前回のエントリで取り上げたように、向精神薬服用中の便秘は要注意です。
前々回のエントリで紹介したように、イレウスを放置すると、生死にかかわる問題に発展しかねません。腸閉塞を起こしたり、(詳しい原因はわかりませんが)多臓器不全に陥ったり……。
向精神薬と一緒に下剤を処方された方は多いと思います。
前回のWさんが処方された便秘薬は酸化マグミットでした。
これは通称カマといわれるもので、マグネシウムの微粉末、(ミクロ単位)で腸の吸収口を塞ぎ、水分の吸収を出来なくして(もちろん栄養も)、腸内にたまった水分で便をふやかすという作用機序があります。かなり強力な下剤です。
しかし、それでもイレウスが改善しないことが多いようです。それだけ向精神薬が自律神経に与える影響は大きいということでしょう。
また、ラキソベロンという水薬が処方されることもあるようです。こちらは強制的に腸管の蠕動運動を起こし排便を促すというもので、こちらのほうがさらに強力です。
イレウスが改善しない場合、どの時点で医者に駆け込むべきでしょうか?
カマでだめなら、(もちろんその前に断薬ですが)医者に行った方がいいのか、それともラキソベロンを試してみるか……。どこにその目安を置くか、経験した方なら悩むところかもしれません。
(しかし、考えてみれば患者がここまで自己防衛しなければならないこと自体おかしな話で、本来なら向精神薬を処方した医者がこの点についても患者にきちんと説明して対策を講じておくべきなのです。)
さて、そこでです。
イレウスの程度が深刻なものとなった場合、医者に駆け込むといっても、では、いったいどこへ駆け込めばいいのでしょう?
一般の内科? 精神科?
一番無難なのは、精神科もある大学病院等の消化器外来でしょうか。
あるいは、最悪の場合を想定して、手術のできる総合病院の消化器外来。
CTもしくはMRIのある消化器病院。
消化器標榜病院。
触診のできるベテランの内科医。
大学病院等の精神科。
一か八か精神科でも内科も標榜する医者。
そして、最後の最後の手段として、精神科(期待薄ですが)、といったところでしょうか。
しかし、駆け込んだはいいが、受診拒否という現実が待っているかもしれません。
紹介したケースでは、救急搬送の際、総合病院、大学病院、あらゆる病院から受診拒否にあいました。さらにかかっていた精神科でさえ、休日で対応できないと断られています。
また、二つ目のケースでは内科の医師から受診拒否されています。その理由が、
「精神科にかかっていた患者さんは分からないことがあるので診察できない」
というものでした。
医師法の19条にはこうあります。
「診療に従事する医師は、診察治療の求めがあった場合には、正当な事由がなければ、これを拒んではならない」
医師や医療機関に課せられた診療義務のことで、これを「応招(おうしょう)義務」といいます。
厚生労働省の解説によると、
1 医師法第十九条にいう「正当な事由」のある場合とは、医師の不在又は病気等により事実上診療が不可能な場合に限られるのであって、患者の再三の求めにもかかわらず、単に軽度の疲労の程度をもってこれを拒絶することは、第十九条の義務違反を構成する。
2 医師が第十九条の義務違反を行った場合には罰則の適用はないが、医師法第七条にいう「医師としての品位を損するような行為のあったとき」にあたるから、義務違反を反覆するが如き場合において同条の規定により医師免許の取消又は停止を命ずる場合もありうる。
また、休診日であっても、急患に対する応招義務を解除されるものではない。
休日夜間診療所、休日夜間当番医制などの方法により地域における急患診療が確保され、かつ、地域住民に十分周知徹底されているような休日夜間診療体制が敷かれている場合において、医師が来院した患者に対し休日夜間診療所、休日夜間当番院などで診療を受けるよう指示することは、医師法第十九条第一項の規定に反しないものと解される。ただし、症状が重篤である等直ちに必要な応急の措置を施さねば患者の生命、身体に重大な影響が及ぶおそれがある場合においては、医師は診療に応ずる義務がある。
下線の部分だけを読んでも、受診拒否、救急搬送のタライ回しは、明らかに「応招義務」違反です。
命を落とすことになるような重篤な患者を前にして、しかも、医師法で診療の義務がうたわれているにもかかわらず、医師はそっぽを向き、結局悲劇は起きてしまいました。
こうした悲劇が起こるたび、なぜこの応招義務が問題にならないのか不思議でなりません。
と同時に、受診拒否された場合は、この応招義務をもって医師に迫ることも可能ではないでしょうか。
精神科にかかっている患者はわからないことがあるので診察できない――と医師は言います。しかし、精神科にかかっている患者といえども、診察を受ける権利は絶対にあるのです。