断薬後に、大きな怒りの感情に支配される人がわりにいます。

 脳内の神経伝達物質のアンバランスからくる怒り……離脱症状の一つと思われますが、衝動性が高まり、暴言、暴力につながることもしばしばです。

 この怒りは、薬が抜けていくことで、頭がクリアになり、現在の状況がよく見えてくることによってさらに増加する場合も多々あります。

なぜ薬なんか飲んだのか、なぜこの薬の危険性に気づくのが遅れたのか、なぜ誰も教えてくれなかったのか、離脱症状で苦しみその果てに待っていたのがこんな感情なのか。なぜこんなにも辛い思いをしなければならないのか、なぜなぜなぜ。

 薬を処方した医師への憎しみ、自分を精神科に連れていった者への憎しみ、周囲の人間がすべて敵とでもいうように怒りの固まりとなって、そのことからくる孤立感から、さらなる怒りが湧いてくる。服薬、減薬によって失われた歳月は、どうやっても戻ってきません。その事実に向き合えば、怒りはいやでも増してきます。

 

 この怒りは、理性ではどうにも収拾のつかないほどの、人生をかけた「怒り」でしょう。

 もちろん、家族関係は悪くなります。家の中で、暴力までいかずとも、物にあたり、暴言を吐き、配偶者や身近な人をののしる。どうしてこんなことになってしまったんだ、と。

 家族によっては「薬をやめたから病気が再発した」と考える場合もあるでしょう。離脱症状だから……とわかっていても、その状況に耐えるのは、かなり難しいかもしれません。

 そして当人にしてみれば、わかっているけれど、どうにも収まらない「怒り」。

 しかし、それを続けているうちに、家族関係は壊れるかもしれません。人生そのものをふいにしてしまうかもしれません。

 

 怒りをコントロールするのは非常に難しいことです。まして、薬によって左右されてしまった人生に対する怒りは、収めどころがないかもしれません。

 それでも、怒っているだけでは、状況は悪くなるばかりです。どれほど怒っても、怒りで物事が解決することはありません。

 まずはそのことを知ることかもしれません。そして、怒りの対処法を身に着けておくことは、役に立つかどうかはともかく、無駄にはならないはずです。

 たとえば、怒りの感情にまかせて、物を壊したりすると、余計に怒りの感情が増すと言われています。物にあたると、自身の攻撃性がヒートアップしてしまう。ある研究では、被験者に釘を打たせて(一種の攻撃性)、その場に被験者を馬鹿にするような人を登場させると、その人を嫌いになるという結果があるそうです。

 また、怒りの原因を考えてみてください。多くの場合、怒りの根源は、人それぞれが持っている「べき」の考え方です。

 自分の人生はこうあるべきだったのに、それからずれた。他人は自分にこうあるべきだったのに、そうではなかった等々。この考えがその人を苦しめるのです。

 また、アンガーマネジメントでよく言われるのが、怒りの感情が出てきたら、ともかく6秒間は我慢する(反射的に何か行動を起こさない。言葉、物にあたる等)。6秒間我慢すれば怒りが消える、わけではなく、ともかく「怒りにまかせて」行動を起こすとデメリットが大きいということです。

 さらに、「大丈夫」「すぐに終わる」「たいしたことない」など自分を落ち着かせる言葉を唱えるのもいいかもしれません。6秒我慢して、この言葉を何度も唱えてみる。

 ポジティブセルフトークといって、文字通りポジティブな言葉を自分に言ってみる。さらに、自分ではなく、だれか(たとえば天使)が自分に言ってくれていると想像する、という方法もあります。

 

また、ケンブリッジ大学の研究グループが、脳内のセロトニンレベルと「怒り」の関係について発表しています。怒りの感情が強い人はセロトニンの量が不足しているという研究結果です。

そのために食べる物に注意してみてはどうでしょう。

セロトニンを増やすには、トリプトファンを多く含む食品を摂取することです。セロトニンを増やすのに欠かすことのできない成分がトリプトファンです。具体的には、牛乳・チーズ・ヨーグルトなどの乳製品や、豆腐・納豆・しょうゆ・味噌などの大豆製品。カツオ・マグロなどの魚類、アーモンド・ピーナッツなどのナッツ類、バナナや小麦胚芽、卵などにも多く含まれています。

また、セロトニンはトリプトファンだけでなく、葉酸、鉄、ビタミンB6やマグネシウム、ナイアシンからも合成されます。

ビタミンB6は、サンマやニンニク、マグネシウムはわかめやひじきに、ナイアシンはきのこ類や緑黄色野菜などに多く含まれていますが、サプリメントでの補給でもいいと思います。

 

離脱症状で「怒り」を体験された方は多くいます。

怒りの感情は、ときに破壊的です。

そして、「怒り」の背後には「絶望感」があるのかもしれません。

精神薬の怖さの一つでもありますが、それでも、少しずつ少しずつでも、「怒り」の感情を洗い流していってください。

また、体験談として、怒りをどうコントロールしたか教えていただけたら、現在怒りの真っただ中にいる人にとって助けになると思います。

 

 参考 日本アンガーマネジメント協会 https://www.angermanagement.co.jp/