9月、遅発性ジスキネジアの治療のためボトックス注射を決意。それに対して医師は、

「眼瞼痙攣はボトックスで対応するとして、でも、薬を急に止めてもこの症状は、良くならないから、うつの治療を優先します。あなたは副作用の出やすい体質で、結局今の薬に行き着いたのだから変更できない」という考え。


 

福原さんの眼瞼痙攣は一向に改善せず、それどころか口や舌にも症状が広がりはじめた。

そして、神経内科を受診するとメージュ症候群との診断。

さらに、眼科の医師からは「十分な量のボトックスを注射しているにもかかわらず、まったく効果がないのは、薬剤性が原因である」として、薬の調整をするよう手紙を書いてくれた。



それをもって精神科の主治医に会ったのが去年の10月である。

医師に手紙を渡すと、主治医は、「副作用の出やすい体質だから今の薬に行き着いたので、院長に相談します」と言ったまま出ていったが、その後診察室に呼ばれることはなかったという。

そして、代わりに看護師が出てきて、福原さんが勝手に減薬をしたことを逆手にとって「処方どおりに服用してくれない患者は面倒みられない。紹介状を書くのでどこかに転院してくれ」という始末。

院長との話し合いは、結局、2時間ほど待たされてからようやく実現したものの、福原さんの顔を覗き込み、眼瞼痙攣を見ては「ほら動いた。ほらほら」と物珍しそうに言ったという。そして、眼科医の2度にわたる「精神科の薬の副作用を疑う」意見も、まったくとりあってもらえず、結局は「仕事によるストレスが原因」とまったく話にならなかった。

福原さんは、以前通っていた大学病院への転院を決意した。




遅発性ジストニアの治療へ

福原さんは紹介状を持って、大学病院の医師の診察を受けた。しかし、紹介状を読んだ医師からはどこかピントの外れた質問ばかり。意味の通じない話もたくさんあった。おそらく紹介状の手紙には、前の病院にとって都合のいいことしか書いてなかったのだろうと福原さんはいう。

しかも、過去に服用していた抗精神病薬はルーランだけしか記されていなかった。

しかたがないので、これまですべて保存しておいた「お薬手帳」から、処方の経過を追って調べ、表にして主治医に手渡すことにした。

主治医は遅発性ジスキネジアの治療薬として、リボトリールを処方。福原さんとしては効果には?マークがついているが。

また、自ら調べて、ビタミンEEPA(魚の脂肪に多く含まれる不飽和脂肪酸)などで症状緩和を図ったり、また主治医と相談してビタミンB12ガバペン(ガバペンチン・抗けいれん作用)などを処方してもらったり。

さらには、漢方薬にも期待を寄せ、漢方を扱う内科にも通院し始めた。




何度かめの受診のとき、福原さんは主治医から、以前自分の患者さんの中で、ドグマチールを処方して遅発性ジスキネジアを出してしまったことがある、という話を聞いた。その患者さんは今では外見上症状はわからなくなるまで回復しているという。

その人はボトックス治療はしていない。が、まず、原因となる薬(たとえば、抗精神病薬、一部の抗うつ薬、胃薬など)に気をつけていれば、3~5年と長期にはなるが、必ず良くなる、という主治医の話は、福原さんに希望を与えた。



ボトックス注射は3ヵ月ごとに受けている。効果は2、3回目のころは、まだ目が思うように開かず、みけんや顔がひきつって、頭痛がひどかった。口には注射をしていないので、モグモグして歪んでしまう。

そこで4回目には、口の周囲にも注射。また、標準的な場所から少し変化をつけて注射をしたところ、効果があった。まぶたを開けることがなんとかできる。

それでも、まぶたは閉じている方が楽なので、外出も控えがちである。できれば外には出たくないと福原さんは言う。

そして、ボトックスが切れてくると、まぶたがくっついたようになり、自分では開けることができないため、指でまぶたを抑えながら、やっと前を見て歩く状態。




副作用被害救済制度申請

大学病院に移ってから7ヶ月ほど経過した今年の5月。診察の時に主治医のほうから、

「ボトックス治療は高いんでしょう?」という話になった。さらに、

「副作用被害救済制度への申請の診断書を書きましょうか?」という。

「年齢も若いので、ジスキネジアに自然になるとは考えられないし、以前に飲んでいた抗精神病薬が原因と考えるのが自然でしょう。遅発性の症状は、薬をやめてから症状が出て来て、悪化することもある。今、飲んでいなくても以前、1年以上抗精神病薬を服用していたので、やはり疑わしい」

 そして、「ひとつを原因薬剤として特定することは出来ませんが、診断書の中の原因となる薬剤は、複数記入できるようになっており、問題ないようです」とまで言ってくれた。



 福原さんはさっそく、申請書をインターネットからダウンロードした。また、その他の書類をそろえて提出まで、2ヶ月くらいかかったという。以前の精神科の病院も含めて、書類の作成になんとか協力してもらえたので、申請にこぎつけることができた。

 準備した書類は「診断書」「投薬証明書」「受診証明書」である。

 また、厚生労働省の審査結果は書類を提出してから8ヶ月ほどもかかるので、現時点ではまだ結果はわかっていない。

 それでも福原さんとすれば、医師から遅発性ジスキネジアの原因が薬剤性であるとの診断が出て、申請にこぎつけることができただけでも意義があったと思う。

 確かに、そうだろう。

 ジスキネジアの症状が出ても、それが副作用・原因が薬剤性であると認められることなく、いかなる支援も受けられないまま、個人個人でその治療法を探し、それぞれが治療費を負担しながら、治療を続けている人は、精神医療の果て遅発性ジスキネジアを発症した人の中に大勢いるはずだ。

 ましてや過去に投薬された薬にまでさかのぼって、その副作用を疑い、薬剤性と認めてもらえたということは、幸運というしかないのが現状である。



 しかし、福原さんの現実の症状は、まだその範囲が広がり続けているという。左腕のねじれるような痛み(腕そのものはねじれていないが)、舌がいつも奥の方に動いて、ひきつったり、歯とこすれて痛みがあったり、首の痛み、体のだるさ、ゆううつ感。仕事も休みがちだという。

 ちなみに現在の処方は、1日量で、

うつの治療

 レメロン30mg

 ラフマ成分のサプリメント(主治医の許可の下、個人的に飲んでいる)

睡眠改善として

 マイスリー10mg(頓服程度)

 レンドルミンD0.25mg

 ロヒプノール0.5mg

遅発性ジスキネジアの治療(痛み緩和と修復作用を期待)

 リボトリール0.5mg

 ガバペン1200mg

 ユベラ(ビタミンE)600mg

 エパテールS600(EPA製剤)1800mg

 メチコバール(ビタミンB12)1.5mg

漢方薬

 柴胡加竜骨牡蠣湯6g(神経を落ち着け症状緩和)

 疎経活血湯7.5g(首・肩こりの痛みの緩和、血流を良くする)

 芍薬甘草附子湯3g(腕の痛み緩和の頓服)

 


 しかし、実感としては、リボトリールは効果なし。ガバペンは疼痛を抑える効果を期待しているが、こちらも効果なしなので、今後はやめる方向で考えているという。

 現在の福原さんの状態は、ボトックス治療なしには目が開かないので、仕事どころか家の中での生活もままならない。ボトックス治療をしても、症状が強い日には行動にどうしても制限がでてしまう。車の運転はあきらめた。外出も会社に行くときや必要に迫れない限りなるべく控えるようになっている。

 また、首や肩の強い緊張。鉄板のように硬くなり、どこが痛いのかもわからない状態で、カイロプラクティクスに通っている。



実際、多剤大量処方を長年受け、抗精神病薬の投薬をされ、結果、遅発性ジスキネジアの症状が出たとしても、原因薬の特定をしない、あるいはそれを認めたがらない医師が非常に多い。

したがって、「独立行政法人 医薬品医療機器総合機構」で行っている「医薬品副作用被害救済制度」に申請すらできない状態である。

まして、申請には条件として「入院治療が原則」という壁がある。福原さんも遅発性ジスキネジアの治療としての入院はないので、審査の結果は保証されていないのが実情だ。

また、実際、申請をする段階で、インターネットから書類をダウンロードできなかったら、申請できなかったかもしれないと福原さんはいう。

確認したいことがあり、申請先の問い合わせ窓口に電話をしたところ、まず聞かれたのが、「入院治療をしましたか」ということだった。「入院していない」と答えると、申請は難しいようなことを言われたので、そこから直接書類を取り寄せるとしたら、送ってもらえたかどうかわからなかったという。

そうした現状であるから、電話をかけ、そこでまず申請を断念している人も多いのではないだろうか。

また、原因薬を服用中に転院していると、投薬証明が複数必要になったり、ボトックス治療を転院して複数の医療機関で受けていると受診証明書も医療機関ごとに複数必要になるので、書類をそろえること自体、かなり煩雑、困難になると予想される。




遅発性ジスキネジアにならないためには、副作用止めではなくて、薬を必要最小限に抑えて、予防することである。ジスキネジアは治療法が確立されていないのだから、なってしまったら患者の苦労は並大抵のものではなくなるのだ。

また、現在飲んでいる薬だけで副作用をとらえるのは間違っている。過去の服薬までさかのぼって副作用を考えるべきである。そもそも「遅発性」とついているくらいなのだ。にもかかわらず、福原さんの前の主治医は、そのとき飲んでいる薬だけを見て、「それはあり得ない」ときっぱり否定してしまっている。

以前のエントリでも遅発性ジスキネジアを取り上げたことがあるが、稀な症状のためかなかなか理解されにくいとその人も言っていた。福原さんも、

「精神薬によって、実際、こんな病気になることもあるんだということを知っていただけたら、ありがたいと思います。

遅発性ジスキネジアは、日常生活に支障をきたし、悪くすれば介助が必要な病気だということを理解いただけたらと思います。

そして、実際、その病気になってしまった人には、あきらめないで、ほしい。私は理解ある医師に巡り合えて原因薬の特定ができました。そういう医師もいます。

 また、あきらめていた方々の力になれればと思っています。」



 福原さんのブログ

「ふくちゃんの部屋」http://ameblo.jp/fuku54321/entry-11006870630.html