中村さん(仮名・50歳)からメールをいただき、お話を聞くことができた。
被害にあわれたのは、中村さん(母親)の息子さんである陽介君(仮名・21歳)。
いまから4年ほど前、陽介君が高校2年、17歳のときである。
きっかけは、生真面目といってもいい性格の陽介君から「うつかもしれない、精神科に行きたい」と告げられたからだ。当時、陽介君は父親との関係で多少うまくいかないところがあり、また、部活が忙しく疲れ気味でもあったので、中村さんはそれならばと、近所の心療内科を受診させることにした。
最初の心療内科、2件目のクリニック
簡単な診察後、医師が言うには、「潔癖症で、思春期特有のこだわりがちょっと強い」というものだった。出された薬はリーゼ(クロチアゼパム、ベンゾジアゼピン系抗不安薬)1種類。
それが2006年9月のことである。
服薬しながらしばらく様子を見たが、よくなっていく実感がなく、同年11月、ネットで別のクリニックを探して新たに受診した。そこは、かなり有名なクリニックで、ネットで検索すると必ず上位に名前のあがるところである。
しかし、医師はパソコンの画面を見ているだけでほとんど上の空の様子。そして最後にこう言った。
「お母さんが悪いんだよ。ボクちゃんがかわいそう」
そして、処方された薬は、以下のものが10日分。
PZC(ペルフェナジン・抗精神病薬)2㎎
ドグマチール錠(スルピリド・抗精神病薬)50㎎
セパゾン錠2(クロキサゾラム・ベンゾ系精神安定剤)(以上、朝・夕食後)
ハルシオン(トリアゾラム・睡眠薬)0.25㎎
リスパダール錠(リスペリドン・抗精神病薬)2㎎(以上、寝る前)
リスパダール内服液1㎎/ml(不安時頓服)
思春期外来へ
中村さんは、あまりの薬の多さと、クリニックの雰囲気、精神科医の態度、様子に違和感を覚え、「ここではだめだ」と思い、すぐに別の病院を探すことにした。
自宅から少し離れているが、今度は、思春期外来のある精神科病院を受診。
それが11月30日である。
医師は前のクリニックの処方を見て、「うちではこんなに薬を出すことはありません」と言った。しかし、実際処方された薬は以下の通りである。(注、この病院の付属薬局が出す薬の説明書は、薬剤名がたくさん書かれた表の、出された薬名に丸印がついているだけなので、量が不明。)
スルピリド(=ベタマック・抗精神病薬)
リスパダール(リスペリドン・抗精神病薬)
PZC(ペルフェナジン・抗精神病薬)
セパゾン錠(クロキサゾラム・ベンゾ系精神安定剤)
ミンザイン(トリアゾラム・ベンゾ系睡眠導入剤・ハルシオンと同じ効果)
最初から抗精神病薬3種、ベンゾ系マイナートランキライザー2種。
前のクリニックの処方に引っ張られたのだろうか? しかし、陽介君には当初もそのときも、幻聴幻覚の症状はなく、ただ「うつっぽい」という訴えだけだった。診断名もはっきりせず、中村さんは主治医から「統合失調症」という言葉を聞いていないのだ。
しかし、とにかく、「病気」を治すため、陽介君は処方された薬を飲み続けた。
処方はその後、2種類の薬を基本として、残りはコロコロ変わっていった。短い期間リボトリール(クロナゼパム・ベンゾ系抗てんかん薬)が出されたり、リスパダールがセロクエル(クロチアピン・精神病薬)に変わったり、メイラックス(ロフラゼブ酸エチル・ベンゾ系精神安定剤)が加えられたり、コントミン(クロルプロマジン塩酸塩・抗精神病薬)が追加されたり、リボトリールがテグレトール(カルマバゼピン・抗てんかん薬)に変薬されたり――。
一ヵ月で異常行動
中村さんは息子に処方された薬の記録と、当時の陽介君の様子を日記に書きとめている。
それによると、服薬が始まってから一ヵ月ほどで、すでに陽介君に異常行動が起きている。
まず、人に対する思いやりがなくなり、暴言を吐くようになった。非常識な行動を平気でする。たとえば、夜中に大きな音でキーボード(楽器)を弾いたりラジオをかけたり。
学校へ行っても、保健室で寝ていることが多い(保健の先生より連絡あり)。
「眠れない」「死にたい」と口にするようになる。部屋を徹底的に掃除し「せめて最後くらいはきれいにしておかないと」とおかしなことを言う。
市販の風邪薬を大量に買い込んで、オーバードーズをする(そのまま学校へ行き、保健の先生に告げたらしい。大事には至らず。)
年が明けて2007年。
1月13日 ベッドの柵に頭を思い切りぶつける。
2月6日 ベッドの柵にベルトをかけ、首を吊ろうとする。(たまたま中村さんが部屋を覗いたときやっていたので、あわててやめさせた。)
2月10日 駅の音楽、玄関のチャイムの音など、すべての音が半音下がって聞こえてきて、「頭が狂いそう」と言い寝込んでしまった(陽介君には絶対音感があり、そのため音に敏感に反応したのだろう)。聴覚異常は、3日前に処方されたテグレトールが原因と思われ、そのことを主治医に告げたが、
「そういうことは聞いたことがない」という返事。しかし、とにかくテグレトールの処方は止めてもらう。
2月24日 母親のあとをついて離れない。非常に子供っぽくなる。視野が狭くなる(食事のとき、自分の目の前の皿しか見ない)。集中力なし。教室でも椅子にじっと座っていられない。だるさ、やる気なし。イライラした感じ。
その後、足、腰のあたりがむずむずするというので、中村さんがネットでいろいろ調べた結果、アカシジアではないかと思い、医師に「アカシジアではないですか?」と問うたところ、医師の答えは「そういうことじゃないでしょう」。
医師は薬の副作用については、喉の渇き、便秘になるなど、身体的なごく軽いことしか告げてくれなかった。
また、2月24日の受診日には、あらたにSSRIのルボックス(フルボキサミン)が処方されているが、それも中村さんはネットで調べて、「あの、コロンバイン高校の事件のときに犯人が飲んでいた薬ではないですか、大丈夫なんでしょうか」と尋ねたが、医師は「そういう副作用はないでしょう」と答えた。ちなみに、2月24日の処方は
ルボックス
コントミン(=ウインタミン)
スルピリド(=ベタマック)
リスパダール
メイラックス(ロフラゼブ酸エチル・ベンゾ系精神安定剤)
ミンザイン(トリアゾラム・ベンゾ系睡眠薬)である。
その後、同じような処方が続き、4月になると抗うつ薬はルボックスからトレドミン(ミルナシプラン・SNRI)に変わり、そのとき、睡眠薬がミンザインからロヒプノール(フルニトラゼパム・ベンゾ系睡眠導入剤)に変わっている。それが5月。
(2へつづく)