大阪の精神科病院に勤務しながら、2007年、NPO法人精神医療サポートセンターを立ち上げた越智元篤さんに先日お会いしてきた。

うつ病や統合失調症などの治療においては「不適切」な診断、治療を受け続ける患者が少なくないことはこのブログでも再三取り上げてきた。越智さんたちの活動は、そうした「向精神薬万能論」的治療によって被害を被った人たちの話をじっくり聞き、時にはセカンドオピニオン医を紹介したり、あるいは、症状の重い患者の家族へのアドバイスを行ったりするものだ。



統合失調症――背景に発達障害

活動は、『精神科セカンドオピニオン』の笠陽一郎医師と知り合ったことで、その幅を広げることになった。第二弾の『精神科セカンドオピニオン2――発達障害への気づきが診断と治療を変える』には越智さんも参加している。

「抑うつ状態やPTSD、解離様の症状に悩んで(電話相談で)電話をかけてくる人のほとんどに、成長発達過程で家族機能不全(いわゆるアダルトチルドレン)があり、また人間関係がうまく構築できなかったり、物事を不器用にしかこなせなかったりと広汎性発達障害を疑う特性がみられた。」(130頁)

 と越智さんも本書の中で書いているように、統合失調症と診断された多くの事例の中に、じつはその背景に発達障害があり、それが見逃された結果の、統合失調症という診断がかなりの割合であるのではないか。越智さんが言う。

「診察のときの問診が足りないから、見抜けないんです」

 発達障害を見逃して、統合失調症としての投薬治療を行えば、どうなるか……。それが現在の精神医療に大きな影を落としている可能性は大きい。



 発達障害はいまだ未解明の部分も多いが、多くの精神疾患のベースとなることは知られている。パニックや興奮、錯乱、幻覚、妄想などあらゆる症状を併存させやすいことから、統合失調症と誤診されるケースも多いのだろう。

 私も、ある家族会に出席したとき、そうした話を耳にした。

 母親からの話だが、現在高校3年生になる娘さんは小学校時代、統合失調症の診断を受け投薬治療が始まった。しかし、多剤大量による治療のため、立って歩くこともままならず、結局車椅子の生活になってしまった。その後セカンドオピニオンを受け、アスペルガー症候群と診断された。現在はエビリファイ1錠と、3週間に1度のカウンセリングを受け、落ち着いた生活を送れるようになったという。母親は、

「発達障害そのものは病気ではない、だから、治すこともできないと先生は言われました。そして、統合失調症というのは発達障害の二次障害であり、統合失調症という病気の人はいないのではないかと」

統合失調症といわれるものの曖昧さがここでも浮き彫りになった。

 越智さんも言っている。

「統合失調症という病気は、僕としては、ない可能性のほうが高いと思っている。今は罹患率0.85パーセント、およそ100人に1人の発症と言われているが、診断名が乱発されているのではないか。アスペルガーの場合、薬ではなく休養で調子がよくなった例がたくさんある。これを統合失調症の前駆期ということで薬物治療をしてしまうと、おかしくなることが多いんじゃないか。しかも対象はみな年齢も若い子たち。それでもし違っていたら、どう責任とるんやって話です」



統合失調症は、早期に手を打てば発病せずに済むという考え方がある。早期治療介入。しかし、越智さんは言う。

「統合失調症というより、もしかしたら思春期妄想症とか一過性の精神病の場合も大いにある。若いときはホルモンのバランスが不安定だし、ちょっとしたストレスで統合失調症のような症状を呈することはよくあるのだから。

 それをわざわざ統合失調症の前駆期とか初期統合失調症とかいって、魔女狩り的に発掘して、予防的に投薬治療をしていくという考え方はどう考えても僕はおかしいと思う。5年間は投薬治療をするとしているけれど、それなら、5年間投薬治療して、元通りよくなったのかと言えば、そういうデータはないわけです」



薬剤性

「うつの治療でさえ、医者ができない状況で、多剤併用して、薬剤性の幻覚、妄想が出てきて、そのときに診断名がうつから統合失調症に変わることが多い」

「僕からみて薬剤性の人はいっぱいおる。それが長期入院となっている」

医師のプライド

「医師は、患者がよくならなかった場合、まず診断名を見直して、それから薬の調整をして、それでどうよくなったか、悪くなったかを見ることが必要じゃないか。

なぜ、多くの精神科医は、そうした試行錯誤をしないのかって? うーん、プライドじゃないですか。自分はこうやってきた、それを、はい、間違っていましたと言える人がどれだけいるかってことですよ」

多くの薬を使いたがる医者

「薬の最少量投与ではなく、最初はガツンといくという考え方の医者がたくさんいる。そういう投与の仕方がまだ正しいと思っているんです。じっくり待つことができない。症状ばかり見て、それにあわせて薬を出している」

「長期入院患者に対して、薬をポンポン変えることがよくある。そんなことをしたら離脱とか出て、何がどう効いているのかわからないのに、平気でそういう処方をする医者が大勢いる」



「幻覚、妄想にしても、薬でやって、それでスカッと消えるかといえば、そうはいかない。でも、本人が気にならなければそこでいいのに、ちょっとでもそうした症状が残っていると薬を投与する。そうすれば副作用が出る。おしっこが出ない、よだれが出る。こける。自分でトイレに行けない。要するに、人間としての部分が失われてしまって、もう妄想さえ出てこない状態になる。医者はそこを目指しているわけです。まるで脳を傷つけてロボトミーにする、それを薬でやっているようなもの。自覚? ないでしょう。あったらもうちょっとへこむやろ」

「僕個人の意見としては、ベゲタミンは必要ないと思います。それから、エビリファイ、ジプレキサは、不必要に処方されている感じですね。ベゲタミン? こんなもんなくても眠れますよ」

「医者は、たとえば睡眠薬は多ければ多いほど効き目もあると考えている人が多い」



何でもうつ病

「診断名にしても、縦割りだと思う。たとえば、うつ病の専門家はうつ病にすごく詳しいわけで、病名も「新型うつ病」とか「親和型うつ病」とか、なんでもうつ病にしてしまう。で、これは薬が効かないうつ病だと。僕から言わせたら、発達障害の適応障害だと思うんだけど。だから、薬なんか効くわけがない」

「何が中核的なものかを見極めないといけない。うつ状態があるからうつ病なのではなく、そこの中核は何か。発達障害なのか、アダルトチルドレン的な背景があるのか、PTSD的な背景があるのか、脳の器質的な問題があるのか、それをどうふるいにかけていくのか、それがプロの仕事だと思う

何でも発達障害

「発達障害が見逃されているといっても、今度は何でもかんでも発達障害というように、発達障害が流行のようになってしまうのは間違っている」



医師の知識不足

「ベンゾジアゼピン系の薬剤の場合、奇異反応というのがあって、特に女性に多いけれど、興奮して、感情のコントロールができずに泣きわめいたり、手首切ったりすることがある。それをベンゾ系の問題だと知らない医者は、それを消すためにさらに薬を上乗せする。たとえば抗精神病薬とか。まったく意味わからへん」

「抗精神病薬を出して、同時に抗うつ薬をだす医者がいるが、これは薬理機序としておかしい。治療がうまくいくはずがない、絶対に。でも、平気でやっている医者が多い」

「例えば僕の考えですが、発達障害の二次障害で幻覚、妄想が激しかったら、少量の非定型精神病薬と少量のベンゾ系の抗不安薬、それに気分安定剤をつかって、これで眠れない、そのとき4環系の抗うつ薬、これは睡眠薬としても使えるので。そういうふうに作用をいろいろ考えて処方すべきところを、馬鹿の一つ覚えみたいな処方があまりに多いと思う」

「自殺者3万人とかいわれているけど、うつ病の人が死ぬのではなく、うつ病の治療がうまくいかないから自殺したり、薬で自殺念慮が出てきて自殺している人が、3万人の中にはいっぱいおる」



最少量の処方

「薬というのは、神経伝達物質を自分でコントロールできないときに補助的に使うもので、薬を抜いてもコントロールできるのであれば、薬は必要ないと思う」

「減薬はまず教科書通りの減らし方で減らしていって、一方で環境調整も大切。薬剤以外でも、脳の伝達物質をコントロールできるという考えがあるので」

「発達障害の人は薬剤性過敏性で、本当にごくごく少量で調節しないと、すぐに副作用が出てしまう。1㎎、0.5㎎、0.25㎎、0.125㎎くらいの量での微調整が必要。でも、多くの医者はそういう視点をまったく持っていない」

「抗精神病薬のリスパダールはマックス12㎎となっているけれど、6㎎以上投与したら、あとは副作用しか出ないと言われている。頭の中のドーパミン遮断率が65~72%を超えたらあとは錐体外路症状しか出ないと。でも、いまだに6㎎以上試す医者が多い」


最後に

3時間半くらい話をうかがった中で、いくつか越智さんの考えを紹介した。もちろん、越智さんは精神科認定看護師(精神科薬物療法看護)の資格を持っているが(越智はいわゆるペンネームのようなもので、登録は本名で行っている)、医師ではないので薬の処方権を有しているわけではない。それを踏まえた上での意見である。

今年の9月にもこんなことがあった。9月11日、越智さんは愛知県で「発達障害の理解と精神疾患」と題してセミナーを開いたが、その最後に、次のような感想が述べられたそうだ。

「精神科医への批判があって、たいへん聞き苦しかった」

 越智さんは言う。

「アンケートの意見はすごく参考になったし、アドバイスとして前向きに考えていきたいと思っていますが、聞き苦しかったって……でも、その背後で患者さんの人生、どれだけ狂っているのかって言いたいです。このままで行きますか? もっと被害者増やしますか?って。 それくらい刺激的な言葉を使って訴えないと、起きない波っていうのがあると思うんです。とくに精神医療の場合は



電話相談、相談メール

 電話相談の場合、たとえば、治療をしてもよくならないというのであれば、経緯やエピソードを聞いて、あるいは薬、症状を聞いて、処方権はないが言える範囲内で、この薬でそうなっている可能性があるとか、できればこういうふうにやってくれる医師がいたらそちらに変わった方がいいとか、希望があれば病院の紹介などを行うことにしている。

対応は24時間体制だが、看護師として勤務しているので、勤務時間での対応はできない。しかも先日(10月7日)の読売新聞夕刊にも活動が紹介され、かなりの反響があったため、特に今は電話よりメール相談のほうが連絡がつきやすいかもしれない。


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