(1からつづき)


薬を武器にする

 また、セロクエルの副作用がひどく、月経異常、不正出血、排尿、排便困難を訴えて、量を減らしてほしいと頼むと、

たしかに不正出血は問題ですけど、じゃあもっと量を増やしましょう

 副作用のひどさを訴えているのに、量を増やすとは……そう抗議をすると、

あんた、病気を治したくないのか? 良くなりたくないのか? 良くなりたいなら、セロクエルをもっと飲みなさいよ

 そして、セロクエルを3倍に増やされ、同時にレキソタンを一気に中止とされる

 結果、ひどい離脱症状、悪性症候群の状態となった。発熱(38度前後)、動悸、体のこわばり、震え、ふらつき(歩行困難なほど)、悪寒、へんな汗が出る、呂律が回らない、不眠症の悪化、頭痛、排尿・排便困難、手の震えで字が書けない、体に力が入らないので、物をもつことができない、月経が止まる、舌が荒れる、しびれる、自殺念慮……。


 クリニックに併設されている薬局に電話を入れるが、わからないので担当医に聞いてくれと言われる。しかし、その日Gは休診日で、終日連絡とれず。

 結局連絡がついたのは3日後の朝。電話を入れると、Gは電話に出ず、医療事務員を介して「セロクエルを減量するように」という指示のみを受ける。

 

 3日後、受診するが、発熱が続き、真っすぐ歩けない、体が小刻みに震える状態。結局診察では悪性症候群や離脱症状についての手当てはなく、ただレキソタン5㎎(朝晩2回)が処方されただけである。帰りの電車で、呼吸が苦しくなり、このまま死ぬのではないかという恐怖に襲われる。


 セロクエル増量以降、36日ほど不正出血が続いたが、その後、今度は60日ほど無月経の状態になった。

 また胃腸障害、うつ状態、のどの詰まり、吐気、便秘、不眠、イライラ感など、心身の状態は最悪となる。



暴言の数々

 しかし、その後も多剤投与は続き、Gに副作用のひどさを訴えたところ、以下のような発言を受けた。

「あなたが具合悪いって言うから、良かれと思って処方しているだけなんだけど」

「あなたは何でも副作用のせいにしますよね」

「そのうえ、副作用だけでなく、人のせいにもしますよね。そういう歪んだあなたの性格自体に問題があるんですよ」

「医療救済制度だの何だの、専門用語を持ち出してきて、電話で事務の女の子たちに何度も長々と説明して……」

「医療救済制度について、僕もよかれと思って調べてあげたけど、あなたはこの制度を請求する必要があるほど副作用のひどい状態じゃないですよ。別に命にかかわるわけでもない、無理ですね」

「薬の副作用をいちいち説明する医師なんて、日本全国どこを探しても一人もいませんよ。探してみなさいよ」

「副作用について電話しても、そんなのは事後報告にすぎませんから」



 その後、Kさんはこれらの発言に対してGに文書で抗議した。

「定期的な血中濃度検査もなく、気分安定剤を処方し続ける方法にも疑問がある。精神科医としての職務を責任をもって果たしているのかはなはだ疑問である」

 はっきりそう抗議をしたうえで、転院先が決まるまでは必要な薬は処方するように依頼。その結果、Gからは――。

手紙受け取りました。こちらとしても非常に心外ですので、今日で治療終了です。はい、出ていってください。薬も処方しませんから。あなたみたいな人は地域病院じゃ相手にされませんね。大学病院でもあたったらどうですか

 これを受け、Kさんは役所、保健所、医師会に通報した。



セカンドレイプ

 以上の経緯を見ると、どのクリニックでも医師は、離脱症状についてはもちろん、薬の副作用の説明をほとんどしていない。そして、状態が悪くなると患者側の責任にして、「性格が悪いから」など暴言を浴びせてくる。

 これまでに受けた報告でも、こうした事例は、実に多い。病気を治すどころか、さらに状態を悪化させられ、それを医師に告げると、逆切れされる。

そして、その仕打ちででもあるかのように、患者から薬を取り上げてしまうのだ。

ベンゾジアゼピン系によって依存が形成されてしまっている患者にとって、それは何より恐ろしいことである。医師はそれがわかってやっているのかもしれない。一種の仕返しとして。

患者が自分の思った通りに改善していかないと、自分の非力を顧みることなく、改善しない患者の「性格」を攻撃し、腹を立てて暴言を浴びせてくる。

それはまさに医師による「セカンドレイプ」といってもいいものだ。

このような医師に、副作用のつらさ、離脱症状の苦しみを告げれば告げるほど、患者はかえって傷つくことになる。残忍といってもいいほどのやり方――薬を出さない、性格を攻撃してくる――で、徹底的に患者を「いじめる」のだ。

Kさんの場合、4件のクリニックにかかわり、3件がそのような医師だった。



幸い、Kさんは現在、英国のベンゾジアゼピン断薬支援グループの協力を得て、減薬に理解を示す医師のもと減薬に取り組んでいる。

それでも、過去9年間にうけた治療、多剤大量処方、ベンゾジアゼピン系薬剤の複数処方によって、現在も厳しい離脱症状のなかにいる。

胃腸障害は私になど想像もできないほどの状態で、常に何をいつ食べるか、胃腸の具合を見ながらの生活を余儀なくされている。また精神的にもかなり不安定だという。

そして、身体的な症状もさることながら、複数の医師から受けた精神的ダメージは、9年間の薬の副作用に勝るとも劣らない後遺症をKさんに刻みつけた。

乱処方、さらにはセカンドレイプ――医師たちは、己の言動で、どれほど患者が傷ついているか、知っているのだろうか。知ろうという気持ちはあるのだろうか。



Kさんの減薬スケジュール

 参考までに、Kさんの減薬スケジュールを簡単に記しておく。

 基本的には、Kさんも「アシュトン・マニュアル」を基準に断薬を行っている。しかし、Kさんが現在断薬中のリーゼ(クロチアゼパム)は英国では承認されていない向精神薬のため、正しい情報、及び正確な等価換算表が得られなかった。

そのため、グリーンフォレストのHPで見た日本国内の等価換算表から、等力価のジアゼパム量を計算した。

アシュトン・マニュアルで紹介されている等価換算表は、欧米人の体型に合わせて計算されたものなので、日本人には必ずしも当てはまらない、あくまでも目安である、というのが実情かもしれない、とKさんはいう。



例えば、クロチアゼパムに関しては、日本の等価換算表では、クロチアゼパム:ジアゼパム=2:1で、クロチアゼパムは抗不安薬の中でも最も弱い薬とされている。(*ただし、最も弱い薬=離脱症状が少なくて安全、というのはまったくの嘘で、Kさんは、現在、リーゼ(クロチアゼパム)の減薬に入ってから心身ともに悪化の一途をたどっている。)

そして、英国の支援団体からの情報、及び等価換算表では、
クロチアゼパム:ジアゼパム=0.75:1

となっているが、この換算でいくと、リーゼは、Kさんが断薬に成功したレキソタン(プロマゼパム)よりも強い薬ということになってしまうのだ。この比率で置き換えると、少なくとも日本人の場合、ジアゼパム過剰服用の危険性もある。

現在、通院している精神科医も同意見だったので、あくまで個人差はあるものの、Kさんの場合、2:1の比率で断薬を行っているということだ。


しかし、置き換えるジアゼパム(セルシン)もベンゾジアゼピン系薬剤である。「ベンゾから離脱するためにはベンゾを使わなければならない」というジレンマが常につきまとう。(ジアゼパムは半減期が約200時間(約8.33日)と非常に長いため、安定した血中濃度を保ちやすいという利点から、使われているわけだが)。

つまり、ジアゼパムへ完全に置換したあと、今度はジアゼパムからの離脱しなければならない、という問題があるのだ。


「私はジアゼパムへ完全に置換した場合、1日7.5ミリグラムのジアゼパムを服用することになります。そして、ゆっくり時間をかけて、ジアゼパム離脱に取り組むことになります。しかし、1日5ミリグラム以下になると、かなり苦労するようです。全体で、1.5年~3年はかかるでしょうか。 そして、これが最も重要なのですが、完全離脱=ゴールではなく、離脱してからが本当の意味でのスタートとなります。完全離脱しても、幾つかの症状が、後遺症として数か月~数年ほど残るためです。」

 

 減薬、断薬にかかる時間の長さ、その間の厳しい離脱症状のことを知っていて、医師たちは、それでもなお、飴玉でも配るようにベンゾジアゼピン系を処方しているのだろうか?

 そもそも「アシュトンマニュアル」なるものを知っている医師がどれほどいるのだろう?