「私はかこさんのブログを痛切なる思いと同時に興味深く読ませていただいている者(26歳・男性)です。現在は無職です。恐縮ながら、私の精神科にまつわる話をメールさせていただきたいと思います。もうかなり前の事なので、うろ覚えの部分もありますが、ご容赦ください。
ルジオミール単剤、最少処方でも副作用
私は10年以上不潔忌避を患っており、その度合は変化はしつつも、現在に至るまで治っていません。
7年ほど前のことです。症状が極度に悪化してしまい、家から一歩も出られないような状態でした。それを見るに見かねた母が、ラジオで精神科医が「最近は副作用の少ない良い薬ができている」と言っているのを聞き、精神科へ赴いたのです。
母が事情を医師に説明し、そこで医者から処方されたのが、ルジオミール(マプロチン)という薬でした。最少量だったと思います。医者は
「この薬は風邪薬みたいな軽い薬ですよ」というようなことを言っていたそうです。診断は頂いていません。
私は早速試し気分に飲んでみました。1日2錠でした。すると次の日ぐらいから猛烈な眠気に襲われるようになり、もう二十四時間眠れそうな勢いでして、いくら寝ても眠いのです。
気味が悪くなり、私は2~3日で、自己判断で服用量を1日1錠しました。すると眠気はなくなったのですが、不潔忌避には効果がなかったので、1週間くらいで飲むのをやめました。禁断症状はありませんでした。
セレネース単剤、最少量処方でも副作用
そして2週間くらいたってから、母は他の薬をもらおうと再び精神科へ赴いたのです。ルジオミールの事を医者に説明すると、「1日の容量を守らないと、効果はありませんよ」と言われましたが、こちらはすでに別の薬を望んでいたので、申し出ると、それならばということで処方されたのが、セレネース(ハロぺリドール)でした。こちらも最少量だったと思います。医師は「この薬は本人を診ないと処方できないのですが」というような事を言っていたそうです。同じく診断は頂いておりません。
セレネースを服用し始めるとすぐに、かこさんもブログで書いておられるアカシジアの症状が酷く出ました。かこさんの記事に照らし合わせると、私のアカシジアは最重篤レベルの症状です。それと頻尿症状がありました。
2~3日後、私はたまらず薬を飲むのをやめました。
するとアカシジアと頻尿はおさまったものの、次の日の昼食中から、今まで味わったことのない凄まじい絶望感と憂鬱感と不安感に襲われ出しました。何を見てもこの世の終わりのような光景にしか見えないのです。野球の試合を観ても悲劇にしか見えませんでした。
この精神状態には波があり、朝昼は重苦しいのですが、夜になると急に雨雲が晴れたように気分がすっきりしました。
私は当初これがいわゆる躁鬱病かと思っていました。そして食欲がめっきりなくなり、みるみるうちにげっそり痩せていきました。それでも何か食べないといけないと思い、意地でいくらか食べましたが、何を食べても飲んでも不味く、異物が喉を通っているようにしか感じられませんでした。
こんな状態が一週間か二週間続いたと思います。終わり頃になるにつれて、食欲は徐々に回復していきました。
そうして、やっと鬱状態が治ったと思いきや、次に私を待っていたのは頻発するパニック発作でした。そうそうありそうもない事に対する不安が本気で迫ってくるのです。また、離人感も強くありました。
さらに、薬漬け患者に他殺衝動というのがよくありますが、私の場合は自分が家族を殺してしまうかもしれないという不安が強くあり、きつかったです。家族と二人きりになると、頭の中で自分が家族を殺す映像が流れてくるのです。この不安を押さえるのに必死でした。
そんな中で、私は薬をさらに怪しむようになり、ネットでいろいろと調べました。すると精神薬は急に断薬するとよくないというような情報が散見されたので、再び親に精神科に行ってもらいました。医師に問いただすと、
「ああ、そういえばセレネースの副作用の事、言ってませんでしたね」
また、禁断症状については
「薬は関係ありません」
「不安なんて誰でもありますよ、私にだってありますよ」
というような答えが返ってきたそうです。
それから2ヶ月ぐらいたっても症状は改善せず、私はなんとも納得がいかないので、再び親に行ってもらった時に、自分で電話をかけ医師に直接、禁断症状について問いただしました。すると、
「薬は全く関係ありません。それに3ヶ月もたてばもう体から薬は全部出ています」という答えが返ってきました。
結局、症状が出なくなるまで1年から1年半ぐらいかかりました。
それと鬱状態になった時以降、頬骨や目の回りの骨や肋骨が隆起していたのですが、いまだにそのままです。
私が不潔忌避と表現するのは、前述した通り、医師から強迫神経症や強迫性障害などの言葉すら出ず、診断を頂いていないからです。
私は今でも精神科に関わったと事を後悔しています。しかし私が直接受診しなかったので、医師だけを一方的に責めることはできません。そして親にも申し訳ないと思っています。
現在は、不潔忌避自体は治っていませんが、極度に悪化した時の状態からは自力で回復しています。
しかし、私はただ単剤最少量処方でもヒーヒー言ってきた人間もいるということお伝えしたかったのです。(前のルジオミールが体内に残っていたのかもしれませんが。) しかし私などに比べれば多剤大量処方されている方のご心痛は想像に余りあります。
以上、だらだらと書いてしまいましたが、かこさんの今後の活動のささやかな参考になれば幸いであります。」
CYP2D6酵素を持っていない人もいる
この方も書いているように、単剤で、しかもごくわずかの量(このケースではそれぞれ2~3日程度の服用)でも、重篤な副作用を経験する人がたしかにいる。
体質的にお酒を飲めない人がいるのと同様である。
お酒が飲めない人というのは、アルコールをアセトアルデヒドという物質に分解する酵素を遺伝的に持っていない。日本人の10人に1人はこの酵素を持っていないといわれている。
これと同じように、薬物を分解する代謝酵素を遺伝的に持っていない人もいる。例えば、この方が服用した、ルジオミールとセレネースは主にCYP2D6という酵素で代謝されるが(セレネースは他にCYP3A4でも代謝される)、日本人の約1%が遺伝的にCYP2D6を持っていない。また、酵素が不十分(低活性型)の人は20~30%(つまり4~5人に1人)存在すると推定されている(西洋人では7%が欠損しているとわれ、人種差があることでも注目されている酵素である)。
私は医師でもなんでもないので、こうした分野で断定的なことは言えないが、この方の飲んだ量、期間と副作用の激しさをあわせ考えると、CYP2D6酵素低活性型か欠損型ではないかと思われる。
薬を分解する酵素が少なかったり、なかったりすれば、当然、体の中の薬の濃度は高くなり、副作用が強く現れる。さらには服用を中止したあとも、体から排出されにくいので、心身への影響も長引く。
また最初に服用したルジオミールで血中濃度が高くなっているところへ、セレネースを入れたことで、最初のときより症状がより強く現れたと考えられる。
その人がどの酵素を持っていない(少ない)かということは、遺伝子を調べればある程度はわかるが、代謝能力に関しては遺伝子のみでの判定ではないので、何とも判別の方法がないというのが実情だ。
(詳しくは、http://genoscan.client.jp/index.html
を参照)
また、服薬中止後、1年以上もつづく症状は、やはり離脱症状だろう。
服薬中に出ていた副作用が服薬をやめるとすぐに止まり、別の症状が出現していることから、依存が形成されていたと考えられる。
しかし、相も変わらずこの医師も「薬は3か月で体から排出される」と主張して、離脱症状を認めない姿勢である。
しかし、現実にはこの方のように、最少量、数日間の服用でも、依存が形成され、離脱症状が起こるのだ。そして、長引く離脱を認めない医師にかかると、多くの場合、ここからさらに別の病気にさせられ、さらなる服薬が始まるというパターンである。この方の場合、診察を受けなかったことが、その意味ではかえって幸いしたとも言えそうである。
無診察処方
すでにお分かりのように、この例では、いわゆる無診察処方である。
最初のときだけをとらえて即無診察処方と断定できるかどうかわからないが、2度にわたって同じ行為を繰り返している。
せめて2度目のときに診察をしていたら、その人の薬剤に対する反応の仕方まではわからなかったかもしれないが、被害はもう少し小さくて済んだかもしれないとも思う。いや、結果は変わらなかったか……。
最初のとき、医師は違法行為の意味を薄めるためか「風邪薬程度に軽いもの」と言い訳しながらルジオミール(三環系抗うつ薬)を出しているが、添付文書を見ればとても軽い薬とは言えない代物である。
さらに、2度目は自ら「診察なしで処方できない薬」と口にしながら、統合失調症や躁病の薬であるセレネースを出している。結局、この医師は一度も患者を診察することなく、2種類の向精神薬を処方しているのだ。
医師としては「本人を連れてきなさい」と言うのが当然やるべきことであるはずだ。
そして、言うまでもないことだが、本人をきちんと診察し、その人が薬に対してどのような反応を示しているか、それを確かめるのも、薬を処方する医師として当然の義務だろう。
しかも、驚くべきことに、この医師は、二度目にセレネースを処方するとき、母親に薬のリストを見せ、薬を母親に選ばせているのだ。
当然母親は「
いったいこれはどう考えればいいのだろう。副作用が出た場合の言い逃れのための行為なのだろうか? この医師は医師であることを自ら放棄しているのだろうか?
副作用にしたところで、たとえ患者が副作用を告げたとしても、この医師は患者の言葉をいかにも軽く受け止めている。
ある人から聞いたのだが、患者として何人かの精神科医に接したことのある人がこんなことを言っていた。「精神科医は患者の言うことに耳を貸す、そういう概念そのものがないような気がする」と。つまり、医師にいくら病状や副作用を告げても、ほとんどまともに聞いてもらっているという手応えが感じられない、というのである。
これは案外事の本質をついているかもしれない。彼らは、患者の話を聞くという、そもそも医者であるなら第一に身につけるべき訓練がなされていない、というより、聞く必要性を認めていないのではないか。
理由はいろいろあるだろうが、相手はどうせ精神を患う者だから……といった精神医療の根っこに関わる感覚を多くの精神科医が身にまとっているからではないだろうか。
だから、診察などしなくてもいいのである。どうせ話なんか聞かないのだ。それが自分でもわかっているから、薬を処方する場合でさえ、あえて患者を連れてこいとは言わないのである。また、もし仮に診察をしたとしても、患者の言葉を聞かず、何も見えない医師だから、おそらく処方する薬に変わりはなかったかもしれない。
代謝酵素を知っている医師はほとんどいない
さらに、ある薬剤師さんの話だと、代謝酵素のことなど念頭にある医師はほとんどいないそうだ。
もちろん、このケースの医師も例外ではないだろう。
無診察のまま、いとも簡単に劇薬に近い薬をキャンディのように患者に与え、その結果激しい副作用が出現しても、医師にとってそれは想定外の出来事となる。医師はごく一般的な基準でしか判断できないから、「薬のせいではない」とはねつけるしかなくなるのだ。そして、その後いつまでも続く症状に対しては、「3ヶ月もたてばもう体から薬は全部出ています」という論理のもと、切り捨ててしまうのだ。己の無診察処方は棚にあげて(いや、内心は冷や汗をかいていたかもしれない)。
単剤、少量だから、そんな副作用・離脱症状がでるはずがない。
医師はまずその思い込みを外すべきだろう。現にこうして単剤、少量でも、これほどの副作用を経験している人がいるのである。当然のことだが、医師としてはまずこの現実を謙虚に受け止めなければならない。まして、前述のようにその原因も科学的に説明できるのである。
精神科医がこうした知識に背を向けて、患者の話もまともに聞かず、思い込みの枠から出ることがないとしたら、精神医療は害でしかない。
ちなみに、CYP2C19という酵素については、日本人の約20%の人が欠損しているといわれている。CYP2C19で代謝される主な向精神薬は以下の通り。
・ジアゼパム(セルシン、ホリゾン)
・イミプラミン(トフラニール)
・クロミプラミン(アナフラニール)
また、CYP1A2の活性が低い体質の人は、日本人で推定4~5%いる。CYP1A2で代謝される向精神薬は、
・アミトリプチリン(トリプタノール)
・イミプラミン(トフラニール)
・クロミプラミン(アナフラニール)
・ミアンセリン(テトラミド)
・オランザピン(ジプレキサ)
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