本年度(2022年4月)から高校の保健体育の教科書に、精神疾患に関する記述が加わったのをご存知でしょうか。40年ぶりのことだそうです。

 うつ病や統合失調症などの「精神疾患」は、10代の発症が多いため、生徒が病気についての正しい知識を得て、予防や早期の治療につなげるのが目的なんだとか。そうすることで精神科医療に対する偏見が消え、早めに周囲に相談できるようになることが期待されると。

 そこで、以下のような記事を紹介します。

 8月13日の信濃毎日新聞です。

 

「警視庁などによると、近年は小中高生の自殺が増加傾向にあり、2020年は499人で過去最多を記録。うつ病など精神疾患が要因に一つと考えられるため、約40年ぶりに教科書に精神疾患関連に記述が盛り込まれた。」

 

 これを受けて、私の知人でもある長谷川洋さんが「出前授業」に手をあげました。長谷川さんはうつ病経験者で作る任意団体「うつリカバリーエンジン」(塩尻市)の代表で、地域の高校から要請があれば、メンバーを出前授業に講師として派遣する予定だそうです。

新聞記事はその活動を紹介するものですが、どうも書いた記者さん自身、精神医療の現実をあまりご存知ない(当然かもしれませんが)ため、内容が文部科学省(あるいは厚生労働省)の意に沿うような方向になっています。

 

「同団体は、うつ病の経験者らが情報交換し、課題や悩みを共有しようと2013年に設立。(略)当事者の実体験を伝えることで、悩みを抱える生徒らに早期対応を促そうと考えた。(略)出前授業では発症の仕組みや誰もがなり得ること、早期発見・治療で回復の可能性が高まることを伝える方針。長谷川代表は「病気の特徴や対処法を知り、早くSOSを出すことが重要。当事者の経験を聞き、誰かに相談するきっかけになれば」としている。」

 

 長谷川さんから送ってもらったこの記事を読んで、新聞ではあくまでも「早期発見・治療の重要性を説いていること、自殺の原因を精神疾患にしている点など、私から指摘したところ、長谷川さんいわく、

事前に(記事の)内容の確認がなかったため、こういう書き方をしていることを知りませんでした。読めば、早期受診と治療の文言も載っていますが、実際の授業では、病院、クリニックの受診は最後のさいごと伝えています。これからもそこに重きは置かないような授業をしていきます、とのことでした。

 

 長谷川さん自身うつになり、薬の副作用や離脱症状で苦しんだ経験があります。出前授業では、ぜひそうした体験談、向精神薬のリスクについても伝えてほしいと思っています。

高校生に向けてできる精神疾患授業としたら、そこが一番重要ではないでしょうか。

安易に受診を勧める内容の授業、うつには「抗うつ薬という治療薬がある」という知識など、正直百害あって一利なしです。

若年層の自殺の増加は、うつ病と診断されて飲んだ抗うつ薬の影響も大いに考えられるからです。現に抗うつ薬の添付文書には、「抗うつ剤の投与により、24歳以下の患者で、自殺念慮、自殺企図のリスクが増加するとの報告がある」との記載があります。(パキシルは赤字警告になっています。)

そういう点もきちんと伝えてこその「精神疾患授業」です。

向精神薬の被害にあった方が、こうした「出前授業」で高校生たちに現在の日本の精神医療の現実を伝えていけるといいと思います。

最初は行政の期待するような方向性の話題を振りつつ、少しずつ事実を暴露していければ、今流行りつつある「早期発見、治療」一辺倒の「学校メンタルヘルスリテラシー」の破壊になるような期待もあります。

ただ、出前授業はどこでも行っているわけではなく、長谷川さんたちは、長野県に対して、「高校の保健体育『精神疾患の予防と回復』授業における外部講師活用」として提案を行い、それを県が了承したかたちです。

その基盤は厚生労働省の「心のバリアフリー推進事業」です。

 

うつ病等で投薬の被害を受けた人たちが全国でこうした提案を行い、高校生に出前授業で「治療」のリスクを伝えていけたら、将来的にもきっと有意義な情報になると確信します。