慎吾さん自身から私宛に送られてきたメールの一部。


「退院後になっても、病名・治療方法・経緯などについて、何らの説明も受けず、退院直後の、身体がまったく動かない原因とか、その他数多くの体調の不具合は「単に長期入院していたから」ぐらいに思っておりました。

しかし、退院直前から「何かがおかしい」との直感から、月1回の外来での問診時に、一つ一つ質問をし、徐々に誤診である疑いから、1年後には確信となり、外来で処方されるリーマスを退院半年後には服用を中止しました。大橋担当医も父も、口を酸っぱくするほど「2年間、薬を飲み続けなければ再発する」と言い続けておりましたが!」



 そして、前回書いたように、田中女医と息子、小林倫子さんが、慎吾さんをどのように入院させたらいいかの相談が行われ、しかし、実行されることがないまま、カルテはその日から約半月後の1997年2月13日に飛んでいる。

 担当医も、それまでの田中女医から、吉川医師(仮名――北海道の病院から赴任してきた新任の医長)に変更。しかも、その少し前、病院内では慎吾さんの入院を知っている看護師などが大量異動させられている。



97年2月13日 吉川敏夫

 1月末、発病しそうになった。知らなくてよいことを知ったのがきっかけ。・・・父には尽くしてきた。94年の時は、父がここに入院中に脅迫にきた。父は相手にあやまった。今年1月、下手に出て父に頼んだら、ポンとけられた。10日後に父を殴った。今回切れそうになったが、何とか落ち着いた。


 とあり、意味が少々不明だが、慎吾さんの現在の妻、千鶴子さんによると、つまり、94年に慎吾さんが医療保護入院をしているとき、自分の会社を乗っ取られそうになった。にもかかわらず、相手が父の会社の関係者(頭があがらない)ということもあり、怒るどころか父は反対に相手にあやまり、自分をないがしろにしたため、1月に父を殴った。そして、今回もまた同様のこと(知らなくていいことを知った)があったが、なんとかこらえることができた、と。


 

 要するに、94年の医療保護入院には、慎吾さんの会社を何とかして乗っ取ろうとしている人たちの影がちらつくということである。そうした危機感があったための慎吾さんの感情の高ぶり。そして、企む人たちがそれを巧妙に利用した……。

 カルテには、慎吾さんの訴えをそのまま記す吉川医師の文字――前出のようなメモ程度の走り書きだが――残されていて、吉川医師が慎吾さんの話に耳を傾けている様子がうかがえる。


 

 また、慎吾さんによると、吉川医長は、慎吾さんを初めて診察したときに、宣言するようにこう言ったという。

「私は患者を強制的に入院させません。患者本人が入院の意思がなければ入院させません」

「電気ショックのような野蛮な治療はしません」

「今では精神病棟は開放病棟で、隔離はしません」

 そして、決定的なのは、

「あなたの年齢で、過去に発病したことがない人は、躁病にはなりません。あなたの場合は心因反応と言って、心に原因があったのだと思います」

 と誤診を認めるような発言をしているのだ。

カルテにも上記の下に、

「心因反応」であろう 薬も2年間飲んでいない」と記されている。



そして、吉川医師に担当が代わったその日から、躁病の薬であるリーマスは外され、眠るためにサイレース、ユーロジン、そして腰痛のためのロキソニンのみの処方になっているのだ。(もっとも、慎吾さん自身は、メールにもある通り、不信感からリーマスは半年飲んだだけで、服薬していなかったが。)



 そして、新任の吉川医長が「心因反応」云々を持ちだしたときのことを、後に慎吾さんは振り返って、メールにこう書く。

「(吉川医師が)貴方の場合は、心因反応と言って、心に原因の」と言われたので、私は途中でうなずいて遮り、「承知しています。ですから2年前からリーマスは服用してません」と答えました。……

(その後、吉川医師は)PCに向かい、マウスを持った途端に右手がブルブル大きく震え出し、「リーマス、あ、これは要らないですね。薬は何を出したらいいですか? 次の予約は何時にしたらいいですか? あなたは医者ができますね、いや、何でもできますね」と言いながら、しばらく右手の震えが止まりませんでした。」

 つまり、吉川医師は、本人がすでに誤診に気がついていることを知り、かなりあわてたということだろう。



その後、3月27日には、慎吾さんの叔母にあたる(仮に)小林教子さん(小林倫子とは無関係。姓が同じだったので、親戚のふりをしたのか?)が吉川医師を訪ねている。

そして、叔母の口から、家族間の問題、父親との関係(確執)、きょうだいの関係など成育歴が語られ、また、そうした人間関係の上に成り立っている会社経営(父の会社と慎吾さんの会社)に関するごたごたなども告げられている。



また、小林倫子については、

小林倫子(血縁がない!! と吉川医師の文字)、本人と仕事上の知り合い。

この人がどうして入り込んだのか不明。

この人が、本人が麻薬をやっているので、入院しないとダメと、94年7月1日(家族相談の日)(当時の担当医である)苅田医師(仮名)に話した。

代議士、暴力団、芸能関係に顔広い(現在57歳くらい)


 1月末(つまり田中女医と小林倫子、息子が強制入院の相談をしていたが、それは)父が小林倫子に電話をして(入院させるため)、それから妹(慎吾さんの)からも小林倫子に電話した。

 小林倫子に対する小林教子の評価は極めて批判的!!


94年7月4日の入院は、小林倫子の訴えを真に受けた苅田医師が一方的に本人をとり抑えて入院させた可能性があるとさえ思っている

(本人に私のこと(叔母・小林教子)のこと、伝えてよい。事情を伝えたことを伝えてよい)




 

 ここに出てくる苅田医師というのは、当時、慎吾さんの家と地続きにある道場で行われていた合気道の練習に通ってきていて、慎吾さんの父親とは顔見知りだった。

 そうした関係もあり、慎吾さんは、あの日の強制入院は、父親とこの苅田医師との間で、事前のうち合わせたがあったものと考えている。(この苅田医師は、慎吾さんが入院後しばらくして担当を外れ、大橋医師が担当となった。)

 また、入院中に行われた電気ショック療法において、苅田医師の電話で了解したのは、父親である。

 小林倫子さんは慎吾さんに多額の借金、というより騙し取ったといったほうがいいお金(退院後も含めると、数千万円のお金)があった。

 さらに、前妻との結婚は、父親が望んだものであり、前妻と父親との関係はかなりよかったという。

 そうした裏事情があり、慎吾さんの経営する会社でトラブルがあって、「心因反応」として、感情を爆発させることがあったとしても、妻と、親戚になりすまして同行した小林倫子という女性の言い分を「真に受けて」、医療保護入院させるとは……しかも、「治療」として、薬漬け、さらには電気ショック療法を29回も施すとは……。

 病院側としては、慎吾さんの入院後、早い段階から「誤診」であることに気づいていたのだろうか。慎吾さんとすれば――、

「状況証拠しかありませんが……医療過誤に気づいた病院側が、私の記憶を欠落させる目的で電気ショックを施したことは明白」との思いである。



 そして、最後の診察の1998年4月14日、吉川医師の記録。

本人) 1年間、忙しくて来れなかった。

 平成6年7月4日から9月13日、入院時のことで民事訴訟になっている。

 電気ショック療法のため、記憶障害を呈したことを認める。


「入院時のことで民事訴訟になっている」とは、少し言葉が足りないが、入院していたため、結局、慎吾さんの会社は、小林倫子さんと彼女と組んだ会社の人間によって乗っ取られ、そのために裁判沙汰になっているということだ。裁判で忙しく、1年間、くることができなかったと。



そして、同日の吉川医師による「診断書」

「平成6年7月4日から同年9月13日の間、当科に入院した。その間、通電療法を行い、そのために記憶の欠落を生じたことを認める」 

 以上のとおり、診断します。平成10年4月14日

 


 結局、ECTは29回行われた。

 また、「身体拘束記録」によると、約70日間の入院期間に、42回身体拘束が行われている。拘束理由は42回ともすべて「多動又は不穏が顕著である場合」とされ、指定医はすべて「苅田」のサインが残されている。



 入院時の診断名は「躁病」であった。

 しかし、入院から3年後、担当医となった吉川医長は誤診であったかのようなことを匂わせている。

 父親と苅田医師と、そして親戚になりすまして相談に病院を訪れた小林倫子という女性と、妻ときょうだい……家族や金銭がらみの問題が精神医療という場に持ち込まれたとき、そのものが持つもともとの不透明さや曖昧さが、なんとも恐ろしい結果を招くことになる。それをわかって利用する側は利用をし、利用された方もわかっていながら加担しているところがなきにしもあらずだ。



 妻、千鶴子さんからのメール

何度も目を通したカルテなのに、ブログを読んでは、涙、また涙です。
日本中探しても、これほどまでに私達の気持ちを描写し、訴えてくれるペンはなかったと断言できます。私のメールは公開してくださって構いません。
「奇妙な入院」シリーズが終わったら、涙を拭いていざ、真っ直ぐに奇妙な医療の扉を叩きに行きましょう。またお力をお貸し下さいませ。感謝」



 慎吾さんと千鶴子さんは、精神医療のこうした不透明さ、電気ショック療法の非人間性、記憶を消されるということが、人間にとってどれほどのダメージになるか……をこれから世に問うていきたいと考えている。

 慎吾さんも千鶴子さんも、このシリーズを読まれての感想を聞かせてほしいとおっしゃっています。どうぞお寄せください。コメント欄でもメールでも結構です。

 kakosan3@gmail.com