3月10日の中日新聞である。
リード部分を引用する。
「精神科病院には全国で約32万人が入院している。うち入院期間が1年以上の人は約20万人、5年以上も約11万人を占める。国は11年前から、長期入院患者の地域移行の方針を掲げるが、長期入院はなかなか減らない。2月末には、退院を妨げる偏見をなくしたいと、三重県四日市市で、長期入院経験者が体験を語った。」
ということで、経験者が語った言葉というのが、見出しにもなっている
「退院して自由のよさ実感」というわけだ。
この言葉を読んだとき、私は大きな違和感を抱いた。
この記事を書いた記者は感じなかったのだろうか。
長期入院者が思わず漏らした、この言葉の中に、現在の精神医療(精神科病院)の問題の多くが含まれていることに気づいていて、あえて、この言葉を見出しに選んだのだろうか。
いや、そうではないような気がする。
30年も入院をしていて、ようやく退院できて、「自由」になれて、よかったよかった?
かつてハンセン病療養所に関わったことのある身としては、こういう話は聞くに堪えないものがある。
入園して50年、ようやく「らい予防法」が廃止になって、「自由」になってよかったよかった。そんなふうに単純に思っている元患者さんは一人もいない。
もし、記者に質問をされてそう答えたとしたら、そう答えれば世間や記者が納得すると思って答えただけのことである。
なぜ30年も入院しなければならなかったのか。
問題はそこにある。
社会の偏見があるからというのが、この記事のいう「理由」のようだが、それだけではないだろう。
それに、そもそも30年以上も入院生活を送った人が「社会復帰」して、「自由っていいね」という感想を抱いた、それが「ニュース」なのだろうか? (だとしたら、バカにした話である)。
この講演会を主催したのは、三重県四日市市にある障害保健福祉圏域自立支援協議会というところだ。
当然、バックには精神科病院が控えている。三重県四日市市といえば、「ひなが」だ。
そこに長期入院していた患者さんに、そこがバックにいる団体が主催する講演会で長期入院の経験を語らせる。 「自由っていいね」と。
おかしくないか?
しかし、地元新聞のこの記事は、そういうことに気づいていない(らしい)。
囲みの記事で、「日本の入院日数 突出」としてデータのみあげている。病床数は約4倍、入院日数も300日と突出。そして、毎年1万人以上が「死亡退院」しているという。
1万人以上の死亡退院・・・と聞いて、疑問に思わないのだろうか?
ジャーナリズムとして、こちらにこそ目を向けるべきと思うのだが、つつくと厄介なことが出てくるのか、決して真正面から取り上げようとしない。
マスコミのやり方にはときどき辟易とした気分にさせられる。
ハンセン病問題についてもしかり。小泉さんの「控訴断念」以前、ハンセン病が記事になることはほとんどなかった。いわば、この問題は「打ち捨てられた問題」だったのだ。
それが小泉さん以降、園内のちょっとした動向さえ敏感に反応して記事にする。「人権の森」――この構想が社会面などに大きく写真入りで記事になっているのを見ると、「何をいまらさ」と毒づきたくなる。この構想はすでに入園者自治会による書籍の中で40年も前から叫ばれていたことなのだ。それを潮目が変われば、手のひらを返したように持ち上げて、今度は細部にわたって報道する。
なら、問いたい。かつてあなたたちは「らい予防法」の「違法性」を一度でも問題にしたことがあったか、と。
マスコミとは、「伝えやすいもの」を伝えているだけである。