向精神薬による遅発性ジストニア発症の報告が寄せられました。

 30代の女性、Sさんからです。


 Sさんが最初に心療内科を受診したのは、2008年5月。症状は不眠でした。

 そこで処方された薬ですが、じつはSさんは処方箋を最近になって、あまりに辛い出来事だったため、もう見たくないと処分してしまったそうです。したがって詳細は不明。しかし、以下のような薬を処方されていたのは確かです。

サイレース(フルニトラゼパム)

アモキサン(アモキサピン)

睡眠導入剤(薬品名不明)

SSRIの点滴


 

 しかし、薬を飲んでも症状が改善されることは一向になく、それにともなって診断名も不眠症からうつ状態、最後はノイローゼと変わっていった。しかも、その診断名のあとに「らしきもの」という言葉がつき、常に曖昧なものだった。

 ただSSRIの点滴を受けたときだけはぐっすり眠れたので、月に2、3度受けたが、それ以外の日は相変わらず眠ることができなかった。

 不眠も治らず、体力の消耗も激しく、3ヶ月後の2008年8月とうとう退職に追い込まれる。

 そして、退職して10日後、遅発性ジストニア痙性斜頸を発症。

 最初はなんか頸が曲がるなと笑っていたそうですが、じわじわと進行し、歩くこともままならない状態に陥ったと言います。

 Sさんの服薬歴は、上記のほか、28歳の時2ヵ月ほど、31歳の時3か月ほど、抑うつ状態改善のために精神安定剤を服用し、今回の分とあわせて服薬期間は8カ月ほどだ。



遅発性ジストニア痙性斜頸

 ところで、遅発性ジストニア痙性斜頸とは、どのような症状なのか?

 ネットで調べたところ、以下のようなページがあり、Sさんに確認したところ、同じような状態だったという。http://square.umin.ac.jp/neuroinf/patient/506.html

  

 頸の傾斜は筋肉の異常収縮によるもので、筋緊張を調節している大脳基底核という部分の働きの異常によっておこると考えられている。中でもパーキンソン病 は、大脳基底核変性疾患の代表的なものとされ、またジストニアのほかハンチントン舞踏病 も、大脳基底核の異常が症状を作り出しているとされる。


 Sさんの処方された向精神薬が大脳基底核になんらかの悪さをしたのではないか?



 Sさんは、ジストニア発症後、体がひきちぎれるのではないかと思うほどの激痛を経験した。それは、死んだほうがまし、いっそ殺してほしいと思うほどの痛さだったと言う。


 自分の身に何が起きたのかわからぬまま神経内科や大学病院、県の基幹病院を転々とした。そして2ヵ月後、ようやくジストニアの治療法のひとつである、ボツリヌストキシンの注射(ボトックス注射)にこぎつくことができた。

 しかし、この2ヵ月間は、激痛と歩行困難、そして、これまで普通にできたことができなくなっていくことへの恐怖に苛まれた。

 それでも、最初のボトックス注射のあと、少し首の異常運動が緩むようになり、それからは1日10分、親の肩につかまって歩く練習が始まる。

 首の傾きはほんの数度だが、左側の視野が狭くなり、近づいてくる人に気づかず、ぶつかることもしばしばだった。そして、買い物をしてもレジ係の人に奇異な目で見られることもあり、嫌な思いもした。

 ボトックス注射は2ヵ月毎、1年間続いた。また、地元の整体師(特徴ある手技の)によるマッサージを受け、状態は少しずつだが改善していった。

 

 ジストニア、特に痙性斜頸は、手を顎や頸に添えると、一時的に曲がった頸が真っ直ぐ正面を向くという特徴がある。これを「感覚トリック」と言い、Sさんもこれを使いながら、再就職の道を探るため、公共職業訓練でパソコン操作を習得した。

頸部ジストニアはつながっている身体部位に影響を及ぼすことが多く(65%の人は10年内に再発や進行を経験すると言われている)、Sさんの場合は、背中の筋肉の異常緊張と腰部疼痛を引き起こし、まるで、首や背中に鉄板を背負っているような痛みの中での訓練だった。

それでも、4ヵ月の訓練の後、病気であることを承知の上で短時間のパートとして再就職を果たした。が、結局、頸部・背中・腰の疼痛は体力を奪い、退職に追い込まれてしまう。



ジストニアという病気への無理解

 現在はボトックス注射をすることもなく、マッサージをうけながら、なんとか健常者と同じような生活を送ることができているが、車の運転は非常に疲れるため、週に1度くらいがせいぜい。

仕事も残業のない行政機関の臨時職員としてなんとか再々就職はしたが、臨時職員でもあり有期雇用。体力消耗のことを考えると、いつ解雇に追い込まれるかわからない。

そして、頸、背中、肩、腰の疼痛はいまだ消えることなく続き、地元の整体師のサポートなしでは生きていけない状態である。週5日労働は体力の消耗が激しく、土日いずれか1日はとにかく一日中横になって体力を回復させなければならないほどだ。



これから先、職を失ったらどうやって生きていけばいいのか。

ジストニアは厚生労働省の難病指定もないため、公的医療費支援は一切受けられない。また、ジストニア患者のほとんどが就労に困難を抱えているが、これに対しても一切の公的支援はない。

そして何より辛いのは、一般的に認知されていない病であるが故、「死なないんだから、まだましでしょ」など、周囲の無理解・無配慮な発言に、傷つけられることが多いとSさんは言う。



副作用(ジストニア)に対する医師の対応

ところで、Sさんが遅発性痙性斜頸を発症して、心療内科の主治医はどう対応したのか?

「医師から、私には一切の説明もありませんでした。ジストニアが発症してすぐの診察では、私の状態を見て、うろたえた様子で処方箋を書きあげ、目を合わすこともなくそそくさと私を診察室から退去させました。

ネットで調べると、薬剤誘発性ジストニアの対処方法の第一選択肢は、薬の暫減です。その日渡された処方箋は、これまで10㎎だったアモキサンが、5㎎に減らされていました。これは憶測にすぎませんが、遅発性ジストニアを薬の副作用から発症していることは認識していたはずと思います。ですが、なんの説明も謝罪もありませんでした」


また、その後転院した神経内科や病院3カ所でも、「薬の副作用かもしれないが、はっきりはわからない」という言葉しか聞くことができなかった。

一人、地元でかかっている整体師とは別の整体師が、Sさんの筋肉の動きを見て、これは薬の副作用に違いないと指摘してくれた。

それをきっかけに、『精神科セカンドオピニオン』の笠陽一郎医師に電話で薬の処方箋を見てもらったところ「断言はできないが、薬剤誘発性ジストニアの確率が高い」とのことだった。



じつはSさんは、前エントリのアモキサンによる便秘、排尿困難のケースに、こんなコメントを入れている。

「私もアモキサンを処方された期間、排便困難、排尿困難の症状がありました!ですが、その病院で渡されていた薬の説明書の副作用欄には、排便困難、排尿困難は一切記載されていませんでした。ですので、私は単なる自分の身体症状と捉え、医師に質問することもありませんでした。これを早い段階で副作用と認識できていたら、私の遅発性ジストニアの発症は回避されていたかもしれません……。悔しい限りです。」



 精神科の治療において、副作用について医師から事前にきちんとした説明を受けた人がどれほどいるだろう。そんなことを言ったら、誰も薬を飲まなくなってしまう、とよく言われるが、飲みたくなくなるような副作用が出てくる可能性の高いのが向精神薬なのだ。

 患者はいつも目隠しされたまま与えられた薬を飲むことを強要される。

 そして、その結果出てきた副作用については自己責任だ。

 副作用と薬剤の因果関係を証明することは、難しいかもしれない。

 しかし、それならば、ジストニアはSさんがもともと持っていた病気だと言うのだろうか。もし医師に説明を求めたら、そのような回答をするのだろうか。服薬以前には一度も経験していない症状が、たまたま服薬と時を同じくして、偶然、表に出てきたと。

状況証拠的に考えて、あり得ないだろう。

それでも、結局、精神科領域の医師たちは知らぬ存ぜぬを押し通す。それを「副作用報告」として厚生労働省へあげることも決してない。だから、同じような副作用で苦しむ患者があとをたたない。

そして、患者は重篤な副作用を抱えたまま放りだされる格好だ。快復は自らがはからねばならないこととなる。

 こうしたことは他科でもよくあることだろうか。いや、やはり、精神科の常識は他科の非常識、ということだろうか。