そうか、、

では田鶴とやら、少しの間

わしを此処に匿ってくれ。


自分の名前もだが、

どこから来たのかも

さっぱり思い出せん。


だが、甲冑を着ているからには

戦乱の最中だったのだろう。


どんな事情でこうなったのか

分からぬが、何か少しでも

思い出せるまで

此処にいさせて欲しいのだ。


お侍さん、貴方は

川岸に倒れていたから

流されている間に

岩で頭でも打ったんじゃない?


何処か痛くないの?


そう言えば、痛む。

頭が強烈に!


ほら、やっぱり!

きっと思い出せないのは

そのせいだよ。


良いよ、うちに居ても。

どうせ私、1人だもの。


その代わり、うちのこと

色々手伝ってくれる?


良かろう。わしも武士じゃ。

一宿一飯の恩義は

ちゃんと心得ておる。


薪割りでも野良仕事でも

何でもしよう。


じゃ、そう言う事で。

だけどそれは、

頭の痛みが治ってから。


それに、

まず濡れた着物を脱いで。


今、布団を敷くから

そこに寝たら良いよ。


そうか。かたじけない。


田鶴に寝床を用意してもらい

濡れた着物を脱ぎ、褌1枚で

横になった竹千代。

(竹千代が寝ているイメージ)


田鶴、火桶か何か無いか?


火桶?


ああ、濡れていたせいか

身体が冷えて寒くて堪らん。


火桶なんか無いわ。

だけど、そんな時には、、


田鶴は、自分の着物を脱ぎ

薄物1枚になると、

竹千代の隣に身を横たえ

その身を抱きしめた。


ほら、温ったかいでしょ?

おっかあが寒い時、

よくこうやって

抱きしめてくれたの。


田鶴、そなたは男のわしが

怖く無いのか?


何が?


男女の道は?


何、それ?

寒いんでしょ?



それはそうだが、、

確かに温かいな。


おなごのそなたに

このような世話をかけて誠に、、


もう!

そんなに気を遣わなくて良いよ。

困った時はお互い様だって、

おっとうが何時も言ってたわ。


そうか。では、その、、

神仏に誓ってそなたには何も。

だから、もっとそなたに、、


まだ寒いのね。

分かった。

じゃ、この方が温ったかいから。


田鶴は着ていた1枚の薄物も

寝床の中で脱ぎ捨て

全裸になって

竹千代を抱きしめた。


もっと私にくっつくと良いわ。

ほら、もっと!

田鶴の柔らかな身体の温かさを

自分の肌に感じた竹千代は、


思い出せぬが、わしにも

母上が居るのだろう。


わしの母上も、寒ければ

わしをこのように

温めてくれたのであろうか。


どんなおっかあだって、

我が子が寒けりゃ

温めてやろうと思うわよ。


私のおっかあは、

こうして何時も私を、、

田鶴が泣き出した。


そうか、そなたの母上は

亡くなったのであったな。


そして同時に父上も。

そなたは今日まで、おなご1人で

気丈に生きて来たのだな。


まだ泣いている田鶴の身体を

今度は竹千代が

優しく抱きしめた。


お侍さんの身体、

大きくて逞しくておっとうみたい。


田鶴の父上もわしも男だからな。


田鶴はおなごだから

小さくて柔いのう。


わしはおなごを知っておる。


こうして名すら忘れた身の上でも

田鶴が抱きついて来た時に

この身体がそれを思い出した。


しかし、おなごと同衾して

このように安らかな気持ちに

なったのは初めてじゃ。


同衾?


そなたは誠に知らぬのか?

歳は幾つじゃ?


見た所、わしと変わらぬように

見受けるが、、


数えで15。


では、わしも

その位なのか?


ね、それ何なの?

男と女の道?


それは、、

わしが教える事ではない。

そなたが嫁御となった時

夫君から教わる事じゃ。


そうじゃ!

もう温まった。


もう、わしから

離れてくれて良い!


分かった。



田鶴は寝床を出て着物を着ると

部屋の片隅に座った。

次回も引き続きお楽しみ下さい🌸🐎


内容は全てフィクションです。


画像をお借りしました🙏