精神科なり心療内科をはじめて受診し、薬が処方される際、医師から次のように言われる人は多いのではないだろうか。

「こ(れら)の薬は、飲んでも眠くなるくらいで、副作用はほぼありません。そもそも副作用が問題になるような薬を国が認めるはずがないので、安心して飲んでください」

 つい先日もある男性から、「医者にこう言われたのですが、ネットで調べるといろいろ書いてあって、本当に大丈夫なのかと不安になっています」というメールをいただいた。

 あがり症で困ると言ったところ、即「社会不安障害」と診断され、ルボックスとデパスが処方されたという。しかも、「病気を治すために1年くらい飲む必要がある」と。

 何を根拠に1年と言っているのかわからないうえに、これではいわゆる「インフォームドコンセント」とは言えない。インフォームドコンセントは「説明と同意」と訳されるが、正確には「正しい情報を与えられたうえでの同意」であり、上記医師の「副作用が問題になるような薬を国が認めるはずがない」という説明は薬の説明になっていない。

さらに「国が認める薬だから安全」というのは、「正しい情報」ではない。

つまり、「向精神薬の承認の過程」にも問題が多々あるのである。

 今回は、その薬の承認についての話を掘り下げてみたい。

 以下は、以前のエントリで紹介した(服薬中の恋人が自死し、裁判で争った)笠井裕貴さんのホームページからの引用である。

 笠井さんのホームページのアドレスはhttp://www.truthaboutpsychiatry.net/  (精神科の真実)であるが、ここには海外の文献を含めた実に多くの、有意義な情報が詰まっていてたいへん興味深い。この中で新薬承認についての文章を(長さの関係もあるので)、部分的に転載させていただく。


新薬承認のための臨床試験

 精神治療薬に限らず、新薬の販売を政府により承認してもらい、また健康保険の適応を受けるためには、製薬会社は臨床試験(治験ともいう)を行い、その結果を政府に提出して、その審査を受けなくてはなりません。

新薬の候補となる物質を見つけたら、まず動物実験から始めます。その後ヒトへの投与試験が行われますが、ヒトへの投与試験は3段階に渡って行われます。

それぞれ第1相、第2相、第3相試験と呼ばれています。英語ではPhase1, Phase 2, Phase 3 trials (フェーズ・ワン、フェーズ・ツー、フェーズ・スリー・トライアル)と呼ばれていますが、この制度はもともとアメリカのFDA(食品薬品局)が使い始め、それが日本やヨーロッパまたその他の国々に広まったものです。

 第1相試験では少数の健康成人男性に対して投与して、その薬の安全性を確認します。リスクを伴うので健康人の志願者を多く集めるのは困難なため、被験者は極めて少人数です。

2006年に出版された(朝倉書店の)『臨床試験ハンドブック』の27頁には、抗精神病薬や抗がん剤はリスクが高いため、健康成人男性へ投与する第1相試験は免除されると書いてあります。しかし、抗精神病薬で第1相試験を行ったと主張する研究者の論文を筆者は見たことがあります。何が真実かわかりません。正確な情報がなかなか外部者には伝わらないという臨床試験の不透明性は大きな問題です。

しかし第1相試験を行ったといっても、わずか数名の健常者にたいして、1日1回、3日間投与したといった規模のもので、とても長期に渡る安全性を確認したことにはなりません。危険を伴う仕事なので、被験者として健常者を募集するのは困難なため、製薬会社の社員を使って第1相試験をやっているという話を筆者は聞いたことがあります。第1相試験は薬の効能ではなく、安全性や副作用を調べるためのもののはずですが、こうなると第1相試験をどこまで信頼していいものか疑問が出てきます。

統合失調症ではないのに統合失調症と誤診され、抗精神病薬を一生飲めと言われた患者に、その後どんな危険が待ち受けているか想像して見てください。ガンではないのにガンと誤診され、抗がん剤を一生飲めと言われたのに等しいのです。身の毛もよだつような残酷物語ですが、現実にそう言ったことが世の中で日常茶飯事のように極めて頻繁に起こっているのです。

 第2相試験では比較的少数の患者を対象として、薬の有効性や安全性が検討されます。

第3相試験で、採用する用法・用量が決定されます。第3相試験ではより多くの実際の患者に投与して、薬の有効性や安全性を検証します。ここでの大きな問題点の一つは、試験期間が短いということです。また試験期間の長さについての明確な規則やガイドラインがなく、薬によって試験期間はかなり恣意的に決められています。製薬会社にとって都合のよい結果が出るような治験期間がその都度選ばれているようです

抗精神病薬の場合は、第3相試験は4~8週間程度が選ばれることが多いようです。しかし精神科医は患者に対して、統合失調症は高血圧症や糖尿病と同じで、薬は一生飲まなくてはならないと平気で言います。わずか4~8週間だけ薬の安全性、すなわち薬の副作用や有害作用を調べたところで、その薬を一生飲み続けたらどんな有害反応が現れるかわかったものではありません。

例えばベンゾジアゼピン系の抗不安薬は凡そ3ヵ月を超えて服用すると依存が形成され、薬をやめたくても、やめると離脱症状が出るため、やめることが困難なのですが。4~8週間の治験では、依存というおぞましい副作用が発現する前に治験は終わってしまいます



臨床試験を主導しているのは製薬会社である

 今、日本で新薬の承認審査業務を行っているのは、独立行政法人医薬品医療器具総合機構

Pharmeceuticals and Medical Devices Agency - PMDA)です。独立行政法人とはいっても、人事やその他の面で厚労省の支配下にあると言っていいでしょう。2004年に設立されたもので、若い組織です。PMDAが新薬の承認審査を行う時は、製薬会社が審査手数料をPMDAに払いますPMDAの収入の内、国庫から拠出されるのはごくわずかで、収入のほとんどは製薬会社や医療機器メーカーがいわばPMDAの顧客になっているのです。

 そこには利益相反の構図があります。誰でも金を払ってくれるお客さんに喜んでもらいたいという心理が働きます。厳正な審査が影響を受けます。

 さらにもっと重大な問題は、新薬の臨床試験では、製薬会社が自らの費用で、自らの監督下で治験を行っているということです。PMDAは金を出しません。PMDAは製薬会社が提出する治験結果を審査するのみです。治験の進め方を、金を出している製薬会社がコントロールできるのです。製薬会社の望む結果が出るように、データ収集や解析上の操作ができる可能性もあるということです。対象とするのはなにしろ、身体症状ではなく、目に見えない精神症状ですから。



 製薬会社が直接治験を手掛けるのではなくCROclinical research organization)と呼ばれる企業が、製薬会社の下請けとして、製薬会社に代わって治験を実施することが最近多くなってきました。CROは非営利の団体ではなく、あくまでも営利目的の株式会社です。製薬会社から収入を得ています。治験の結果が薬の承認につながれば、製薬会社から高く評価され、将来その製薬会社からまた仕事をもらえるという動機づけが働いています。CROと呼ばれる企業の協会さえあります。

(一般社団法人日本CRO協会 http://www.jcroa.gr.jp/outline/member.html