もう、わしから

離れてくれて良い!


分かった。


田鶴は寝床を出て着物を着ると

部屋の片隅に座った。


いや、そんなに離れなくても。


え?じゃ、どれくらい

離れたら良いの?


いや、どれくらいと言うか、、


もう少し、わしの方へ。


じゃ、このくらい?


いや、もう少しじゃ!


じゃ、、

寝床の中から竹千代が叫んだ。


すまぬ、寝床に戻って来てくれ。

そして言い訳のように、


やはりまだ

冷えが治らぬようじゃ。


そうなの?

分かったわ。

再び共寝をしながら、、


田鶴、、

そなたは本当に温かいのう。


わしは眠うなった。


そなたを抱きしめたまま

休んで良いか?


ええ、構わないわ。

しっかり温まって。


そして、そのまま一夜が明けた。


田鶴、、何処じゃ?

目を覚ました竹千代は、

身支度を整えると田鶴を探した。


お侍さん、私は此処よ!

よく眠れた?

畑仕事をしていた田鶴が

元気な声を上げた。


ああ、そなたのお陰で

すっかり頭の痛みもとれた。


じゃ、思い出した?


その事なのだが、、

頭の痛みは取れたのに

一向に思い出せん。


ま、焦らない方が良いよ。


その経帷子は取らないの?


ああ、何時また戦わねばならぬ

時が来るやもしれん。

常に備えはしておかねばな。


そうなんだ。

畑仕事にその格好じゃ

大変そうだけど。


構わぬ。

この畑で何をすれば良いのじゃ?


その前に朝餉でしょ?


あ、、

竹千代の腹が鳴った。


ほら!

昨日うちに来てから

何も食べずに眠ったから

お腹が空いているでしょ?


朝の畑仕事は終わったから。

直ぐに朝餉の支度をするわ!


そうか、かたじけない。


かたじけないは良いから、

この桶に井戸の水を汲んで来て。


相分かった。


田鶴から手渡された桶を持ち

井戸に水汲みに行く竹千代。


井戸の水を汲むと、水鏡に映った

自分の顔をしみじみと眺めた。


わしは一体

何処の誰なのじゃ?


駄目だ。

どうしても思い出せぬ。


しかし、この身なり、、

武芸者。それもある程度

名のある家の者。


わしは、、 

わしは誰なのじゃ!

その時、急に、、


我が名は、、

不意に頭の中にと言う

文字が浮かんだ。


竹、、竹、、なんじゃ?

竹の続きは何と申す名なのじゃ?


お侍さん!

遅いから見に来てみたら、

何を1人でブツブツ言ってるの?


田鶴!

我が名を思い出しかけたのじゃ!


え?何ですって?

それで、なんて名なの?


それが、、

、、としか。

そう田鶴に告げて

落胆する竹千代に田鶴は、


、、そう。

昔、おっかあが話してくれた

かぐや姫みたいね。


竹の中から生まれたかぐや姫。


姫は月の世界の人だった。


月からお迎えが来て、

また月に帰っていくのよ。


お侍さんも、きっと誰かが

お侍さんを探しに来るわ。


そうしたら、自分の家に帰れる。

大丈夫!きっとそうなるわ!


田鶴、、

そなたは優しいおなごじゃな。


ウフフ!


そうだ!お侍さんの事、

何時迄もお侍さんって呼ぶのも

なんだから、、、そう。

って呼んでも良い?



そうじゃな。

確かにわしの名前の一部には

間違いなかろう。


よし!

わしは今日からじゃ!


じゃ、早速、竹!

うちに帰って朝餉にしよう!


そうじゃな。

次回も引き続きお楽しみ下さい🌸🐎


内容は全てフィクションです。


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