ベンゾジアゼピンについて書くと、反響が大きいのは、それだけこの「安全」と言われる薬による「被害」の数が多いということだろう。

 確かにベンゾそのものは「安全」であり、ベンゾで死に至ることはほとんどないと言っていいかもしれない。しかし、ベンゾがもたらすさまざまな副作用、離脱症状によって、本人も知らぬ間に「死」に結びつくことは大いにありうると思う。その意味で、ベンゾはやはり「安全」な薬とは言えない。



 今回寄せられた「被害報告」はおよそ4ヵ月のベンゾ服用である。それでもさまざまな問題を引き起こした。

 期間が短いから、あるいは少量だから、さらには単剤だから、「そんなはずはない」という意見(とくに医師側の)をよく耳にする。しかし、現にこうして「被害」は起きているのだ。離脱症状はせいぜい~くらいの期間しか続かない。そうした意見もよく耳にする。しかし、現にそれ以上の期間、離脱症状を抱える人はたくさんいる。

「安全」なるがゆえに、精神科に限らず他科においても気軽に処方されるベンゾジアゼピンだが、だからこそ、その薬が持つ破壊力(爆発的ではない破壊力)で、処方される数の多さに比例して信じられない数の被害が、本人さえそうとは気づかないうちに、じわじわと日本中にはびこっている現実は、あまりに恐ろしい。





今回、メールを寄せてくれたのは、35歳、主婦の方、仮にC子さんという。

この4月の半ば、ご主人との関係がぎくしゃくし、そのため、C子さんは実家に戻っていたが、うつ的な状態に陥り、インターネットでメンタル系の病院を検索。実家近くの医院ですぐに予約が取れると言うので、受診することにした。

夫婦の問題など、医師にいろいろ相談をすると、医師は「一時的に落ち込んでるだけだから抗うつ剤じゃなくて抗不安薬、それと睡眠薬を出します」と言う。

 以前、他の医院に通院した経験のあるC子さんは、そのとき処方されたデパスが効果があった記憶があったのでデパスを希望したが、医師いわく、

「私はデパスは好きじゃない。コンスタン(アルプラゾラム)を出します。それとレンドルミン(ブロチゾラム)」。

そこで、1日量、コンスタン0.4㎎を朝晩1錠ずつ+レンドルミン1錠を処方された。

 離脱症状について説明は一切無く、「飲んでる間は妊娠しないように」と言われただけだった。



 1週間後、再度来院した際、気持ちが落ち着かないと言うと、コンスタン0.4㎎を、1日2回から3回に増量された(+レンドルミン1錠は変わらず)。

2週間後、今回の憂鬱の原因は、ご主人との喧嘩のほかに元々の自分の性格や考え方のせいではないか? と自分を責める気持ちが湧いてきたため、医師に言うと、前回の処方にプラスしてレメロン(ミルタザピン、抗うつ薬)を1日1錠(半錠を朝晩2回)が処方された。

「レメロンはとてもいい薬で私は大好き」と医師。

帰ってその日の夜に半錠飲んだところ、ひどい吐き気に襲われて、中止。

 1週間後、レメロンは吐き気がして飲めないと医師に相談したところ元の処方に戻される。


 2週間後、やはり自分が悪い、何をしていても楽しめず罪悪感を持ってしまうと医師に相談したところ、「罪業感が強いのかな…」と言われ、前回の処方にプラスしてサインバルタ(ディロキセチン、抗うつ薬)が処方された。

「これは新しいお薬で副作用が大変少ないという特徴があるから、レメロンが駄目だったあなたも大丈夫かもしれない」

C子さんは医師からサインバルタのパンフレットを渡された。


帰宅後、サインバルタを1錠飲んだが、またしても吐き気に襲われ、さらには、倦怠感、味わったことのないような絶望感、死にたくてたまらなくなり、ジッとしていることができない状態に。食欲もほとんど無くなり、その状態が三日間続いた。


サインバルタが合わなかった事を医師に報告すると、処方はコンスタン0.8㎎を朝昼晩+レンドルミン1錠に。コンスタンの量が倍に増えた。

そして、後日、医師が言うには「サインバルタ、あなたが飲んで調子悪くなったことをちゃんと報告しておいたから。『こんなひどい薬作るな!』って」と言って笑っていた。

 C子さんいわく。

「今思えば、サインバルタはわりと新しい薬だし(ちなみに2010年4月発売)、データが欲しくて処方されたのかなという気がします」




しかし、7月に入り、ご主人から連絡がはいり、その後しばらくは仲良く旅行に行ったり、「新しい部屋を探してまた一緒に暮らそう」という話が出て、気持ちが一気に明るくなった。

薬も、医師から「コンスタンは不安な時だけ飲めばいいよ」と言われていたため、7月の前半ぐらいまではちょっと気分が塞いだ日だけ飲むようにしていた。


その後もご主人とときたま会っていたが、しかし、会えるのが楽しみなはずなのに何故か不安で仕方ない…。自分で自分の気持ちがよくわからない状態に陥り、コンスタンを毎日飲むように。

しかし、コンスタン0.8㎎を3回、つまり医師の指示した1日に2.4㎎飲んでも、以前より効果が感じられない。

しかも、歩くとフラフラして転んだりつまずいたり。ご主人からも「一体どうしたの?」と心配されるほどになった。

そんなことが続いていた7月末日、C子さんはご主人に対してつまらない事でキレて、怒鳴ってしまった。結局、その後、ご主人とはケンカ別れの状態が続いている。

「元々短気なところはあるけれど、なんであんな事で我慢できないほどイライラして怒鳴ってしまったのかわからない。自分じゃない誰かに操られたみたいな気がする」とC子さんはいう。



8月に入り医師に相談。

思い返してみると、コンスタン0.8㎎を朝昼晩、という処方を守らず、午前中だけで0.4㎎×3を飲んでしまったこともあったので正直に話すと、

「処方を守らない人には薬は出せない。それにしてもどうしてそんなにうまくいかないの? 何ですぐキレるの? カッとしたらトイレに籠るとかして、いったん時間をおきなさい。あなたは自分を律することを覚えなきゃ駄目だ」と言われる。

処方は、コンスタン0.4㎎を朝晩+レンドルミン1錠。



しかし、C子さんはその後通院をやめてしまった。

薬も8月12日に一気に断薬。突然の断薬はよくないとわかっていたが、薬を目にするだけで嫌な気持ちになり、またネットなどでいろいろ調べて依存の恐ろしさを知ったためだった。


 医師からの服薬の指導については、「不安な時だけ飲んで」と言われたり、「コツコツ毎日飲んで」と言われたり、曖昧さを感じたという。

そして、私が感じるのは、C子さんが処方を守らず、午前中に薬を多めに飲んでしまうということを聞いた医師は、なぜ「常用量依存」のことに思い至らなかったのだろうか、ということだ。

3ヵ月半くらいの服薬で、それは「あり得ない」と考えたのか、それとも常用量依存のことを知らないのか、いや、もともとベンゾジアゼピンの「依存」について知らないのか……。

「なんですぐキレるの?」と医師が言ったというが、ベンゾジアゼピンの副作用である逆説反応(脱抑制)かも、という想像は働かなかったのだろうか。すべて患者の性格、病気のせいというわけか。



断薬してから10日ほど経過しているC子さんだが、現在の離脱症状は、倦怠感、目の調子の悪さ、頭痛、気分が不安定でひどい時には絶望しか見えず、死ぬこと以外選択肢が考えられなくなる、無表情、フラフラしていて机に体をぶつけてしまう、特に右半身に力が入りづらくしびれがある…等々。

「特に精神的に辛くて、朝目覚めると『また朝が来ちゃった…』と思うし、1日を乗り越えるだけで精一杯です。生きていてこんな地獄は初めてで、一秒一秒が重いです。


家族で夕飯を食べている時、自分と同い年の人が亡くなったニュースを見て、急に号泣してしまったこともあります。家族の前で泣くことは無かったので母が心配していました。

感情を抑えられないのと、『何でこの人は亡くなったのに私は生きてるんだろう…』という思いで。


最近はサイクリングをして気をそらそうとしていますが、注意力が散漫で、車が走ってきているのに無理矢理道を渡ろうとしてクラクションを鳴らされたりします。

危険だとわかっているのに、違う自分に脳を乗っ取られて操られている感覚です。


今はちょっと落ち着いていますが、母に対して強い口調で文句を言ったり、仕事が詰まっていて辛い思いをしている弟を全く想いやれなかったり、本当に元の自分はどこに行ってしまったのか…と呆然としてしまいます。


 まだ実家にいますが、いつまでもいられる雰囲気ではないので、限界になったら、一人でどこか遠くに行こうかな……と考えています。自殺は怖くてできないけれど……。

 離脱症状で特につらいのは、絶望しか見えず、『どうなってもいい』と思うこと。そのため、危険な行為に走ってしまう自分を止められなくなる時があります。何をしていても虚しいから。

 また、顔や胸のあたり、背中がブツブツだらけになったのも辛いです。」




 そして、このような状態はなかなか周囲に人に理解されない。医師でさえ「なぜすぐにキレるのか」と言うくらいである。

 C子さんが言うには、「夫婦間のことで、何度も友だちに暗い話をするのも悪いので、主治医しか安心して話せる人がいなかった。それも病院に依存した理由です」

 人生の中で起きるさまざまな問題を一人で抱え込まざるを得ないような環境、あるいは社会の状況。話を聞いてくれるのが精神科の医師しかいなかったという現実。

 しかし、精神科は現在のところ多くが、話を聞くのが仕事ではなく、患者の訴える症状を抑える薬を出すことだけが仕事である。眠れない、不安だといえば、その裏にある問題は無視して――多少話を聞いてくれることがあるかもしれないが、そのことと処方はまったく関係なく、眠れる薬や不安を抑える薬を出すだけだ。(C子さんの場合、せめて抗うつ薬が処方されなかっただけまだましかもしれないが。)

 そしてその多くが「安全」なベンゾジアゼピンであるならば、医師としてこれほど「便利」な薬はない。




 以前も紹介したことがあるが、独立行政法人病院機構菊池病院の研究報告によると、ベンゾジアゼピンを処方する医師側のメリットとして、次のようなことが挙げられている。

・診断をつけずに処方しても問題が起きることが少ない

・本人の訴えに応じて処方すればよく、治療計画は不要で、機械的な処方ができる

・服用量や服用時間、頓服について、患者の判断に任せても、問題になることが少ない

・誰でも服用している・内科でも処方する「軽い安定剤」という名前で広く知られており、患者に警戒心を起こさない

・抗精神病薬や抗うつ薬につきまとう「精神病」というマイナスのイメージがない

医院経営への影響

・常用量依存を起こすことにより、患者が受診を怠らないようになる





 まさにC子さんへの処方のされ方、そのままである。

 ベンゾが医師にとって、いかに気軽な薬であるか。 

 そして、こうした医師側の「都合」によっていとも気軽に処方され、いざやめようという時に、地獄の苦しみを味わうのは患者自身なのだ。

 こんな「反医療」的な行為がなぜまかり通っているのか。



 現在は離脱症状に苦しむC子さんだが、絶対よくなると、回復を信じて、前を向いてい1日1日を、生きていってほしい。