7月14日、看護記録より。
6時、目覚め不良。声かけには返答するが、はっきりせず。 筋肉痛(全身)のため、臥床がち。眠気も強い。
12時25分 眠気強いため、硫酸アトロピンのみ。 ECT 100ボルト、3秒、⑧⑨⑩施行。 呼吸回復良好。 2回目終了後、運動不安強い、四肢抑制。 終了後、すぐベッドへ移床。タッチガード装着。四肢抑制。
14時 目覚める。四肢抑制除去する。ありがとうと何度も礼を言う。 食事、食べたくない、体が痛くてじっとしていたいと言う。
17時 夕食促すが、筋肉痛強く訴える。起き上がるが、床に腰をつき動けず。 夕食後、自床でウトウトしている。
20時40分 薬内服スムース。トイレに促し、自尿みられる。 一度起き上がったためか、休憩室に出てきて、喫煙する。筋肉痛持続。 |
7月15日 看護記録より。
6時 目覚め不良。腹満著明、腹鳴微弱。
「なんだか緊張しちゃうなあ」
10時30分 入室スムース。 主治医より、イソゾール+硫酸アトロピン。 10時39分 ECT 100ボルト、3秒、3回施行。⑪⑫⑬。3回ともクランプ良好。 呼吸回復34-36秒。口唇チアノーゼみられるが、呼吸回復とともに消失する。 1回目より下肢抑制。3回目終了後より両上肢抑制する。
13時30分 腰が痛い。歩行できない様子で、車イスにて自室に戻る。 その後、そのまま車イスにて昼食6、7割摂取。内服スムース。
18時30分 家人より差し入れのパンを促すが、食べず。 19時20分 夕食促すと、背骨が折れたみたいと、やっと座位になり、夕食6割摂取。 |
7月15日で予定されていたECT、13回は終了した。
一度の施行は、100ボルトを3秒、である。呼吸が回復するまでに、常に30秒以上の時間を要している、つまり30秒以上、呼吸が停止しているということだ。舌根が沈下し、口唇チアノーゼが出現し、運動不安が見られる。
そして、状態はどんどん悪くなっていく……。
その後の慎吾さんの状態で目立つのは、腹部の膨満感(つまり便秘、薬の副作用によるものだろう)、またECTによる全身の筋肉痛である。
また、毎朝の目覚めも悪く、日中も眠っていることが多くなり、意識もはっきりしなくなっている。
看護記録には、「日付、曜日、場所わからず。名前も、肩を叩かれて返事をする。体温の計り方がわからない。表情、キョトンとしている」。
しかし、それが医師の見方となると、以下のようなものだ。
7月15日医師の記録
だいぶマイルドになった。腰痛の訴えはない。 |
7月19日医師の記録
呆けているようだ(演技ではないと思う) |
しかし、その後、再び、「外に出たい」との要求が始まる。
7月23日の看護記録。
17時「車のカギを貸してください。大切な用があるんです。ちょっと行ってきます」 ドアから出ようとするが、易怒的になることなく、説明にはとりあえず納得する。 ひまをもてあましているのか、配膳を手伝う。穏やか。
19時 休憩室や廊下をウロウロするのは同様。入口付近に近付いては「出して」と。 「ねえ、Nsさん、30分だけでも出して」 外出許可が出ていないし、外出できないことを説明。 その後も廊下をウロウロしたり、カウンター付近のものをいじったりしている。 21時 タッチガード装着。 |
その後も慎吾さんは、「家がゴタゴタしている、仕事に行かなければいけない」と言ったり、早朝、買い物に出かけようとしたりしている。
「僕はパーーだから、入院しているの。ここから出してくれよ。ここから出して下さい。25日だから、今日給料日なんです」
しかし、こうした一見異常にも見えるしつこい「外出要求」は、入院のいきさつ、そしてその後の薬の影響やECTの影響を考慮すれば、また別の見方もあるのではないだろうか。それを「病識がない」として、薬がさらに増量されることになるのである。
7月25日 医師の記録から
外に出してほしい、会社でやらなくてはいけないことがあるからと言い出し、夕方父親も交えて入院前の状況を説明するが、それは嘘だと納得しない。退院要求が日増しに強くなる。病識はないまま。 7月28日より、ECT2クール目(8月3日まで。16回行う) |
7月28日 医師の記録
一昨日、昨日と、父親に入院時の状態を聞かされているのだが、そんなことはない、おかしいわけがない、と信じない。 日付わからず。8月7日だと言う。 自分も入院中、父親も入院中(注、癌のため同病院の他科に入院している)で、会社のほうがこのままではダメになってしまうから、とにかく一度出してほしいと訴える。 病識、相変わらずなし。 調子自体は、もともとのキャラクターが出ているものだと思う。 limasu(リーマス、躁病の薬)600㎎、開始する。
退院要求しつこい。とにかく自分は会社に行ってしなければならないから、出せとだけ。躁病で、正常な状態ではなかったと背知目うしても聞き入れない。 本日よりECT(2クール目) |
7月28日 看護記録。
午前 休憩室でウロウロしているが、ときどき自室に戻り荷物をいじっている。 誰かがドアを開けると、そばに寄ったり、荷物を出し入れしていると、手伝う素振りを見せている。 離院することはないが、要求はかなり強く、しつこい。
12時30分 610号室入室。 イソゾール+硫酸アトロピン。 ECT 100Ⅴ 3秒 4回。1回目よりクランプ良好。呼吸回復32-44秒。 1回目終了後、下肢抑制する。顔面チアノーゼあるが、呼吸回復とともに軽減する。 痛覚反応出現まで、かなり長い。終了後、上肢抑制する。
13時55分 アナテンゾールデポ2、筋注 体動あるが、まだ意識混濁あり。そのまま様子をみる。
15時 声かけに目覚めるが、起き上がれず。再入眠。
17時、知人面会あり。易怒的となったり、興奮することなし。面会人、帰るとき、手を握り、一緒に行きたいんだと言うが、面会人がまたねと手を振ると、本人も手を振り、無理に出ようとすることなし。 |
7月29日看護記録
6時 タッチガード装着したまま起き上がろうとしている。すでに尿失禁あり。
10時 車イスにて、610号室入室。スムース。 10時18分 イソゾール+硫酸アトロピン。 ECT 100Ⅴ 3秒 3回。⑤⑥⑦施行。3回ともクランプ良好。呼吸回復28秒―42秒かかる。1回目終了後、両下肢、3回目終了後、両上肢抑制。
14時 声かけにて目覚める。右肩、背部にかけての疼痛あり。 14時20分 自分で立とうとした様子で、車イスから転倒する。
18時 「ちょっと出してくれない? 上に行くから」 入口をガチャガチャさせることあるが、しつこさなく、説明に了解している。
21時 オムツ装着 タッチガード装着。 |
(つづく)