前回のエントリに対して多くのコメント、ご意見をいただきました。

 ありがとうございます。

Oさんからもお礼の言葉が届いています。

この精神医療という世界は、隠された部分が多く、「初心者」の場合、どう対応すればいいのか五里霧中の状態に陥りやすいものです。実際、体験した人でないとわからない世界といっていいでしょう。その意味でも体験者の方々の意見はたいへん貴重なものであったと思います。

私としては、そうした意見を参考に、姪であるAさんが、一刻も早くよりよい方向へ向かわれることと信じます。



実は、先日、あるシンポジウムに出席し、参加された弁護士(池原毅和氏)の話を聞く機会を得ました。

その中で、「障害者権利条約」について考えてみたいと思います。(日本政府の訳は「障害者の権利に関する条約」となっている)

この条約は、2006 に第61回国連総会において採択され、日本政府の署名は、2007年9月28日。しかし、現在のところ、日本は批准していません。(ちなみに、中国やサウジアラビアなど20カ国が2008年に批准、発効。欧州連合 2010 に組織として集団的に批准しているが、アメリカはいまだ批准していません)。

現在、日本も批准に向かって、国内法の整備がなされているところだそうですが、もし批准された場合、精神科医療における強制入院は違反ということになります。



「障害者権利条約14条1項bにはこうあるのです。


いかなる場合においても自由の剥奪が障害の存在により正当化されない。

差別的自由剥奪の禁止

「自傷他害のおそれ」(措置入院)や「判断能力の欠如と医療の必要性」(医療保護入院)などの要件が付加されても差別性は消えない。


 14条は「身体の自由」を保障したもので、つまり、障害や治療を理由に、隔離したり、閉じ込めたりすることは許されないとしています。



 この法律が批准された場合、日本の精神科病院から閉鎖病棟、隔離室が消えるということでしょうか?

 もっとも、人権問題が云々されがちな中国も批准・発効していますから、その実効性がどれくらいのものなのかわかりませんが……。

 とにかく、精神科病院内で「普通」に行われている身体拘束、隔離収容は人権侵害以外のなにものでもないことは明らかで、確実に「障害者権利条約違反」になるはずです。

(また、宅間守の事件によって制定が加速化された「医療観察法」(心神喪失状態で他害行為を行った者は、入院中はもとより通院中も治療を受ける義務があるとする法律)も、この条約違反に該当します。)



薬物療法におけるインフォームド・コンセント

 また、インフォームド・コンセントについても参考になる話がありました。

薬物療法を行う場合、インフォームド・コンセントとして、医師は患者に次のような事柄を告げる必要があります。


①薬物の効果――なぜその薬物が必要であるか

どの症状が消えて、どの症状が残ると予想されるか

いつ頃から効果が期待できるか

薬物を不規則に用いたり、まったく用いないとどうなるか

②副作用――いつ現れるか

副作用をいかにして知るか

どれくらい持続するか

どれくらいきついか

どのように対処すればいいか

③指示――どのように薬物を使用するか

     いつその薬物を用いるべきか

     どのくらい治療を続けるべきか

     薬物をどのように保存すべきか

     残った薬物をどうするか

④注意――どのようなときに薬物を用いるべきではないか

     最大容量はどのくらいか

     なぜ完全に治療を行うべきであるのか

⑤将来の相談――いつ再び来院すべきか(あるいはその必要はないか)

        どのような場合には予定よりも早く来院するか

        次回の予定の来院時に医師はどのような情報を必要とするか

⑥すべてはっきりしているか――すべての説明が理解できたかどうか聞く

               もっとも重要な情報を患者に言わせてみる

               何か疑問がないかを訊ねる



 これだけの説明を受けた人がどれくらいいるでしょうか。しかし、法的な意味でのインフォームド・コンセントはここまでを求めているということです。

もっとも、医師の薬に対する認識が浅ければ、副作用など通り一遍のものになるでしょうし、軽いものしか告げないことも考えられます(現に、このブログに登場した人たちはほとんどが、その程度の説明しか受けていません)。

また、医師が離脱症状の存在を知らなければ、事前の説明を期待することはできないでしょう。


 しかし、平成8年2月27日の高松高等裁判所の判決に次のようなものがあります。


副作用の発生率が極めて低い場合であっても、その副作用が重大な結果を招来する危険性がある以上は、投薬の必要性とともに副作用のもたらす危険性をあらかじめ患者に説明し、副作用の発症の可能性があっても、その危険性よりも投薬する必要性の方が高いことを説明して理解と納得を得ることが、患者の自己決定権に由来する説明義務の内容であると解される。


 

言ってみれば、インフォームド・コンセントとは、患者が自分で治療を決定するための情報公開であり、薬物療法に関して言えば、患者は薬についてあらゆる情報を与えられ、納得した上で服薬するのでなければならない、ということでしょうか。

 しかし、ここで精神科の場合、「自己決定能力」を問題視されるという展開になるのでしょう。

 どうせ説明してもわからないから……という前提のもと、とくに精神科病院における投薬は、飲んでいる本人でさえ、どのような薬か知らされないまま、服薬を強要されている場合がほとんどです。インフォームド・コンセントなど、ありがたいお題目でしかありません。

 しかし、たとえ本当に「自己決定能力」に問題がある場合でも、説明の努力はなされるべきです。また障害者権利条約の12条では自己決定の支援がなされるべきと定めています。


実際この条約がいつ批准されるのか、批准された場合、現実がどう変わるのかはわかりません。


それでも、現在、裁判所においては、副作用についてのインフォームド・コンセントは、かなり理解の方向に向かっているということでした。