ご主人は?
どうされてます?
主人?
さっきこの家を出て行ったわ。
今頃この世行きのバスの中よ!
出て行った?
ええ、昨日
離婚するって言ったでしょ?
聞こえてなかった?
それは聞こえてましたけど、、
でもこんなにあっさりと。
長年ご夫婦だったんですよね?
そうね、、
結婚して40年。
幸せな花嫁だった私、、
あれから40年、、
愛も色褪せる筈ね。
だけどそんなに長年連れ添って、
たった1回の浮気で
離婚するんですか?
ええ、まぁ確かに
初めての浮気だけど、
たった1回でも浮気は浮気よ!
私は許せないの!
さ、私もあの世に行くに
あたって、この家を
さっさと処分しなくちゃ!
離婚の届出を済ませたら
14日以内にその世を
出なくちゃならないから。
高田さん、、
嘘つき!
その時、急に雅子が叫んだ。
私は許せないの!
なんて思っていないのに、、
悦ちゃん!
どうしてそんな嘘をつくの?
雅子ちゃん。
どうして高田さんの奥さんが
嘘をついてるって分かるんだ?
知らない!
よく分からないわ。
だけど、悦ちゃんが
嘘をついている事だけは分かるの。
そして、春馬と雅子は
悦子の話を聞いた。
あの人とその世に来て5年。
きっかけは私の病。
もう治る見込みが無いと知った時
夫婦で相談して出来たばかりの
その世保険に加入したの。
最初は嬉しいばかりだった。
だけどそのうち気がついたの。
夫の寂しさに。
最初に気がついたのは、
その世に来て1ヶ月程
経った頃だったわ。
〜その回想〜
悦子!
お前の好きな花を
買って来てやったぞ!
お花?
またどうしたの?
その世に来てこの1ヶ月。
来て早々はバタバタして
引っ越し祝いもしなかっただろ?
やっと引っ越しの荷物も
片付いたし、改めて
引っ越し祝いをしようと思ってな。
まぁ!そうなのね。
うれしいわ!
お花、すぐいけるわね!
花瓶、、花瓶はと、、
はいはい、これですよ!
でも花瓶は私の手を
すり抜けていった。
そこで、気がついたの。
その世に来てこの1ヶ月。
私は一緒になって
バタバタしていただけで、
本当にバタバタして引っ越しの
荷物を片付けていたのは
主人だったって事を、、
私は荷物の片付けどころか、
目の前のこの小さな花瓶1つ
持ち上げられないんだって。
悦子?どうした?
花瓶は見つからないか?
あ、いえ、、
お父さん、、
ここに花瓶が有るから
悪いけどお花をいけてくれない?
それに、引っ越し祝いで
食べるものも自分で
作って貰わなくちゃね!
ああ、そうだったな!
主人はいつもの優しい口調で
そう返事をしてくれたけど、、
私聞いちゃったのよ。
台所でため息をついているのを。
ハァ、、、
主人はね、私が死ぬまで家事を
全くして来なかった人なの。
だから、その世で一緒に暮らせる
と言っても、家事は全部
自分でしなくちゃいけない。
勿論、そんなの覚悟の上だと
いつも話していたけど、
やっぱり辛いんだって。