花梨さん(仮名)という41歳の女性から体験談が寄せられましたので、掲載します。



不妊治療のために断薬

「私は ウツで神経科にかかり(平成7年頃初診)病院も転々と変えました。2人目の主治医のとき セパゾン(クロキサゾラム)デパス(エチゾラム)をもらい 毎日まじめに飲んでいました。

その頃 結婚して3年以上たっていて 大きな病院で不妊治療をはじめました。産婦人科の先生に「血液検査の結果 排卵がうまくいってない。プロラクチン(乳汁分泌ホルモン)の数値が高い……原因は安定剤です。子供が欲しければ、まずは安定剤をやめることから。どっちにしろ妊娠したら、どんな薬も止めなければいけませんから」とのことでした。

私は シンプルに納得しました。

でも、そこからが私の地獄の始まりでした。

神経科の主治医に伝えると すごく感情的に怒っていました。「この薬でプロラクチンがあがることなんて絶対無い!」と。そしてこんなことも言われました。

「セパゾンは良い薬ですよ。僕も飲んでいます。僕やあなたのような人はセパゾン飲んで、少しボーットしてるくらいがちょうどいいんですよ」

私は頭をぼーっとさせるために薬を飲んでいたのか? と思いました。それに、肝心のウツはよくならないし、となんだか腹がたち、とにかく薬をやめたいことを訴えました。すると主治医は、「どうしてもやめるならデパスから。次にセパソン」とやめる順番だけなんとか教えてくれました。しかし、詳しい方法は教えてくれません。それで、自分なりにセパゾンを4分の1ずつ、1週間単位で減らしていったり さまざまな方法でがんばりましたが、本当に地獄のような苦しみでした。

一番苦しかったのは 不眠です。私はもともと不眠症ではありませんでした。でも薬をやめると不眠症になってしまいました。本当に眠れないのです。入眠しかかると 突然心臓がバクバクしだして その鼓動に自分がびっくりして起きてしまう。とにかくクタクタなのに眠れない。また眠れないんじゃないかと思って、布団が怖くなるほどでした。

2番目に苦しかったのは極度の冷え性です。そして胃腸障害。食べられないし すごい下痢。体も胃腸も冷えきってしまいました。頭が割れそうな頭痛。そして下腹一面にすごいかゆみを伴う発疹。そして、めまい。座っていても 床が抜けそうなすごいめまいが急に襲ってきました。



近所の漢方を扱う薬局に相談し、症状に合う漢方を処方してもらいました。それで、めまいや頭痛 胃腸障害はかなり回復しましたが、不眠と冷えが相変わらず辛くて、もう限界かと思ったころ、知人から鍼灸院を教えてもらい通いはじめました。それが劇的に効いて、よくなったんです。嬉しかったです。

そのうち 漢方も鍼灸も卒業できるだろうとがんばりましたが、どちらも保険がきかないので、一月に5万円ほどかかりました。どちらかというと、漢方は手放せなかったので、ある程度落ち着いてきたころ、漢方のみでがんばりました。

病院で保険のきく漢方も利用しましたが、うまくいかず、成分の濃いイスクラの漢方を、保険の効かない薬局でやむを得ず購入し続けました。漢方代は毎月3万円以上かかりました。病院でもらえるものも利用しながら、何種類もの漢方を飲み、いろんな症状に耐えました。

また、ウォーキングをして、体を鍛えることにも挑戦。

それでも不眠症と冷え症は辛く、とくに不眠は 不眠恐怖へと変わり 今日は眠れるのだろうか? 明日は? 眠れるかどうかがなぜこんなに怖いのか? 自分でも嫌気がさしてきましたが、でもそれなりに希望をもちながら5年ほどたちました。

5年間、私はきっぱりデパスとセバゾンを断薬していたのです。

でも、その間、不妊治療に進むことはありませんでした。

不妊治療の第一歩が断薬だったので、断薬してから不妊治療開始という感じでしたが、極度の冷え性からホルモンバランスが崩れたせいかすごい生理不順になってしまい、体調が悪すぎて、いつのまにか子供が欲しいなんて 夢の夢。結局 断薬できていた5年間、体調の悪いまま不妊治療をする気にもなれず お金も無かったので、自然に子供はあきらめることになりました。



リハビリの不安から再び服薬

断薬5年がたったころ、外科的な問題を抱えてしまい、入院手術、その後半年から一年のリハビリが必要と言われ、かなりプレッシャーを感じました。不眠と不眠恐怖が耐え難く、死にたくなってしまって……もう頑張ることに疲れてしまいました。

それで、せめて毎日熟睡だけでもしたくて……睡眠薬だけでも欲しくて、精神科に相談してしまったのです。たぶんその時は レキソタン(ブロマゼパム)とかいろいろ処方されました。

レキソタンを飲みながら、なんとかリハビリを続け、リハビリが落ち着いてきたころ 私もようやく冷静になり、また命がけでレキソタン断薬を決意。

根性でレキソタンは断薬しましたが 1ケ月で10キロほど痩せてしまい 老婆のようになってしまいました。


体調は悪いし、リハビリは続けなければならないし……もう限界で、その頃から自分でリーゼ(クロチアゼパム)マイスリー(ゾルピデム)なら……などと思って、薬に手を出してしまったんです。本当に、私は馬鹿だと思います。

薬は、最初はよく効いていましたが、1年もたつとそれも効かなくなってきました。そのことを医師に言うと、どんどん薬をだしてきます。

しかも昨年パニック障害と診断され、悪化しています。リーゼを減らしてる時、すごいめまいに襲われ、結局パニック障害と診断されましたが、私は、不安薬の離脱症状に思えてなりません。不安薬をのむと 余計に不安症になる気がします。

パニック障害ということで、医師はパキシルを勧めてくるのですが、私の友人がパキシルを飲んでいて、ウツから躁鬱病になり、今度はリチウムを出され、今はリチウム中毒で苦しんでいます。

また、パキシルは胎児に影響あり……の新聞をたまたま読んでいたので(もし妊娠したら大変なので)そのことを医者にも伝え、新聞を見せ、パキシルはずっと断っています。それでかわりにアナフラニール(クロミプラミン、三環系抗うつ薬)を出されました。

でも、いまだに医者はパキシルを勧めます。

だから新聞に……とまた伝え、医者は「あ~、それを気にしてたっけ?」という顏をしていました。たくさん患者がいて、一人ひとりのことなど覚えてないのですね。



減薬、断薬に疲れる

とにかく、精神科に真面目に通っている人ほど病気が悪化しているのを私は目の当たりにしています。だから、私はリーゼとマイスリーを飲むとき、毒を飲む気分です。でも、もう薬をやめる気力も経済力もありません。

今は、病院で保険のきく漢方と、鍼灸治療をしながら過ごしています。これ以上薬が増えないよう努力が欠かせません。

でも、不安薬を一度飲むと絶対にやめられない。しかも どんどん増えていく……。

医者は安易に処方しすぎです。医者が、精神障害者を作り出してるように思えてなりません。

でも、人にそのことを言うと、みな「考えすぎではないか? もっと医者を信用したほうがいいのでは?」といったような反応です。

どんどん孤独になるので、いつのまにか理解を求めるのはやめました。でも「調子どう?」と心配してくれるから、その気持ちはありがたくて、いまは「医者のいうとおりに薬を飲んでちゃんと通院している」 と言うことにしています。


それにしても、一度飲んでしまった薬……止めれないなら、飲み続けて、少しでも人生を楽しんだほうがいいんじゃないか?……そんなふうに考えてしまう日もあります。減薬が人生の目標になってしまっていて、そんな毎日が本当に嫌です。

でも やはり現実、薬を飲み続けている人は、症状が深刻になっています。亡くなった人も数名知っています。

治って元気になっている人は薬をやめた人。減らした人なんです。

やはり、お金が続く限り、薬が増えない努力をしていきます。




減薬・断薬は辛いものと覚悟を決めて

花梨さんは二度の断薬に成功しながらも、体調の悪さから、再び薬を飲むことになってしまいました。

減薬する、そのこと自体が人生の目標のようになってしまい、常にそのことだけが頭を占めている……。それは確かに人生をつまらないものにするでしょう。

しかし、花梨さんも書いているように、薬はいつまでも同じ量で同じ効き方をしてくれません。結局、量が増え、より強い薬を必要とするようになる……それは悪循環、まさに負のスパイラルです。

向精神薬の怖さはここにあります。離脱症状の苦しさから、つい薬に手が出て、しかしそれもすぐに耐性がついてしまい、不眠の辛さがやってくる。しかも、耐え難い離脱症状も出現し、たまらずさらに薬を飲む……。

そうやって行きつく先はどこかと言えば、ベンゾジアゼピン系ではおさまらず、バルビツール酸系、あるいはベゲタミン、あるいはイソブロ、あるいは麻酔薬……そして、死、かもしれません。

どこかでUターンせざるを得ないのです。そのポイントが先へ行けばいくほど、戻ってくるのが困難になるのは当然です。

離脱症状は凄まじいものとなるでしょう。それでも、もう飲む薬はないのです。行きつくところまで行けば、死ぬか、薬をやめるしかなくなるのです。

現在の離脱症状が辛いからと、薬を飲んでしまうと、その先、もっと辛い離脱症状を経験しなければならなくなります。

減薬、断薬は辛いものです。しかし、そこを乗り越えない限り、薬との縁は切れないのです。そこには人間としての共感はありますが、情や優しさといったものが入り込む余地はありません。そんなものでどうにかなるほど甘い問題ではないからです。冷たいようですが、個人個人が耐えるしかないのです。

でも、離脱者同士(という言葉もおかしいですが)支えあうことはできるはずです。そういう場がつくれればと思います。また、離脱症状の辛さを緩和する方法もあるはずです。


どうぞ、花梨さんをはじめ、薬と格闘をされている方々には、離脱症状に負けず、なんとしてでも減薬、断薬へと向かわれるよう、願ってやみません。どんなに辛くとも……の覚悟を決めて。