今日は7月11日。

 数年前まで「711」=「世界ベンゾ注意喚起の日」として、チラシを配ったり、厚生労働省に陳情に出かけたりという活動をしていました。

 しかし、「陳情」という形態の活動に限界があるのも事実で、活動の途中から、厚労省の聞く姿勢にも変化が出てきました。

 最終的には、厚労省の言い分として、そちらが主張するような状況を証明する研究結果をもってきてください、そのエビデンスを元に厚労省として対応します、ということになりました。

 それにしても、これまでベンゾに関して厚労省がやってきたことは、中途半端な処方制限と最近の「重篤副作用マニュアル」の改訂です。それによってお茶を濁して、幕引きしつつあります。(つまり、これ以上ベンゾに関わりたくない)。

 しかし、ベンゾ問題は根本的には何も解決していません。

 なぜならそれは、ベンゾジアゼピンという薬物の本質をきちんと医師が把握していない(したがってもちろん厚労省も)からです。

 処方に関しては、一部医師、病院によっては改善しつつあるようですが、まだまだ多くの医師がベンゾをかなり甘く見ています。なので、患者の訴える症状を「否定」して、病気の悪化、もしくは別の病気ととらえます(したがって、精神薬のさらなる処方)。いつまでたってもベンゾの離脱症状、遷延性離脱症を認めようとしないのです。

 

 以下は知人に伝えていただいた、アメリカ、コロラド大学の研究です。つい最近(2023年6月29日)、発表されました(雑誌『PLOS One』に、査読済み出版物として掲載)。

これを伝える記事のタイトルはかなり刺激的です。

 

 ベンゾジアゼピンの使用は脳損傷、失業、自殺と関連している

 以下、内容を少し紹介します(詳細は上記アドレスの研究を見てください。Google翻訳で充分わかります)。

 

 対象は1207人のベンゾジアゼピン使用者(服薬中63.2%、減薬中24.4%、断薬11.3%)。インターネット調査。参加した91%の人が処方通りに服用している(していた)人たちです。

 

 以下、引用します。

「症状の質問に対する全肯定回答の 76.6% が、その期間が数か月または「 1 年以上」であると報告しました。次の10の症状は、回答者の半数以上で「1年以上」続いたと回答されています。

エネルギー低下、集中力の低下、記憶喪失、不安、不眠症、光や音に対する過敏症、消化器疾患、飲食によって引き起こされる症状、筋力低下、体の痛み。

特に憂慮すべきは、これらの症状は、ベンゾジアゼピンが最初に処方された症状とは異なる新たな症状として報告されることが多いことです。

さらに、回答者の大多数は、著しく損なわれた人間関係、失業、医療費の増加など、あらゆる分野で長期にわたる生活への悪影響を報告しました。注目すべきことに、回答者の54.4%が自殺念慮または自殺未遂を報告しました。」

 

「この分析は、ベンゾジアゼピンの使用により、人生に悪影響をもたらす永続的な症状が新たに出現したことを示す調査証拠を示している。ベンゾジアゼピン使用中止後の症状が長引くことは以前に報告されているが、一般にこれらの症状は時間の経過とともに解消される離脱現象であると暗黙のうちに想定されてきた。が、この研究は、まったく異なることを明らかにしています。

それは、ベンゾジアゼピンの使用によって引き起こされる新たな、そして多くの場合持続的な症状が、これらの薬の使用中、漸減中、または中止後に現れる可能性があるということです。実際、ベンゾジアゼピンを完全に中止した回答者の一部は、永続的な人生の影響を経験し続けました。」

 

要するに、これまでベンゾに関しては「短期」の影響については研究がなされてきたが、「長期」の影響についての言及は(あるにはあるが)、この規模での研究はほとんどないということです。

そして、この研究では、ベンゾが長期にわたって患者に多大な影響を与えていることを明らかにしており、こうした状態を「BIND」(ベンゾジアゼピン誘発性神経機能障害)と名付けました。

BINDは、ベンゾジアゼピン曝露による脳の変化の結果であるということです。神経機能が障害されているわけですから、その症状は長期にわたるということです。

 また、BINDは長期服薬者のおよそ5人に1人の割合で発生しているとのことですが、危険因子は不明であり、治療法についてはさらなる研究が必要とのことです。

 しかし、ベンゾの長期的影響(悪影響)をBINDと名付ける意義は、知らなかった、知ろうとしなった医療関係者に、こうした状態が現に存在することを認識させるのに役立ちます。

 とくに日本においては、ベンゾの離脱症状を「身体表現性障害」とされてしまうケースが頻発しています。あるいは、ベンゾとまったく切り離した観点での診断(痛みなら線維筋痛症とか、別の病名がつく)が多いです。

  この研究においても、対照群をもたない、研究者自らが選択したインターネット調査であるという、研究としての瑕疵はあります。それをもってこの研究結果を無視するのはまったくあたりませんが、そうした態度がこれまでの医学会のやり方だったのです。

 現に、以前、「依存症」が専門の精神科医にベンゾの離脱症状のハードさについて訴えたところ、その医師はこう言ったものです。

「まあ、ベンゾの離脱症状については、大規模な研究もなく、アシュトンさんが一人で言っているにすぎないものですから」と。

 依存症が専門という医師でさえ、このような言葉が口をついて出てくるのですから、いくら症状を訴えても、「気のせい」「大げさ」「嘘をついている」「そんなはずはない」「そんなに長く離脱症状は続かない」(血中濃度という観点でしか考えない)、「離脱症状は続いてもせいぜい3カ月」(どんな根拠からそういう期間が出てくるのかわからないが)と言うのは日本の医学会のある意味「常識」でした。

 しかし、こうして「医学的に」ベンゾの長期の離脱症状が扱われれば、医師の態度に多少の変化が起きてくるかもしれません。命名されることで分野が確立すれば、研究も進んでいくはずです。 

 もちろん、BINDと診断されたとしても、治療法が確立しているわけではありませんので、現在苦しんでいる当事者の方の辛さが軽減するわけではありません。が、それでも、「否定」という心理的圧迫からは少し解放されるかもしれません。

 ともかく、日本でも、大学の医学部でこうした調査を行ってほしいと切実に願います。そして、医師はベンゾジアゼピンという薬剤が、脳損傷、失業、自殺と関連してしまうほどの薬であること、人生そのものを破壊しかねない薬であること、神経の機能障害を誘発する薬であることを認識すべきです。

 

注! こういう記事を読むと、現在ベンゾを飲まれている方は恐怖にかられて急な減・断薬をしがちですが、急激な減薬・断薬は絶対にしないでください。免責事項として明記しておきます。ベンゾの急激な減・断薬は離脱症状を深刻、かつ長期的なものにしてしまいます。