あるお母さん(Fさん)から、以下のようなメールをいただきました。
14歳のお嬢さんについてです。
監視されている……
今年に入り、中学2年の娘が不登校気味になりました(今は中3です)。
まわりの視線が気になる。授業中も後ろの男子から監視されている。自分がする行動にいちいち反応したりコソコソ言う……等。
朝学校へ行く時間になると、表情が硬くなり泣き出すこともありました。
家でも「階上の住民がうるさくて、自分が部屋にいるとわざとうるさくする」などというので心配になり、友人に紹介された精神科を受診しました。
診察室でこれまでの経過を話すと最初は、「様子をみるか、不安を軽減する薬をだしましょうか」といわれました。
そして、子どもを診察室から出し、先生に私から、階上の住民の騒音に対しての反応や、学校で監視されているといった話をすると、
「統合失調の疑いがあります。薬を出しましょう」といわれました。
ショックでした。私は看護師で精神科での勤務経験はありませんが、実習で分裂病(20数年前なので)の患者さんと関わっており、その時の支離滅裂の会話や、無表情で突っ立ている姿が思い出され、娘がそうなってしまうのが怖くて、薬を飲ませることにしました。
先生は詳しい説明はしてくれなかったので、自分で調べ、最近は早期治療が予後を左右するということを知りました。
フルメジン(定型抗精神病薬)0.25㎎から開始し、様子を見ながら1㎎まで増やされました。
それと、デパスと同種類の抗不安薬も頓服として処方されました。先生は
「見られている感じ、監視されてる感じはどう?」
などと聞きますが、娘はなにも変わらないと言っていました。
セカンドオピニオンを受けるも
私は、薬は飲ませていたものの、本当に統合失調症なのかという気持ちと、まだ14歳なのに脳に作用する薬を飲ませ続けていいものかと心配になり、友人に相談しました。そして、児童精神科の認定医にセカンドオピニオンすることにしたのです。
(※ 日本児童青年精神医学会の認定医は、2014年4月1日現在、全国で218名しかいないそうだ。http://child-adolesc.jp/nintei/ninnteii.html )
その際、精神科のセカンドオピニオンについて、ネットでいろいろ調べました。そうしたところ、かこさんのブログや笠先生のことを知り、いろいろな体験者の方のお話を知るにつけ、「娘は統合失調症ではない」、「薬なんか止めよう」と思ったのです。
それでも、いちおう児童精神科にセカンドオピニオンはしてみました。薬は飲ませたくないことはハッキリ伝え、それでも大丈夫と確認をとるつもりで。
児童精神科の先生は話をとてもよく聞いてくれる先生で、長い時間をかけて診察してくれました。娘の様子、会話から、
「統合失調症ではないから、薬は飲まなくてもいい」といってくれました。
ただ、こういう結果になったのは、私が薬は飲ませたくない、統合失調症という診断に疑問を持っていると最初に伝えていたからかもしれません。それに、監視されている、階上の住民の騒音の件は話さなかったからかもしれません。
ともかく、薬は飲まなくていいといわれ、フルメジンなど服薬はやめました。
児童精神科医?
そして、1か月後の再診時、経過を話すと、先生も相槌をうったりしていましたが、とくにアドバイスもなく、診察が終わろうとしたときです。
「薬はいま飲んでたっけ? どうする?」と言ってきたのです。
たくさんの患者をかかえて大変だろうけど、覚えていないのか……。
「統合失調症ではないから、薬は飲まなくてもいい」と太鼓判を押してくれたあれは何だったんだろうと、なんだか力が抜けました。
一応、次回の受診予約はとったものの、もう行くのはやめようかと思っています。
結局、精神科は投薬治療するところなのですね。この医師にかかり続けて、娘の状態など正直に話すようになったら、結局、薬をまた飲むことになるような気がしました。
不器用なだけ
娘は時々休みますが、別室登校しています。教室にもたまに行けるようになり、進学は通信制にするだのアルバイトをしたいなど、将来のことも少し考えているし、少ないけど仲の良い友人もいます。
まわりの人間関係にとても気を使ってしまうこと、集団が苦手なこと、人にどう見られているかとても気になること……誰でもそんな思いをしたことがあり、大抵の人はやりすごすことができるけど、娘は不器用でつまずいているんだと思います。
階上の人の騒音に対しての被害妄想的なことも最近言わなくなりました。
統合失調症の治療をあのまま続けていたら……と考えると、ぞっとします。本当に精神疾患にさせられるところだったかもと考えると、娘に申し訳ないです。私が娘を病院に連れて行っていたとき、上の娘が言ってました「薬よりも綺麗な景色を見たりしてゆっくりしたほうが治るんじゃないの?」と。
上の娘のほうがよくわかっていたのだなぁと、今になって思います。
不登校―→精神科
Fさんはときどき「不登校の子をもつ親の掲示板」を見ているそうで、そこで、精神科に連れて行こうか迷っているとか、すでに薬を飲ませているとかいうスレッドがあると黙っていられずに、このブログを紹介したこともあるという。
不登校から精神科につながる例は非常に多い。それは、1988年に筑波大学の稲村博(精神科医)が「登校拒否症」と呼んで、治療の対象にしてしまったことが大きく影響していると思われる。
当時の朝日新聞の記事によれば――
「登校拒否症はきちんと治療しておかないと、二十代、三十代まで無気力症として尾を引く心配があることが、約5000人の治療にあたってきた稲村博・筑波大助教授(社会病理学)らの研究グループでの約5年間にわたる相談・治療の結果、わかった」
というのだ。
登校拒否(不登校)――→何らかの症状(たとえばFさんの娘さんのように、監視されているといいだしたり、被害妄想的になったり)――→その状態で精神科を受診すれば、高い確率で統合失調症の診断がくだる(背後には発達障害の要素があるかもしれないのだが)―→投薬治療の開始―→薬の副作用―→病気の悪化ととられて、さらなる投薬―→さらなる悪化―→難治性統合失調症と診断される―→電気療法、あるいはクロザピンを勧められる―→?
今は、情報として、一般の人にも「早期発見、早期治療」は行き渡り、精神疾患についても、「未治療期間は短い方がいい」とか、Fさんも調べたように「早期治療が予後を左右する」とか、ネットでもそういう情報が満載である。
親とすれば、悪化する前に、なんとか病気を食い止めたい……と思うのはごく自然の思いだが、そこに落とし穴がある。
それにしても、母親からの聴取で、ちょっと「それらしいこと」を聞いただけで、すぐに統合失調症の診断を下す安易さは何だろう。
それに、専門であるはずの児童精神科医にしても、その実力はどうなのだろう。統合失調症と発達障害の鑑別ができる医師がどれほどいるのか。日本児童青年精神医学会の認定医である医師のなかには、首を傾げたくなるような名前もリスト中ずいぶん並んでいる。
最近、かなり以前のエントリに着いたコメントにこのようなものがあった。
発達障害を統合失調症と誤診され、誤処方による治療を受けること4年。ひどい薬害にあい、それでも途中で診断が見直され、薬を減らして(ほぼ断薬)ようやく社会に出られるまでになったという。
その人の意見だが、ネットで「幻聴、幻覚、統合失調症」などと検索しても、「発達障害や、大人発達障害と誤診されるから、注意!!」といった情報が上の方に出てこないというのである。
それどころか、いまは、上記のように、幻聴があれば統合失調症、だから、悪化する前に、1日もはやく薬を飲ませた方がいい……そういう情報ばかりである。(その点、Fさんの場合は、このブログや笠先生のブログにたどり着いた)。
Fさんは看護師さんということもあり、現場を知っている、医師を絶対視していない、そういう利点があったと思う。
そして、何より――
(娘は)まわりの人間関係にとても気を使ってしまうこと、集団が苦手なこと、人にどう見られているかとても気になること……誰でもそんな思いをしたことがあり、大抵の人はやりすごすことができるけど、娘は不器用でつまずいているんだ……
Fさんは、娘さんの訴える「見られている感」「被害妄想的発言」を病気ではなく、このようにとらえ直すことができた、それが大きかったような気がする。
ともかく、今回は、精神科に一時はつながりながらも、Uターンしてくることができたケースである。こういう話を聞くと、このブログも多少の役に立つことができて、本当によかったなあと思うのだ。