今回は本の紹介をします。
『精神疾患をもつ人を、病院でないところで支援するときにまず読む本 〝横綱級〟困難ケースにしないための技と型』小瀬古信幸 医学書院
精神疾患をもつ人を,病院でない所で支援するときにまず読む本 ”横綱級”困難事例にしない技と型
2,160円
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著者の小瀬古さんは訪問看護師で、いわゆる「独立型」といわれる、病院に所属しない形での訪問看護ステーションで働いています。
私がこの本で興味を持ったのは、タイトルにある「病院でないところで支援する」という言葉です。
精神的な不調に陥ったとき、行けるところは精神科病院(心療内科)しかないという現実。そして、対処、つまり治療として薬物療法くらいしかないという現状をどう変えればいいのか、よく考えます。
もちろん、病院につながることで急性期を乗り越えることはできるかもしれません。しかし、その後の生活――家族との生活のなかで、再び問題が出現したとき、またしても病院に行くしかないのか……?
病院に行けば、やはり薬物療法が待っています。すでに服薬しているのであれば、薬が増えることは確実です。そんなとき、いかいに「病院でないところで支援」できるのか――。
もちろん筆者は訪問看護師ですから、訪問看護師という立場での支援方法が書かれています。しかし、それは、家族にとってもたいへん参考になるアプローチではないかと感じました。
以下、困難ケースとして紹介されている例をあげます。
1、リストカットがやめられない人への対応技……解離性障害、境界性パーソナリティ障害
2、連続飲酒のループから抜け出せない人への対応技……アルコール依存症
3、発話が少なく、思いや言葉を出しにくい人への対応技……統合失調症
4、子どもを虐待してしまうが、その自覚がない人への対応技……解離性障害
5、気をつけていても過活動になり、その後のうつが避けられない人への対応技……双極性障害
6、母への要求が強く、イライラし、ひきこもりと暴力がある人への対応技……広汎性発達障害
7、食事と飢餓感に思い込みとこだわりが強く、横になってばかりいる人への対応技……強迫性障害
8、要求をエスカレートさせていく人への対応技……双極性障害
9、「訪問看護やめます」と電話で伝えてくる人への対応技……適応障害
10、家族で孤軍奮闘し、怒りと死にたい思いを抱えている人への対応技……双極性障害
11、精神的ストレスからくる腰痛で、生活が成り立たない人への対応技……うつ病
書かれている病名はその人が医師によってつけられているものです。(双極性障害が多いのが気になります)。
そして、お読みいただけばわかる通り、タイトルがかなり具体的です。つまり、実際あった個々のケースを取り上げながら、そのケースにどう「対応」していったのか、実に具体的に書かれているケーススタディです。
方法のひとつは「コミュニケーション能力」といってもいい、本人とのやり取りです。コミュニケーションを通して、一つ一つ、もつれた糸をほぐしながら問題の本質を探っていき、それを本人と(家族と)共有して、定めた目標に近づいていく。
一概に言えませんが、それは一種のカウンセリングであり、さらに、医療者が主体となる支援ではなく、本人が主体となるような支援です。
たとえば、6のケースなどは、最近よく聞く内容ですが、下手をすればそのまま「医療保護入院」にもつながりかねません。そこを訪問看護師が介入することによって、本人のイライラの原因を探り、それを爆発させないための方策を見つけ、本人と家族の橋渡しをすることで、本人も家族も「楽」になっていきます。
もしかしたら、「精神科」を、こういうことをしてくれる場所だと思っている人も多いのではないでしょうか。もつれた糸をほぐしてくれて、家族の問題を解決してくれるところ……。しかし、精神科がそういう「治療」(対応)をとることはほとんどありません。精神科が行うのは、本人にいま出ている精神的な症状を抑える薬を出すこと(不眠とか不安とかイライラとか、暴言暴力とかを抑える薬)だけです。
この訪問看護師である小瀬古さんが使う「技」は、同居する家族にも、あるいは本人にも、とても参考になるものです。しかし、すごく特別な「技」があるわけではありません。コミュニケーションのなかで、自然に行われているものです。
それでも本書からいくつか、ヒントになる言葉を引用しておきます。
「セルフケア能力が上がるような支援」
・本人が結果に関与すべき。
・本人が主体となった行動を普段から支援する。
・権利と責任を本人へ返していく。
・本人がいない場で本人のことを決めない。
「4つのポイントを意識しながら聞き、利用者と共有する」
①本人の「希望」は何か。
②調子が悪くなる「キーワード」「キーパターン」は何か。
③「いい感じの自分」とはどのような自分なのか。
④「元気を失いそうな注意サイン」「引き金」は何か。
訪問看護師の方にはぜひお読みいただき、身に付けてほしい「技」ですし、本人、ご家族の方にもお勧めの本です。