35歳の女性から寄せられた体験をお知らせします。

彼女(仮にHさんとする)は7歳のころ自律神経失調症と診断され、被害妄想が出始めて、9歳の頃、幻聴、幻視を体験している。

精神科の初診は11年前、24歳のときだ。Hさん自身の記憶があいまいではっきりしないが「そのとき、誰かに付き添われて病院の精神科を受診し、そのまま緊急入院」となった。

最初の入院時は、本人の記憶もないくらい病状は悪かったらしい。症状としては、幻聴、幻視、憎しみ、そして他殺願望があったというが、当初の診断は「統合失調症」ではなかった。

といっても、「統合失調症」という診断名は2002年から採用されたものなので、この時点で、この病名なら精神分裂病ということになる。したがって、本人への告知はなかったのかとも思う。が、Hさんは、その後、8カ所の病院を転々と通院し、そのうちの4カ所で入院しているが、診断名は精神疾患あり―→うつ―→PTSD―→統合失調症という流れをたどった。


薬漬け

 その間の投薬についてHさんに尋ねたところ、以下のようなメールが送られてきた。

かこさん。こんにちは。

メッセージありがとうございます。力になれることを嬉しくおもいます。



部屋のどこかに以前医師が書いた紹介状があることを思い出し、探したところ見つかりました。(病院三か所のものが出てきました)

読んでみて「えっ!そうだったの?」と、忘れていた記憶が蘇ってきました。毎日よくこんなにも・・・。薬飲みすぎ!




①(平成17.2)
セレネース(ハロベリドール)3ミリ 5T
リスパダール(リスペリドン) 2ミリ 3T
ルーラン(ペロスピロン) 8ミリ 6T
ジプレキサ(オランザピン) 5ミリ 4T
レボトミン(レボメプロマジン) 5ミリ 1T
アキネトン(塩酸ビペリデン)1ミリ 3T
リボトリール(クロナゼパム) 0.5ミリ 3T (抗てんかん薬)
カマ 1.5グラム 3袋 (便秘薬)

ベゲタミンA 1T (抗精神病薬塩酸クロルプロマジン25㎎含有)

ロヒプノール(フルニトラゼパム) 1ミリ 2T (ベンゾ系睡眠導入剤)
レンドルミン(ブロチゾラム) 0.25ミリ 1T(睡眠導入剤)
セルシン(ジアゼパム) 5ミリ 1T(ベンゾ系抗不安薬)


②(平成17.10)
服薬に関して書いてありませんでした。



③(平成19.1)
レボトミン 50ミリ 4T
リスパダール 1ミリ 2T
ジプレキサ(オランザピン) 10ミリ 2T
ラキソベロン 20ミリ 15滴 (便秘薬)

ロシゾピロン(ゾテピン) 25ミリ 2T (強力な精神安定剤)
ロシゾビロン 50ミリ 1T
アーテン(トリヘキシフェニジル) 2ミリ 3T(抗パ剤)
タスモリン(ビペリデン塩酸塩) 1ミリ 2T (抗パ剤)
デグレトール(カルバマゼピン)100ミリ 2T (抗てんかん薬)レスリン 50ミリ 1T
レキソタン(ブロマゼパム) 5ミリ 1T (マイナートランキライザー)
ウプレチド(ジスチグミン) 5ミリ 2T (排尿障害治療薬)
ロキソニン 60ミリ 1T(鎮痛剤)
デパス(エチゾラム) 1ミリ 1T (マイナートランキライザー)
セルベックス 50ミリ 1カプセル(胃薬)
ベゲタミンA 1T
ベンザリン(ニトラゼパム) 5ミリ 1T (ベンゾ系睡眠薬)


④そして一年半前までは
セロクエル ベゲタミンA 2T ベゲタミンB 2T グッドミン マイスリー セルシン ユーパン アモバン リスパダール ワイパックスと、ここら辺を服用していましたが、記憶が曖昧です。」



 これらはそれぞれ1日の服薬量だ。これらの薬を入院時、そして退院後も服用し続けた。

 その間のHさんには、まず、希死念慮が強く現れた。また、「薬を服用することによって、自分では思ってもみない言動をとるようになりました。今までの私ではなくなり、人格が変わりました。何も出来ず、動けない。寝たきり生活にもなったりしました。そうかと思えば、凶暴になったり」




そして、どこの病院にいっても医師がコロコロと薬を替え、量を増やす、その繰り返しに、Hさんは医師を信用できなくなり、薬局で出された薬を帰り道、ゴミ箱に捨てたこともあったという。

そのときは薬を断っていたことになるわけだが、そうなると、数日は体調がいいが、すぐに悪化。そして、また薬を飲むということの繰り返し。

今から思えば、それは離脱症状だった。で、結局、離脱症状に耐えきれずまたしても入院となる。

統合失調症として、Hさんに言わせると、ネットで調べた症状のほとんどすべてを体験しているそうだが、薬剤によって引き起こされた症状もかなりあるのではないかと思われる。




精神科病院での体験

入院をした病院の一つで、Hさんは次のような体験をした。

10月1日付けブログ(「精神科病院入院でPTSDに」

http://ameblo.jp/momo-kako/entry-10664330315.html  を読んで、「ああぁ、私も同じことあったな!」と記憶がよみがえってきました。

あの時は隔離室に入っていた時でした。私は泣き叫び、「注射は嫌だ!なんで注射しなきゃいけないの!」と言い抵抗したのですが、男性職員三人がかりで、身体を抑えられ(一人は柔道の寝技のように私をはがいじめにしてきました)、ズボンを下ろされ、お尻に注射をしてきました。私は「注射をしていい」とは一言も言っていません。

隔離室はひどいものでした。隔離室の中にはポータブルトイレと敷きっ放しのふとんがあり、監視カメラがついています。壁には多くのヒビが入り、壁の塗装ははがれおちています。ポータブルトイレは、看護師が汚物を処理しに来る時間が決まっているので、その匂いの中、食事をすることが何度もありました。

ナースコールなど存在せず、入口には鉄の扉が二重になっているので、扉をドンドン叩いても、音は外には聞こえません。音が聞こえないので、私が気絶をしても誰も気づかず、助けにもきません。

もう二度とあの病院には入院したくないです。対応は病院によっても違います。そして人もそれぞれです。私の主張をわかってくれる医師や看護師もいますが、あまりにも辛い入院生活でした。」




一人の人間として

幸いHさんは去年の春入院した医師が、薬物依存から抜け出す手助けをしてくれて、現在では、落ち着いた生活を送っている。医師は「一人の人間として接してくれた」とHさんは書いている。




それにしてもあれだけの量の薬の減薬である。その離脱症状は当然のことながらひどいものだった。

「幻聴、幻視、希死念慮、被害妄想、強迫観念、脱力、摂食障害・・・まだあったような気がします。起きることができず、寝たきり生活。尿便は全てもらしました。お尻の周りはかぶれます。

また、唾液を呑み込むことができないので、枕元は唾液が溜まります。(汚くて申し訳ありません・・・)

何日もの間、食事がとれません。とりあえず色んな症状が一気に出ます。もう、なにがなんだかわけがわからないです。

数日間に数時間だけ動ける時がやってくるので、その時に汚れた物を洗濯し、お風呂に入り食事をとりました。そしてまた、離脱症状に襲われます。離脱症状で苦しんでいるときに、「こんな身体では、生きている価値ないな」と思いました。このような状態が約1ヶ月は続いたと思います。」



それでも何とか乗り切って、現在の1日の服薬は、なんとリスパダール1㎎のみである。



Hさんのたどった道は、精神疾患を抱える人なら、致し方のない道なのだろうか? 最初の入院時の状況がはっきりしないので何とも言えないが、少なくとも、その後の薬漬けの治療、精神科病院の非人道的な扱いは、当然とはいえない道である。

リスパダール1㎎で落ち着いている今、それは以前の治療があったからという考え方は成り立つのか? それとも、最初からそれくらいの薬でなんとかなったはずだったのか?




①の処方では、抗精神病薬が5種類。CP換算値はなんと2755㎎である。


抗精神病薬は単剤が世界基準である。

また、一般的には、CP換算値が1000mg以上であれば大量投与と考えられる。最近の脳科学のデータでは、ドパミンを60~80%遮断する量が抗精神病薬の至適用量なのだ。しかも、そのために必要な抗精神病薬のCP換算値はおよそ300mg~600mg。それを2755㎎とは。そのうえさらに、抗てんかん薬、睡眠導入剤、マイナートランキライザーのてんこ盛り。

Hさんも言っているように、「よく生きていた」、「よく人を殺さなかった」と思う。



読者の方から、精神疾患治療について、次のような意見をいただいているので紹介します。


まず入院は、例外はあるものの、120日をリミットとすること。身体に負担をかけないために、4か月をめどに緩やかな投薬をする。睡眠薬、抗パ剤、抗不安薬は使わないこと。

原則単剤、頓服1種類。CP換算値はせいぜい300~400㎎。抗てんかん薬を併用する場合は、200~300㎎まで。

そして、初期の症状が治まったら、外因性の原因を探る検査をし、外因性(内分泌疾患、代謝性障害etc.)であれば、緩やかに減薬・断薬を目指して、他科でのアプローチに変える。また、身体に負荷の少ない漢方や栄養療法等の試みも治療の枠に加えること。そして、患者の未来を想定した治療をすること



私もまったく同じ意見である。CP換算値2755㎎で治療を行う意味が私にはわからない。それは治療といっていいものなのかどうかも。

もちろん、私は精神薬を全否定はしない。Hさんの場合のように、緊急入院を要する場合や、精神病の陽性症状のときには、とりあえず薬は必要だろう。おそらくそれは尋常ならざる様子であり、女性でも大の男を投げ飛ばすくらいの信じられない力が出る。


しかし、問題はそのあとなのだ。薬によって静かになった患者をさらに薬漬けにして抑え込んでしまう。そこが問題なのだ。薬漬けの治療には、相手を人間として扱う心がない。薬漬けは治療ではない。陽性症状があたかもその患者の永遠の症状ででもあるかのように、まるで獰猛な動物を静かにさせておくとでもいうように……そんな心理が医療者側には確かにあると思う。しかも、薬剤によってHさんが言うように「凶暴になった」としても、それさえ病状の悪化ととらえて薬を上乗せするのでは、おそらく精神疾患は悪くなることはあっても、永遠によくなることはないだろう。


幸い、Hさんは減薬できる医師に巡り合うことができた。患者を一人の人間として見てくれる、心ある医師に。しかし、それは「運がよかった」ということだ。精神医療は、まさに「運任せ」の世界であり、悲しいかなそれが現実である。