落ちぶれるだけの今川氏真など、

もうどうでも良い。

仰せの通り、あの男を必ずや

私のものにしてみせます。


あの男、松平元康。

後の天下人徳川家康を!



おなごに生まれたと言うだけで、

男に駒のように扱われる我が身。

今川氏真も、他の女が出来たと

私をゴミ屑のように捨ておった。


私は天下人の妻になり

元康を操り、この日本を

おなごの天下に変えてみせる。


幾多のおなごが流した涙。

その恨みを 

今こそ晴らしてみせようぞ!



そう瀬名が高笑いしていた頃、

離れ座敷で元康と田鶴は、


田鶴、井伊に来てからの事を

最初から全て話してくれ。


うん、良いよ。

あ、はい、分かりました。


いや、元のままで良い。

わしの前では元の田鶴のままで

話してくれ。


そうか、分かった。

そして、田鶴は話し始めた。


お館様も奥方様も良い人で、

私に武家の作法を教えてくれている

おとわもすごく優しいの。


おとわ、、先程の、、

井伊直盛の娘だな。


うん。今は仏門に入り

次郎法師と名乗ってるんだって。


でも、養女になった私は

自分の妹と同じ。

だから、おとわと呼んで

良いって言ってくれて、、


おとわの幼馴染の直親様も

私がおとわの妹なら、

って呼んで良いって

言ってくれたの。



亀?


幼名を亀之丞って言ったんだって。

竹の幼名、竹千代と同じだって。



それでね、井伊に来た最初の日、

現れたを見て、私、

すっかりだと思って、、


アハハハ!

可愛い田舎娘が

やっと到着したようじゃの。


竹!

いえ、元康様!


何だ!

一緒に来る事になっていたんなら、

どうして

そう言ってくれなかったの?


そう言って直親様に抱きついたの。

そうしたらおとわが、


田鶴!

この者は元康様では無い!


え?


私は井伊直親。

元康様とは赤の他人じゃ。


他人、、

こんなによく似ているのに。


知り合いも誰もいない、

ましてやお武家様の屋敷に、、

そう思ってずっと緊張していたから

竹じゃないと聞いたら落胆のあまり

涙が止まらなくなったの。

そしたら、


遠路はるばる見知らぬ土地へ

参ったのじゃ。

疲れも出る事じゃろう。


おとわ、田鶴を

休ませてあげなさい。


はい、母上。

田鶴、こちらに参れ。


そんな風に優しく言ってもらって

おまけに、、


わしも付き添おう。

わしがそなたの想い人に

それ程似ているのなら、

側に居れば気持ちも休まろう。


それが良い。

私も話し相手になる。


そんな温かい言葉を

かけてもらったのよ。



そして、次の日から

まずは話し方からって

武家の作法を

教わっているんだけど、



ある日、竹に貰った和歌を

おとわに見せていた時に、



我が空よ、

涯なる先に、、

田鶴は懐から1枚の短冊
取り出し、元康と離れた日の事を
思い浮かべて涙ぐんだ。

我が空よ
涯てなる先に離れつも
愛しき想い通わせたまへ


この空を見よ。 

離れていても空は1つじゃ。


わしは空を見上げるたびに
この空の向こうにいる
そなたを愛しく想う。


そなたもわしが恋しくば
空を見よ。


何処にいても空が
わしと田鶴を繋いでおるのじゃ。

それでは、しばらく会えぬが
達者で暮らせ。


竹が言ってくれた言葉を
思い出したら、
寂しくて堪らなくなって、、


そしたら亀が、

好きなもの同士が離れている辛さは

よく分かると言って、、


わしは、田鶴のその辛さを

田鶴の身を案じている元康様に

成り変わり、少しでも

和らげてやりたいと思う。


田鶴、、そなたが晴れて

元康様と暮らせる日が来るまで、

わしが元康様の代わりに

そなたを守ろう。


そう言ってくれたの。
すごく嬉しかったわ。


そうか、、
直親様はそのような心持ちで
田鶴を助けようとしてくれて
いたのじゃな。


うん!


しかし直親様は、しの様と近々
祝言だと聞いたが。


そうだよ。
だから、私、聞いたの。


あの、竹、、いえ亀はしの様と
祝言を挙げたくないの?

そしたら、


ああ、そうじゃ。

わしが愛しておるのは

おとわ1人じゃからな。


じゃ、どうして2人は祝言を

挙げないの?

おとわは亀を嫌いなの?

そしたら、


武家と言うものは、己の想いだけで

動けぬものなのじゃ。

そして、


そう、、一言で言えば

祝言はお互いの想いを

叶える場ではない。


家と家を結び、両家の和平を

約束する為の儀式なのじゃ。


だからわしも、

どのように不服であっても、

あのしのと祝言を挙げねばならぬ。


しかし、その務めは果たしても

我が心までは誰にも縛れまい。

そう言う事じゃ。


寂しそうにそう言っていたわ。

次回も引き続きお楽しみ下さい🌸🐎


内容は全てフィクションです。


画像をお借りしました🙏