたい。


わしは、おとわでないと

嫌なのじゃと。


直親様、、

私も直親様のお心の苦しみが

よく分かります。


そのような想いを抱えて、

それはお辛い日々で

あった事でしょう。


おとわ様、

私は死んでやっと気がつきました。


人生は儚く短い。

ならば愛する人と共に生きる。

それが1番なのじゃと。


おとわ様の愛する人が

この直親様ならば、

迷わず差し出された手を

おとりなさいませ。


そして、私の分も直親様を

幸せにして

差し上げて下さいませ。


しの、、


おとわ様、頼みましたぞ。

しのはそう微笑むと

静かに消えて行った。


亀!

私はお前の妻になる。

そして、2人で生涯しのの

菩提を弔うのじゃ!

ああ、そうじゃ。

そうしよう。


その後、屋敷に残った者の活躍で

火が消し止められ、かろうじて

焼け落ちるのを免れた

井伊の屋敷に皆が揃った。


瀬名は?


弔いが終わるまで

座敷牢に入れて御座います。

南渓和尚にも使いをやりました。


しばらくすると、

南渓和尚がやって来た。


そして、並んでいる

しのと田鶴の亡骸を見て、


仏が2人に増えたか。


おや?

しのの魂は帰って来ておるのに

もう一方はどうした?


やはり田鶴の魂は

どこぞを彷徨うておるのか。


どう言う事じゃ?

おとわは田鶴の凄惨な最期を

南渓和尚に語った。


そうか、、それは酷い事を。

純粋無垢な身を汚された怒り

だけでなく、


元康様に、大切な護符を

届ける事が出来なかった無念。


その2つが合わさり、

既に怨霊になっているやも

しれぬな。


怨霊、、

田鶴が?


直親は田鶴の亡骸を見た。


屋敷に戻り、身体の汚れを落とし

死装束を身に纏う田鶴は

まるで眠っているように見えた。


田鶴がまさか怨霊になどと、、


このように変わらず愛らしく、

今にも目を開きそうじゃのに。


亀〜!


直親は田鶴の笑顔を思い出し

堪らずに嗚咽した。


まだ武家の習いも途中で

あったのに、

早う逝ってしまいおって。


元康様にどうお伝えすれば

良いのじゃ!


さぁ、泣いていても仕方あるまい。

2人を皆で送ってやろう。


はい。

次回も引き続きお楽しみ下さい🌸🐎


内容は全てフィクションです。


画像をお借りしました🙏