ある女性からメールをいただきましたので、今日はその内容をお伝えしようと思います。

 38歳のコメディカルとして、ある精神科病院に勤務されている方からのメールです。

 立場上、コメディカルの職種や病院名は伏せさせていただきます。

 メールは、まずこんなふうに精神科病院について書かれていました。

 

「病院勤務を通じて、いつも感じているのは、患者さんの心が見捨てられているということです。」

 

 そんな職場のひどい現状と、そうした職場に勤めているやりきれない感情を女性は伝えてくれました。以下、メールを一部変更して紹介します。

 

多剤処方

「この病院では、まず、多量の薬を処方しています。私は看護師ではないためカルテを見るのみですが、特に常勤医師の処方は酷いものです。平均でひとりあたり10種類も処方し、もっと多い方もいます。統合失調症でないうつ病や知的障害、発達障害の方にも、当たり前のように抗精神病薬を出しています。

 逆に、非常勤医師は数種類のみのシンプルな処方が多いため、私の中でもどうしてここまで異なるのか、謎です。

 製薬会社の営業マンがよくみえているので、憶測ですが、常勤医師は処方を勧められているのかも知れません。

 患者さんは当然のことながら、副作用を訴えます。しかし、かこさんもブログに書かれていたと思いますが、医療従事者はみな、服薬がよいものだ、必要なものだと信じて疑いません。

 よだれをたらしている入院患者さんに対しては、看護師が「○○、またよだれだ(笑)」と患者さんの聞こえるところで、名前を呼び捨てにしケラケラ笑うだけです。心臓がどきどきして苦しいと訴える方には、降圧剤が処方されるのみ。

 この病院に通院後、他院に転院して、減薬して良くなったという話もよく聞きます。多剤処方による死亡事故も起きていますが、それでも薬剤は減りません。

 

スタッフの人権意識の低さ、そして管理

 副作用への対応に限らず、スタッフの患者さんへの対応は、相手を人間と思っているのか? と思うほど冷酷なことが多いです。

 特に入院患者さんへの対応は、それが顕著です。

 私はよく病棟にも行きますが、患者さんが少しでも「行動が逸脱」していたりすると、スタッフが集団で抑制する言葉を発します。「大きい」「出る」「逆」など。

 さらに、「変」「お花畑」など病気を皮肉るような言葉も平気で口にします。

 直接「注射になるよ」と脅すこともあります。

 患者さんの表情からは徐々に柔らかさが消えていきます。それでもおとなしくならなかったり、スタッフに文句を言ったりすると、容赦なく注射(ジプレキサ筋注がよく使われています)や保護室に入れられます。

 そのような繰り返しで、医療従事者は立場的に上となり、患者さんをも巻き込んだ、集団監視のようなコミュニケーションが病棟内に生まれ、監獄のような張りつめた雰囲気で、まるで温かさがありません。

 患者さんは守られている感じはしないと思います。病状が悪化して再入院のため連れてこられた患者さんが「あんな怖いところに行きたくない」とおっしゃっていましたが、それは真実と思います。

 

 患者さんが閉鎖病棟を出られるか、外出できるかの基準は、「行動が逸脱していないか」「穏やかであるか」「流れに沿って行動できているか」のみです。

 要するに、観察者(医療従事者)から見て問題がなさそうか、ということしか見ていません。なぜ病気になったのか、今どれくらいつらいのか、といった主観の部分には医師でさえ深く触れていないのです。

 

パワハラの職場

 そうした職場において、私の職種は患者さんと1対1で話す機会も多いので、患者さんの良いところをお伝えするなど、なるべくエンパワメントに努めていすが、なかなかうまくいかないのが現実です。

 職場そのものがパワハラの雰囲気に満ちています。患者さん寄りの対応をするスタッフは上司、同僚等からパワハラを受けます。またあるスタッフが医師に対して、「(先生の言ったことと食い違うので)患者さんはこう言っていた」と言うと、「精神障害者の言うことなんてまともに聞くな!」と怒鳴っている場面にも出くわしたことがあります。

 実際、患者さんは妄想的だったり、いつも同じ訴えが多い方もいるので、スタッフもいちいち対応していられないかもしれません。でも、そうした訴えには、必ず意味があると思うのです。薬の副作用もあると思いますし、スタッフがきちんと対応しないことにも原因があると感じます。

 しかし、真剣に関わったり、業務改善に取り組もうとすると、皆ハラスメントを受け、真面目な人ほど辞めていきます。スタッフ同士、気に入らない同僚に対してはプライベートなことを互いに指摘して、人格を否定し合っています。

トップの理事長が、患者さんのためなんて考えるな! とにかく加算を取れ! という方針なので、その悪影響も大きいです。

 

子どもたちの悲痛な叫び

 さらに可哀そうなのは、子どもにも同様の治療が行われていることです。この病院には小児病棟もあるのですが、子どもに対しても薬は多量に処方される、注射は打たれる……どんなに辛いだろうと思います。

 それでも改善しない場合はECTも行われています。カルテには、子どもたちの悲痛な叫びが淡々と記録されています。

 子どもが何を訴えようが、看護師は「お薬を飲みなさい」と言います。話はそこそこ聞いてあげているようですが、結局は本人の気持ちに焦点は当たらず、病院側が管理しやすくするためのコミュニケーションと感じます。

「病院のルールを守りなさい。そうしたら外泊していいよ」

「叫ぶのを止めたら拘束を解くよ」

「イライラしたらお薬を飲みなさい。そうしたら…」

という感じです。

 トークン法で管理されており、結局は人間というよりただの「矯正対象」としか見ていないと感じます。

 

 正直言うと、働き続けることが辛いです。

 患者さんは、もともと純粋で優しい方ばかりなのだろうと感じています。だからこそ、心を病んでしまうのでしょう。でも、治療の場であるはずの病院は、それを逆手に取り、金を巻き上げるだけの対象と見なし、それだけでなく組織的な虐待が行われている、私にはそのように見えます。

 薬を多量に、強制的に飲まされ、ふらふらになり、頭もまわらなくなり、それを笑われ、でも何か言ってもほとんど聞いてもらえない。幻聴は治らない。積もった感情を抑えられなくなると罰が与えられる。

 私は救いたくてもほとんど何もできません。人格を否定せず話は懸命に聞くようにしていますが、本当に私に何が出来るのだろうと思います。精神科病院というのはどこもこうした状況なのか、それとももっとまともな環境というのは存在するのか……。

長いメール、読んでいただき、ありがとうございます。

 

☆☆☆☆☆

 ちなみに、この病院のホームページを見ると、どこもそうですが、「患者に寄り添う」「気軽にご相談ください」「専門スタッフが丁寧に対応します」など、きれいごとが並んでいます。

 もちろん、小児病棟のページも同様です。発達障害、うつ病、統合失調症、不登校、摂食障害等々を対象として、こんな症状があったら「ご相談ください」「専門医が素早く介入して回復を目指します」と。

しかし、実際この女性が伝えてくれたのは、多量の薬の処方、矯正的な対応、そして、ECTという現実です。

 精神科病院の実情、漏れ聞こえてくるのは、この女性が伝えてくれたような状況が多いと感じます。重い状態の患者さんを受け入れている病院だからということなのでしょうか。それとも、もっとまともな環境の病院もたくさんあるのでしょうか。

薬づけ、患者虐待、スタッフの人権意識の低さ、患者の訴えをまともに聞かない、懲罰的な対応……。

 それでも、行き場を失った患者さんを受け入れてくれる病院は、たとえどのような対応の病院だとしても、必要ということでしょうか。

もしかしたら、そこまで状態を悪くしたのは、精神科の治療そのものかもしれないけれど、それでも現実、家族にはもうどうにもできない状態だとしたら、たとえどのような「治療」をされようが、そういう病院がなくなっては困ると……。

 イタリアは一応、精神科病院は廃止しました。

 しかし、日本の場合、経営が先にたつ私立の精神科病院を廃止するのは、至難の業です。としたら、この現状が変わるのはいつのことなのか。それともずっと変わらないのか。