メールをいただきましたので紹介したいと思います。38歳の女性からです。


断薬に苦しむ

「こんにちは。

パニック障害と診断され、パキシル飲み始めて早、6年です。38歳になりました。子供が欲しかったのに…産めません。

もう無理だろうと覚悟したいけどできない。苦しい。

とある心療内科に通院していますが、減薬はしてくれません。

副作用を訴えても副作用だと医師は認めません。

私は薬屋さんだと思って通っています。

自力で少しずつ量を減らしてきました。

現在パキシル1錠と坑不安薬セルシンを頓服で使うだけに落ち着いてきました。

2年前、リウマチが発症し、リウマチ科の医師に、こんな薬を飲んでいるから、身体がおかしくなるんだ、と諭され気がつき、必死でパキシル減らしてきました。

最高3錠飲んでいました。今は1錠です。

時折わけもなくイライラする時もありますが、仕事に行けるようになっただけマシですね。

副作用ですか? の問いかけに精神科医師はきまって副作用はありませんよとおっしゃいます。

パニック障害でが減らせず、薬害だと言えずにいる方が沢山いるのではないでしょうか。

また薬漬けで、子供が産めないと悩む方もいるでしょう。

ツラいです。」

 メールから、この方は38歳で6年間の服薬ということですから、32歳から薬を飲み始めたことになります。薬漬けで子供が産めない……。それは女性にしてみたら(女性だけとは限りませんが)人生のかかった非常に大きな問題です。

以前も、このブログで紹介しましたが、薬を飲みながら妊娠――離脱症状に耐えきず、泣く泣く中絶された方、あるいは、薬を飲んでいる時に妊娠に気付き、断薬――無事出産した女性がいました。

やはり、妊娠可能な年齢の女性の場合、薬の服用をしていれば、妊娠しても大丈夫? という問題にぶつからざるを得ない状況に追い込まれます。

にもかかわらず、医師がそうしたことを考慮して、事前に薬の説明をしてくれたとか、服薬をしない方向で治療に臨んでくれたとかいう例は今のところ届いていません。妊娠などより病気を治すほうが先、という考え方なのでしょうか。それとも、向精神薬は妊娠に影響を及ぼさないと考えているのでしょうか?


妊娠中のSSRI

 妊娠中のSSRIについて、以下は、2010年6月5日に開催されたシンポジウム、「ブロークン・ハート:妊娠中のSSRIs」(デレリー・マンギン医学博士)の資料から抜粋したものです。SSRIの催奇形の危険性が述べられています。

「動物実験と疫学研究の両方のエビデンスは、妊娠第1三半期(14週)にSSRIを服用すると出生児に先天性欠損症のリスクが増え、特に心臓欠損のリスクは2倍になる。さらに妊娠期間中通して服用した場合は、未熟児や新生児薬物離脱症候群(呼吸が速かったり、あるいはチアノーゼ、けいれん、泣き続ける、嘔吐などといった症状)肺高血圧症、流産といった別の危険因子と明らかな相関がある。

 その後の子供の脳発達への影響は知られていない。

 さらに加えて、服用中止には離脱症状が伴うため、女性が妊娠に気づいて先天性欠損症の危険性を避けようとしても間にあわず、薬を止めることが困難になる。」

「妊娠中にパロキセチンン(パキシル)を内服した520人中、出生時の結果が判明した313人について見てみると、42例(13、3%、42/313)に先天異常報告あり。」


また、薬害オンブズパースン会議がパキシルの発売元、GSK社に対して提出した要望書には、このような記述があります。

妊婦への使用原則禁止はもちろん、妊娠可能な患者への使用制限

パキシルの催奇形リスクは高いものであるが、他方で、女性が妊娠に気づくまでには時間がかかり、妊娠前からパキシルを服用している場合には、妊娠を知ったときには、既に催奇形性のリスクの高い妊娠初期をある程度経過していることになる。

 しかも、胎児への影響を可能な限り小さくするため使用を中止しとうとしても、パキシルの離脱症状を考慮すると直ちに中止することができない困難な状況におかれる。

 したがって、新生児の先天異常を回避するには、単に妊婦への使用を制限するだけでは足りず、妊娠可能な患者に対する投与も同様に制限することが必要となる。」


アメリカでは600件を超える出生異常訴訟が

パキシル発売当初、GSK社は、パキシルによる治療が有害であるかもしれないと注意喚起をするより、むしろ、うつ病を治療しないでおくほうのリスクを強調しました。要するに、うつ病は放っておくと、妊婦、ひいては胎児、新生児、成長後の子どもにとってたいへんなダメージになるといったわけです。

もちろん、それは企業の戦略の一つですが、実際のところ、2005年時点で、GSK(グラクソ・スミスクライン)社は妊娠中の危険性を調査するための疫学研究は一つも実施していなかったのです。つまり、なんのエビデンスもない安全宣言のようなものです。

しかし、アメリカでは、現時点で600件を超える出生異常訴訟が起こされています。

昨年、最初の評決がでましたが、母親の妊娠中のパキシル服用により心臓に三か所の欠陥を持って生まれた原告側リアム・キルカーちゃんの家族に、GSK社は賠償金2500万ドルを支払っています。

アメリカでは、現在、パキシルの添付文書で、妊婦への投与は「警告」欄に記載されていますが、日本では、それより一段低い注意喚起として「重要な基本的注意」に先天異常のリスクがあることが書かれているだけです。


日本国内の副作用症例報告

 副作用が報告されることが少ない日本ですが、それでも厚生労働省に対し、2000年度から2008年度までに、パキシルの副作用症例として心房中核欠損症が4例、心室中核欠損症3例が報告されています。また、同じ時期、新生児薬物離脱症候群の副作用症例報告は21例存在するとしています

 現在は出産可能年齢があがっていますから、メールをいただいた方も、まだ38歳。現在減薬中とのことですから、これから断薬をして、体調が戻れば妊娠も可能ではないかと思うのですが……。

 それにしても、向精神薬の服用は、副作用、離脱症状にとどまらず、患者本人(女性)の人生設計(結婚、妊娠、出産など)そのものへも大きな変更を余儀なくさせ、さらには生まれてきた子供の健康、人生にまで深くその影を落とすものです。

患者は病気を抱えた単なる生物学的存在ではありません。背後には家族もいれば、友だちもいて、そして枝葉のように広がっていく人間関係、そして人生を背負う社会的存在なのです。薬物はそういう領域にまで深く影響を及ぼすものであるということを、精神科医の皆様にはいま一度思い返してほしいと思います。


 

引き続き、被害の報告をお待ちしています。

 メールアドレス

 kakosan3@gmail.com