前回紹介した関西地方のT病院について、さらに報告を続けます。

 これらは、T病院に入院していた(実質は監禁に近いものだが)川崎さんが実際経験したり、他の患者から聞いたことですが、こうした話からも、この病院の本質が垣間見えるようです。


作業療法という名の強制労働

 T病院は平成12、3年ごろ、敷地内に病棟とは別の建物が一軒建てられているが、これは、「あお●ら」と名付けられた大工仕事などを伴う作業療法として、医療保護入院している患者たちによって建てられたものである。

 作業療法であるから、もちろん患者に労働報酬が支払われるはずもなく、それどころか、作業療法という「治療」の一環として、病院側は「治療費」を得ていることになる。

 

 これは川崎さんが他の患者から聞いた話だが、Y・Y院長の患者だった人の中に、体格のいい20歳前半の男性がいた。彼は親と喧嘩になったのをきっかけに、親のサインによって医療保護入院となっていた。

 しかし、まったく病人には見えない普通の男性である。したがって、働くこともできるし、力仕事も普通にできる。

 そこに院長は目をつけたのかもしれない。彼を「作業療法」につかせて、実質強制労働として、建物の建築に従事させていたそうである。


Y・Y院長の将来構想

 T病院の敷地はかなり広く、そこに開放病棟と閉鎖病棟が分かれて建っている。開放病棟はもちろん鍵をかけられることはないが、敷地の外には決して出られないようになっている。

 Y・Y院長の自宅は開放病棟の敷地内にあり、それはまさに豪邸といってもいい建物だ。

 川崎さんはこの院長から直接、以下のような、院長が抱く「夢」を聞かされたという。

「ヨーロッパでは精神病院に閉鎖病棟はなく、患者の家族が自由に遊びに来て、パンを焼いたり、食事をしたり、たいへん開放的な感じである。私の病院も、将来は閉鎖病棟をつぶして、開放病棟のみにして、そこで日常生活を自由な雰囲気のもと送ることのできる環境にしたい。さらには、院内学校を作って、子供たちも病院内だけで生活できるようにしたいと思っている」

 

 つまり、大勢の子供たちを精神病院に入れ、そこで薬漬けにして、院内学校に通わせ、生涯患者にしておきたい、ということだろう。


生活保護費の実質まきあげ

 これも川崎さんが経験したことだが、T病院ではまず入院をすると「お小遣いを入れるように」との申し入れがある。しかも本人にではなく、家族に対して行うことが多いようだ。

 川崎さんも最初は、姉が病院に言われるまま3万円入れている。それで多少の買い物(コーヒーなど)をしたが、1か月もたたないうちに、さらに病院側から「お小遣いがなくなりましたので、入金してください」との催促を受けた。(これも本人にではなく、肉親(姉)に対しての催促である)。

 話を聞いて変だと思った川崎さんが病院側に確認すると――

洗濯・水道代として1日当たり600円近く(一か月1万6000円以上)が差し引かれていた。

さらに、入院時、私物を入れるためとして、衣装ケースを強制的に購入させられている(6000円)。

これらで2万2000円である。残り8000円。しかし、川崎さんは8000円も「お小遣い」をつかった記憶はない。

つまり、かなりいい加減な計算をしているということだ。

しかも、これらはみな本人が了解したことになっていて、川崎さんも、入院時、何かこうしたことを看護主任から早口で聞かされたような記憶がある。しかし、了解はしていない。ただ、そういうことになっていますと言われただけであるが。


 川崎さんのケースのように生活保護で精神科病院に入院すると、生活保護費2万3200円の支給となるが、この「お小遣い」というのは、この2万3200円を病院側に入れさせるための口実だろう。もっともらしい名目をあげ、さも実費を徴収しているかのような体裁はとっているが、上の例でもわかるように、かなりいい加減なものである。

つまり、「お小遣い」とは、患者から生活保護費をまきあげるための口実である。

 しかし、さすがに無理やりまきあげることはできないので、担当のケースワーカーに命じて病院に振り込ませるようにしている。病院に言われるまま入金してしまうケースワーカーも中にはいるが、そういうケースワーカーが担当になると、患者が退院できる見通しはほとんどなくなる。

 川崎さんの場合は、ケースワーカーに助けられた。

 入院1か月半後、福祉事務所のGケースワーカーから川崎さんは電話をもらい、こう言われたという。

「病院に2万3200円振り込まなくても、それを手元に持っていると、見つかった場合、絶対病院側に取られますから、誰かに預けておきましょうか?」

 当然、川崎さんはお金を病院内に持ち込まず、姉にあずけておくことにした。

 Gケースワーカーが事前に川崎さんにこうした情報を教えてくれたのは、そうした事例を山ほど見ていたからだろう。そして、Y・Y院長もしょっちゅう福祉事務所に出入りしていて、そのやり方を熟知していたためだろう。


 とにかく、川崎さんは自身に支給される生活保護費を守った。しかし、事はそれで終わらなかったのである。

今度は姉を通して川崎さんに、生活保護費を入金するように言ってきたのだ。おそらく病院側が別のケースワーカー(市のケースワーカー)を通して、姉に、川崎さんを説得するよう迫ったのだろう。もちろん川崎さんは応じなかった。

 川崎さんとしてはこうした事態もある程度予測していた。そこで、その後、姉に預けておいた預金を自分の口座に振り込ませた。そしてすぐ銀行に電話をし「私の貯金は肉親やケースワーカー、いかなる人であろうと絶対に下ろさせないでください」と念を押した。

 こうした予防をしておかないと、肉親やケースワーカーが勝手に預金をおろして、病院に振り込んでしまう(方法は、通帳と印鑑を失くしたと銀行に申し出て、通帳を再発行してもらうのだ)。川崎さんはそういう患者をたくさん見ていた。もちろん、そうした方法の知恵を肉親につけるのはY・Y院長か、T病院に常駐するケースワーカーに違いない。


 その後、川崎さんはこの病院と密接につながっている市のケースワーカーから、こんな話を聞かされた。

「病院の言うとおりにしなかったGさん(川崎さんの生活保護費を守ってくれたケースワーカー)ですが、福祉事務所の係長に言って、処分してもらうようにしましたから」

 その後、Gケースワーカーはかなりプレッシャーをかけられたのか、数日間の休暇をとり、しばらくすると、別の福祉事務所に転勤になったそうである。

 懸命にお金を守ってきた川崎さんだが、ある日のこと、福祉事務所の係長が問答無用に川崎さんの生活保護費3ヶ月分を病院に持ってきてしまった。そして、川崎さんに受け取りのサインをするように迫った。サインをしたと同時に、病院側は、「病院内でのお金の所持は禁止という規則があるので、病院で預かります」。

結局そのお金が川崎さんの手元に戻ってくることはなった。


母子家庭、生活保護受給者がターゲットか?

 T病院には、母子家庭になってすぐ(離婚後まもなく生活保護を受けた直後や、あるいは未婚出産して間もなくとか〉、ちょうど川崎さんのケース同様、はめられるようなかたちで親子が引き離され、T病院に入院させられた(監禁された)という女性が大勢いたという。

お母さんの中には引き離された直後、医師に涙をボロボロ流しながら訴えた人もいたが、院長にしろ、他の医師にしろ、看護師にしろ、まったく同情する様子を見せることはなかった。計画的にやっているのだから、当然と言えば当然だろう。

中には30年間、薬漬けにされたまま、入院が続いている女性もいた。

彼女は北朝鮮籍で、妊娠をした直後、T病院に連れてこられた。そして、出産時に産婦人科に行くため病院の外に出され、出産が終わると、わが子を抱くことも許されず、そのままT病院にもどされた。以来、子供の消息はわからないまま、30年という歳月が流れたという。(この話は今から五年ほど前、川崎さんがT病院の閉鎖病棟11病棟で直接聞いた話である)。


架空の「~訓練施設」

川崎さんが言われ続けたのは「子育て訓練施設」である。いきさつを詳しく書いてみよう。

まず彼女は最初、姉から、

「子育てがうまくなる子育て訓練施設は(当時入っていた)母子寮にはないから、施設のあるHサナトリウムに入ってほしい」と言われた。

その後、川崎さんはその言葉どおり、Hサナトリウムに「監禁」され、10日後、また姉から

「Hサナトリウムには子育てがうまくなる子育て訓練施設はないから、施設のあるT病院に入ってほしい」と言われている。

そしてT病院に入院させられ、主治医がY・YからF医師に代わったとき、川崎さんはF医師から、

「子育てがうまくなる子育て訓練施設はT病院にはなく、○○大学精神神経科にあるからそこに通院して」と言われているのだ。

 


 いったいこれはどういうことだろう。

 初産である川崎さんを精神科病院に入れるための口実がつまり、「育児がうまくできないから、その訓練の必要がある」ということか? 

しかし、精神科病院で子育てがうまくなる施設とはどういうことなのだろう?

 川崎さんはT病院で、いかなる子育ての指導も受けていないし、そこには保育園があるわけでも、ベテランの保育士がいるわけでもなかった。

ちなみに、T病院に電話を入れ、「そちらに子育て訓練施設というものがあるか」と確認したが、電話に出た男性職員は「え~、聞いたことないですが」との答えだった。当然である。ありもしないものをあるとだまして、何の精神疾患もない人間を入院させるためだけの架空の施設なのだから。)

しかも、そこにはないから施設のある別のところへと、まったく実在しない「訓練施設」をでっち上げ、患者をあちこちの精神科病院へ転院させるやる方――これは、どう考えればいいのだろう?

 一人の患者をいくつかの病院で「分け合っている」ということなのか? 

 生活保護を受けている患者の、その生活保護費を、いくつかの病院をタライ回しにすることで、利益を平等に分配しているということなのか? 生活保護受給者はその意味で、病院の「資産」ということなのだろうか?

 


T病院の不正

T病院はこれまでもいくつかの不正を行っている。

例えば、平成19年8月31日、T病院の理事長で、社会福祉法人の理事長でもあったY・Yの父親は、厚生労働省九州厚生局の前局長に、中古の高級車3台を無償で譲ったり、1500万円を貸したりしていたことが発覚。利害関係者からの金品の受け取りは禁じられているにもかかわらずだ。社会福祉法人側には、3年間で国から10億円以上の補助金が流れている。

また、平成19年11月には、60代女性のうつ病患者に直接診察をせず薬を処方するなど医師法違反の恐れがあるとみて、県はT病院に対して、指導の中で最も重い「指摘」とし、文書で改善計画の提出を求めた。

この患者に対して同病院から直接診察を受けていないにもかかわらず、自宅に抗うつ薬などが宅配便で届くようになり、家族が送付を止めるよう再三求めたが、1、2か月おきに約2年間続いた。受診経験がない女性の夫あてにも薬剤が送られてきていた。その間、同女性は精神状態が悪化し、送られてきた薬を多量に飲んで自殺未遂を図っていた。未遂に終わり同病院に搬送されたが、病床ではない認知症患者用の在宅訓練室に約2週間入っていた。カルテには「通院精神療法」と記されていた。

同病院はすでに県に対し改善計画を提出した。Y・Y院長は「薬は患者本人から依頼があり、電話で症状を聞いた上で送ったり、代理の人に渡していた。入院は必要なかったが家族が心配したので、部屋を提供した」と説明。「患者に迷惑をかけた。結果を真摯に受け止め、今後同じようなことがないよう徹底したい」と話している。

そのひと月後、この女性の主治医だったT病院勤務の男性医師が車の中で自殺した。男性は、Y・Y院長とともに県の事情聴取を受けていた。


こうしてみると、金儲けのためには手段を選ばないT病院の実態が浮き彫りになる。そして川崎さんの身に起こったことも、この病院なら「なるほど」とうなずけるのだ。

ひと1人の人生など、こうした病院経営の観点から見れば、どうでもいいことなのだ。しかもそこには「善意」という前提がある。「病気」の人を援助してあげる、という前提が。そうした「善意」の背後には恐ろしい「陰謀」が隠されているのだが、それは一般社会には決して見えることはない。