前回、前々回のエントリで取り上げた、T病院に強制的に入院させられた川崎さんのその後について、さらに報告をします。



川崎さんはT病院を2004年12月になんとか退院することができたものの、乳児院に入れられていた娘とは、その後、4年間一緒に暮らすことができなかった。

 何度も返してほしいと訴えたが、「あなたは病気だから、きちんと育児ができない」だから返せないと言われ続け、仕方なく川崎さんは、乳児院の近くに引っ越し、毎日娘の元に通うことにして、親子の絆を保ち続けた……。




里親制度

 その乳児院で川崎さんが体験したことである。

 川崎さんが娘と遊んでいると、外部の人間がぞろぞろと団体で乳児院を訪れたことがあったそうだ。里親を希望する人たちが見学にやってきたのだ。

 その中の一人の女性が川崎さんに近づいてきて、こう言った。

「この子のお母さんもまだ閉じ込められているの?」

 おそらく川崎さんを乳児院の職員と思ったのだろう。川崎さんが、自分はこの子の母親であると告げると、その女性はそそくさとその場を去ったという。

 それにしても、見学者の女性からこういう質問が出るということは、つまり、この乳児院には母親が精神科病院に入院している(閉じ込められている)ため引き取られた子供がたくさんいるという証拠だろう。

 川崎さんによると、乳児院に3、4年もいる子供には里親の話が持ち上がるそうだ。

 里親制度というのは、戸籍を入れ、その家族の一員となる養子縁組は異なるものである。里親の場合、あくまでも子供の養育が目的であり、その手当てとして、公的資金から月にひとり当たり7万2000円、養育費として5万円が里親手当てとして支給されるのだ。そのお金を目当てに里親になるケースもあり、里親による虐待の問題も起きている。

 また、川崎さんによると、この乳児院の職員は、母子を引き離すためか、子供に向かって実の親の悪口をよく口にするという。川崎さん自身、職員が子供に「あなたのお母さんは男と寝ている」というようなことを言っているのを何度か耳にした。




知的障害児支援施設で投薬?

そんな乳児院に、川崎さんは「通いママ」として4年間通い続けた。そして娘が4歳になったとき、ようやく引き取ることができ、近くの保育園に入れたのである。

しかし、おたふく風邪になり、仕事をしながら子育てしていた川崎さんは預けるところに困った。そこで児童相談所に相談をした結果、ある社会福祉法人の「○○学園」を紹介されたのだ。

そこは知的障害児支援入所施設である。また、認知行動療法も実施しているという触れ込みだった。

娘を引き取ってから、ずっと母子が引き離されていた影響もあってか、娘に対して多少の不安を抱いていた川崎さんは、「○○学園」に入れることを決意した。2008年のことだ。

 しかし、しばらくたった頃、川崎さんは学園の職員から驚くべき電話を受けたのである。

「知能をあげる睡眠薬があるので、服用を了解してください」というのである。「他の子供たちもみんな飲んでいるし、大丈夫ですから」と。

 向精神薬の怖さは知っているし、薬漬けの人間がどうなるかも入院中にいやというほど見てきた。川崎さんはあわてて園長あて、薬を飲ませるのは絶対にやめてほしいと手紙を書いた。

 しかし、実際どうだったのかはわからない。伝え聞いたところによると、学園で出す食事の中に薬を混ぜるということもあるようだった。

 

 そして、事実、学園で会う娘は、徐々に表情が乏しくなっていった。それだけではない。しゃべらなくなってしまったのである。

 施設に預ける前は表情豊かに笑ったし、言葉も発していたのだ。

因果関係はわからない。しかし、川崎さんは、娘はひそかに薬を飲まされていたのではないかと思っている。ADHD治療薬のストラテラ、コンサータなどは「成長遅延」「言語障害」といった重大な副作用がある。そうした薬をのまされていたのではないか……。




 そこで、私は「○○学園」に電話を入れ、確認してみることにした。電話に出たのは年配の男性職員。

「そちらで、知能をあげる薬を飲ませることがありますか。必要なら精神科医につなげていただくことはできますか……?」

 低姿勢にそう尋ねると、職員の答えは以下のようなものだった。

「親の希望があれば精神科につなげることはあります。ただ、知能をあげる薬というのがどういう薬かわかりませんが、いまうちで薬を飲んでいる子はいません」

 真偽のほどはわからない。私を入所を希望する母親と思ったとしたら、薬の件は正直には答えないかもしない。

 川崎さんの娘は乳児院にいるとき(3歳ころ)一度精神科を受診させられている。そのとき薬の処方はなかったが、乳児院にしろ、知的障害児支援施設にしろ、精神科に結びつきやすい場所であることに間違いはないだろう。




地元を逃げ出す

 2009年には、娘は就学前の健診を受ける年齢になった。しかし、学園はいつまでたっても健診を受けさせようとしなかったという。「インフルエンザが流行っているので、外出させられない」と児童相談所を介して伝えてきたこともあった。川崎さんが思うに、学園としては娘を普通小学校ではなく、養護学校に入れさせようとしているようだった。



「児童相談所とは縁を切って、引き取ることを考えた方がいい」

ちょうどそんなとき、川崎さんはある人からアドバイスを受けた。児童相談所には児童精神科医が関わっているので、そことつながっている限り、服薬の危険は免れないだろうということだった。

 その言葉に従って、川崎さんは地元を離れ、名古屋に引っ越した。それがちょうど2009年の暮。

 年末年始の休みを川崎さんは娘とともに生活し、そのまま娘を学園に返さない決心をした。そこで、1月3日、「○○学園」に、このまま娘を引き取る旨電話を入れた。

 それでも、いつ児童相談所が娘を学園に連れ戻すため、名古屋にやってくるか、不安はぬぐえない。

川崎さんは警察に行き、××市の児童相談所が娘を連れ去るかもしれないので守ってほしいと願い出た。さらに、名古屋地方裁判所にも相談にいった。自分はただ娘を普通の小学校に入れたいだけ、そして親子二人で暮らしたいので、児童相談所の言いなりにはならないと話してきた。応対に出た職員は、川崎さんに頑張ってくださいと理解を示してくれたそうだ。

 そして、1月7日、ついに××市の児童相談所から、自宅にうかがいたいという連絡が入った。児童相談所の職員がやってくる日、川崎さんは子供を友人にあずけ、一人で応対した。二人の職員は川崎さんの話を聞き、ようやく「それでは措置解除しましょう」ということになったものの、最後に、一目だけでいいので、娘に合わせてほしいという。

そこで、自宅という密室ではなく、大勢の監視の目のある喫茶店で娘を職員にあわせることにした。数年前、ちょっと席を外したすきに娘を乳児院に連れ去られたときのことを思い出したからだ。一連の体験は川崎さんをそれほどまでに用心深い性格に変えていた。

そのようにしてようやく穏やかな親子二人の時間を手に入れることができた。が、名古屋でも結局、娘の普通小学校入学は無理のようだった。学校の見学さえさせてくれない。

そんなとき、例のアドバイスをくれた人が、その人の住む関東地方への引っ越しを勧めてきたのだ。川崎さんは思い切って、上京することにした。

昨年の2月のことだ。

娘は現在、支援クラスに在籍している。残念ながら、言葉が出ない状態が続いているためだ。

以下は川崎さんのメールから。



「精神医療に関わらなければ負うことのなかった娘のハンディ。いまだに重いハンディを抱えています。私としては娘の身に起こったことを徹底的に調べ、娘に貼られたレッテルをはがし、普通小学校の先生方の理解を得て、普通小学校の小学生として勉強の機会を平等に与えてもらえるようにしていくことです。それがこれから私がしなきゃいけないことだと思っています。」




ビジネスモデル――助産制度と精神医療のつながり

 それにしても、いかなる精神疾患ももたない母親を「病気」であるとして精神病院に「監禁」し、引き離された子供は子供で、施設において向精神薬を服用させられていた可能性が否定できないとしたら……。

生後19日で母親の温もりから切り離された赤ん坊……。

 なぜ、こんなことがと、改めて怒りをもって問いかけても、おそらくそこには何重もの「善意の陰謀」が存在しているのだろう。

 ただ一つ言えることは、母子家庭であること、生活保護受給者であること、それが川崎さんがはまった罠の根本にはありそうだということだ。

 そういう女性をターゲットに、川崎さんの例と同様、児童相談所や福祉施設を介して、ちょっとした行為を虐待とでっちあげられ、虐待=病気という図式のもと、母親は精神科病院へ、子どもは乳児院へというケースが、一つの「ビジネスモデル」になっているのではないか。

 助産制度そのもののなかに、精神科へとつながるシステムが組み込まれているのではないか……。

 川崎さんも妊娠中、定期健診のとき、週に一度の相談日、相談員にプライバシーをしゃべったことが精神科へつながるきっかけになったのではないかと考えている。


 そして、そのようなシステムの中には、決まってそこに頻繁に出入りをする精神科医の存在がある。プライバシーの話の中から無理にでも精神疾患につながるものを嗅ぎ分けるのだ。T病院のY・Y院長もそうだった。

 もし、川崎さんに本当に精神的な問題があったとすれば、出産をした中央病院の精神科で対応するのが自然の成り行きだったはずだ。それをわざわざ川崎さんをだます形でHサナトリウムに拉致し、さらにはT病院へ転院させる必要など、まったくなかった。

 どう考えても、そこにはY・Y院長の意思が働いている。院長はそういうシステムの中に自分の立場をうまく組み込み、患者獲得の一つの手段を得たということだろう。


 

 しかし、こんなことは絶対に許されない。ビジネスのため、人の人生を台無しに、子供の人生を台無しにする。そのようなことをする権利は誰にもない。これははっきりいって犯罪である。

 Y・Y院長はかつて市会議員に立候補をしたことがあるそうだ。結果は落選。このような人物にさらなる権力を与えたら、恐るべき「狂気」が「善意」の名の下、正々堂々と行われてしまう。

川崎さんの例は氷山の一角だろう。物言えず、まだ精神科病院に閉じ込められている母親たちが他にもたくさんいるはずだ。これは現在進行形の話である。

こんな病院は一刻も早くつぶれてしかるべきである。