精神科の看護師をされている女性(R子さん)からメールを数通いただきました。

医療者側から見た、精神科病院の実態です。メールからは、現場におけるさまざまな矛盾、疑問を抱きながら、R子さんが看護師として日々葛藤と闘っておられる様子がうかがえます。

他より給料がよかったので今の病院に勤めました。勤めて5年になりますが、一度たりとも自分の職場を誇らしいと思ったことはありません。」と彼女は書いてきました。

以下、寄せられたメールを掲載します。


薬漬け医療

私は、精神科の看護師をしています。

毎日、「こんなんでいいの?…」と思うことだらけで、今の職場に嫌気がさしていたところ、運命的にこのブログを見つけてしまいました(笑)。

自立支援だ、退院促進だと言っても、実際は、静かにさせるために薬を飲ませ、効かなければ更に増やし、薬漬けにさせているだけ。

週に一度しか来ないバイトの医者は、受け持ち患者に会うこともなく 処方を出していきます

月に一度当直のバイトに来る医者は、夜間不穏になる患者に対し、ろくにカルテも見ず簡単に注射を打ちます

真剣に、社会復帰を目指して、希望を持ち療養している患者が、薬によって壊されていく姿をたくさん見てきました。いい顔をしていた人が、入院日数が長くなるにつれ、明かに「精神科の患者」の顔になっていく……。私が想像していた精神科医療とは全くかけ離れたことが、ここでは当たり前なんです。

何十年も勤めている先輩看護師が、よく「〇〇さん、昔はもっと〇〇だったのにこんなんなっちゃって…」と口にしますが、治療をしていて症状がひどくなるって、おかしいですよね(加齢によるものは除いて)。そんな患者さんばっかりです。

そして、それを何とも思わない看護師たちもおかしいです。


勤めて5年。でもいまだ、尊敬できる医者や看護師に出会うことはできません。

最近下の子が、「お母さんみたいな看護師になりたい」と言ってくれました。 とても嬉しかったけど、 とても恥ずかしかったです。私は毎日何をしているんだ……そんな思いが日に日に強くなり、職場への不満や精神科医療への疑問をたくさん抱えています。

私は初めて精神科に勤めましたが、他の看護師は長年精神科にいる人が多く、看護師自身もその体制に染まっている人が多いです。朝の申し送りで「夜うるさくて大変だった。先生薬増やしてよ」なんて、当たり前に言っています。

私は最初、疑問を持ちつつも、そーゆーものなのか? と思っていましたが、このブログに出会い、疑問は確信に変わりました。

医者も、まともと思える人は一人だけです。その先生はやりづらそうにしています。あとは、本当に医者か? と疑うような人ばかりです。私にはなんの力もないし、何ができるかわかりません。ただ、ちょっとでも苦しんいでる方のためになるのなら、役に立ちたい……そう思っています。

朝からまた長いメールをごめんなさい。今日は夜勤です。私にできることがあれば言ってください。


ここの病院は200床ほどあるのですが、常勤の医者は院長含め3名。うち1名は名前ばかりでほとんどいません。したがって、もう1人の医者の負担が大きくなる。結果、患者と向き合うこともせず、とりあえず薬ばかり出していく… …。

週に1日しか来ない医者が3名。担当患者の顔も見ず処方していきます。ナースが一言「最近落ち着きがない」と言えば「じゃあ、増やそっか」と薬を増やす。

外来ではとりあえず話はよく聞きます。そして落ち着く薬、眠れる薬……要はおとなしくさせる薬を出す。

患者は次に来た時には大抵の人が「あれを飲んだらよく効いた。楽になった」と言います。だからまた同じ薬を出す。たいして変わらないと言う人には、もっと強い薬を与えるだけです。

ちゃんと働きながらも外来に長く通っていた人は、やがて入院対象になって入院してきます。その時にはすでにもう社会復帰はまず難しいだろう……そんな状態になっています。

精神科では、患者も看護師も、薬をたくさん出してくれる医者をいい医者だと言います。遠くからくる患者さんは「ここの先生は薬いっぱいくれるからいーよ」と言っていました。おかしな話です。


社会復帰させない

看護計画を立ててもみんな形だけです。その人の能力や興味を引きだし社会復帰に向けて……そんなことを考えて計画を立てている私は馬鹿扱いです。おかしいことをおかしいと言う私は、職場で浮きまくっています(笑)。

看護計画はなんのために立てるか知っていますか? それは、年に1度の監査のためです。ココでは……。

1年前まで病院内の洗濯場で働いていた気のいいおじさんがいました。家庭内でいろいろあり、悩みやストレスを感じていたそうです。眠れない日が続き、軽い気持ちで外来を受診しました。

いまでは私のいる病棟に入院しています。統合失調症としっかり診断名を付けられています。

仮に私がいま受診したら、おじさんと同じ道を辿るでしょうね。そんな病院です。

まともな神経の持ち主は、みんな辞めていきました。私はただ、生活のために自分を殺して働いてきました。こうして文章にすると、ほんと、吐き気がします。私が転職するまでの間、 かこさんに何かを伝えられたら嬉しいです。


この間、勉強会がありました。精神科医療は在宅治療に力を入れる=訪問看護に力を入れるのが最近の主流だそうです。実際、入院している患者さんは、病院が治療の場というより、生活の場になっていて、施設化しています。退院を目指して入院治療している人も、多量の投薬治療によってどんどん人格が壊され、最後には家族も受け入れを拒んでしまうケースが多いです。

「社会に戻して、地域で支え、在宅でフォローしていく」のが理想なら、可能な人からどんどん退院に向けての治療、看護をし、社会復帰できるように支援していけばいいじゃないか! 私はちょっとワクワクしながら話を聞いていました。が、結局は「外来や訪看だけでは、経営はやっていけない。入院患者が必要だ。だから簡単に退院はさせられない」というような結論になったようです(私にはそう聞こえました)。

精神科は一般科に比べ医者、看護師の絶対必要数が低く設定されている。 そして、投薬の点数が高い。これらも過剰投薬になる原因だと思います。

うちの病院では週に1度、病棟毎に患者さんを集め、医者が司会者となり、それぞれ意見を言い合う場を持つのが通例になっています。やる気のない医者が司会者の場合、5分で終わる時もあります。患者さんは黙ったまま。「何も意見がないようなので終わりにします」。それでもカルテには「集団療法実施」と書かれます。詐欺ですね。」


病気を作り出す場所

「朱に交われば赤くなる」という諺がある。R子さん以外の看護師、医師は真っ赤に染まってしまっているのだろう。しかし、元々の「朱」はどこから来たものなのか?

 患者さんを一人一人、自分と同じ人間として見ていたら、R子さんが経験するような葛藤を抱えざるを得ないような職場、それが精神科というところなのだろうか?

 医師も看護師も、完全に感覚のどこかが麻痺してしまっているとしか思えない。

「精神病院の話としては、こんなのよくある話。まだまだひどい話もいっぱいある」

 そういう意見を言う人もまた、真っ赤に染まってしまっているといわざるを得ない。

 R子さんが書いているように、おかしいことをおかしいと言うこと。まともな感覚を持ち続けること。

 前のエントリで取り上げたKさんの例を挙げるまでもなく、精神科病院への入院という経験がその後のその人の人生にどれほどの影を落とすことになるか。

精神科病院は病気を治す場ではなく、病気を作り出す場でしかない。そして、病院側が口にするのはつねに「経営」という二文字である。そこには「医療」という概念がほとんどないのだ。

「精神科病棟は、患者を人間扱いしていません。人権、敬う、そんな言葉が皆無な場所です。」

現場を見てきたR子さんのいう言葉は重い。

そんな精神科病院であるのなら、いま私たちにできるのは、せめてそうした場所に近づかないことくらいだろう。決して安易な気持ちで入院などしないこと、家族を入院させないこと。そんな消極的な行為しかないだろう。

私は、精神科病院の根っこは腐っていると思う。

そして、そんな腐った根っこから出てきているのが、いわゆる町角クリニックなのではないだろうか。人権、敬う、そんな言葉が皆無な場所。薬漬け――やっていることは同じである。