(1からつづき)

そして、陽介君は、確実に悪化していった。

4月28日 体がだるくて、学校にいることができなくなる。


5月9日 カッターで手首を切り、その後、カッターを持ったまま、自分の部屋に籠城する。その頃、ご主人は単身赴任で遠方にいたため、電話をすると、「とにかく救急車を呼ぶように」との指示。救急車で通院中の病院へ搬送され、傷の手当てと鎮静剤を打たれて、入院はせずに帰宅。


しかし、その後も奇行は続いた。

5月29日 睡眠薬5錠を飲んで、浴槽に沈む


その後も、夜、外へ出たきり帰ってこない。探しに行くと、マンション近くの公園で寝ていた。

お酒を飲むようになる

船を買いたいと、ネットでずっと何日も探し続ける。

ネットゲームを延々とやり続ける。

包丁を取り出して、じっと見ていることがある

家でときどき暴れるようになる。


「入院中、薬をたくさん盛っておいたから」

6月28日 ついに陽介君は入院することになった。「本人と家族の休養のため」ということだったが、中村さんへの説明で、医師は初めて「境界性人格障害」という病名を告げた。

中村さんはほぼ毎日面会に行った。しかし、息子がどのように過ごしているのか詳しくはわからない。ただいくつか知らされたことがある。

まず、入院中にもかかわらず、市販の鎮痛薬「イブ」を50錠飲んで、OD

にきびが気になるというので差し入れた洗顔料「クレアラシル」を洗面器に水で溶いて、飲んでしまった

インスタントコーヒーがほしいと言うので差し入れると、ものすごく濃いコーヒーを飲んでいる、等々。


とうとう入院2週間で、病院側から「治ろうと思っていない人は置いておけない」と強制退院させられる。


翌日の7月7日の診察では、陽介君が「頭が痛い、調子悪い」と告げると、主治医は「そうだろうな、入院中、薬をいっぱい盛ったから」との返事。

そして、その日の処方は以下の通りである。

コントミン

リスパダール

レボトミン(レボメプロマジン・抗精神病薬)――以上、抗精神病薬3種

メイラックス

レキソタン(ブロマゼパム・ベンゾ系抗不安薬)

リスミー(リルマザホン塩酸塩・ベンゾ系睡眠導入剤)――以上、ベンゾ系マイナートランキライザー3種

デパケンR(バルプロ酸・抗てんかん薬

ベゲタミンB塩酸クロルプロマジン、塩酸プロメタジン、フェノバルビタール配合剤、精神神経用剤)


そして、2日後の7月9日にも薬が処方されている。

コントミン

リスパダール

レボトミン――、以上、抗精神病薬3種

セパゾン

メイラックス

レキソタン

ベンザリン

リスミー

ロヒプノール――以上、ベンゾ系マイナートランキライザー6種

ベゲタミンB

トレドミン――抗うつ薬



ものすごい量の薬である。こうした処方からも、医師は暴力行為をなんとか薬で抑えようとしたのかもしれない。

暴力的になった陽介君に主治医はこう問うた。「君は小さい頃の復讐をそうやって両親にしているの?」

「そのときの陽介の当惑した顔が忘れられない」と中村さんは振り返る。

また、医師から中村さんへ、暴力が起きたときの対応として、「責任をとらせるため、息子さんに謝らせること。親は安全のため、暴れはじめたらすぐに逃げること、警察を呼ぶこと」とのアドバイスがあった。


処方は以後も多少の減少と移り変わりを繰り返しながら、同様の内容が続く。しかし、医師の思惑とは反対に、陽介君の暴力はますますエスカレートすることになる。


退院して4日後の7月10日、またODをしようとしたので、中村さんが止めようとしたところ、荒れ狂い、母親の携帯電話をへし折る。あまりのすごさに近所の人に助けを求め、とりあえず救急車で近くの病院へ。しかし、精神科がないため対応しきれず、そのまま帰される。


8月26日 親孝行のつもりか、母親の肩を叩いているうちに、だんだん力が入ってきて、そのうちに肩だけでなく顔や頭を殴りはじめ、またしても近所の人に助けてもらって、今度はタクシーで病院へ駆けつける。対応した精神科医はテレビにも出るような有名人だったが、腕を組んだまま中村さん母子を見降ろし、非常に冷たい対応で、一切の説明もなく、注射を一本しただけですぐにいなくなってしまった。(「なぜこんな対応をされなければならないのか、ひどく惨めな気持ちになりました」)


テーブルに置いた卓上コンロに火をつけようとする(火をつけながら「お母さんは逃げて」と言う)、椅子にも火をつける


霊のようなものが通るからと魔除けに塩を置いたり、お札を置いたりする


9月10日 無理難題を言うようになる。「ビールを買ってこい」、また「コートを買いたいから金を出せ(2万5千円)。なければ、銀行へ行っておろしてこい」。

すべてが命令口調。しかも、その時は9月、コートを買うような季節ではない。

                            (3へつづく)