それでもわたしは知っている | 文京区小石川 もものマークのクリニック 院長ブログ

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文京区春日駅最寄りの形成外科・皮膚科のクリニック。
湿潤治療、シンプルスキンケアのこと、もっと皆さんに知ってほしい♪

 

こんにちは。

 

もものマークのクリニック 院長てしまですニコニコ

 

開業して8年も経つと


開業当時の赤ちゃんは小学生に

小学生は中学生や高校生に

中高生は大学生や社会人に


それぞれ成長している姿をしばしば目にして感無量になることも少なくありません。

 

今日は、1歳の時に腕の重度熱傷で通院していた女の子が、2年ぶりくらいに受診してくれました。


現在6歳、年長さんです。


メインの案件は彼女ではなく、3歳の弟くんのケガでした。

幸い小範囲で処置もそれほど大変ではない見込みだったので、手当ての方法を説明した上で


「おうちも近くはないですし、困ったことが無ければ保護剤の交換を続けるだけでいいですよ。

もちろん心配なことがあれば受診してください。」


とお話して診察は無事終了しました。

 

さて、お姉ちゃんのヤケドの経過。

 

今をさること4年半前、ヤケドを負った数日後、それまで治療を受けていた近所のクリニックでの処置に疑問を感じ、はるばるてしまクリニックまで来てくださった患者さんとその親御さん。


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ヤケドももちろん痛々しかったけれど


それ以上に肩を落とす親御さんの姿に胸が痛みました。

 

私にできることは、可能な限り苦痛の少ない処置をすることと

 

「時間はかかるけれど、必ず治ります。即刻必要な手術はありません。

ひどく体調を崩すことが無い限り、日常生活を送りながら治療できます。」

 

そう言ってさしあげることだけでした。

 

途中、お母さんの里帰り療養で鹿児島の医院(もちろん湿潤治療をしている施設)に引き継ぎつつ


2か月かかって、ヤケドの傷はふさがりました。

 

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治りたての傷跡は見た目が赤く目立つだけでなく

固く突っ張っていたり、かゆみが強かったり

ちょっとの刺激で薄皮がむけたりしました。


かといって傷跡のためにとガッチリ保護をしようとすると、彼女、お肌がデリケートで周りにあせもや湿疹が多発あせる

 

なので、傷跡の経過には注意をしながらも、負担の大きな保護は控え、最小限の(といってもスキンケアやらテープ貼りやら、親御さんの手間ゼロでは決して無い)治療のみで様子を見守りました。

 

そして、こちらが2年前。

ヤケドをしてから2年5か月の写真。

 

 

傷跡のひきつれによる関節運動の制限もなく

この先悪化することはまず考えにくいことと

気軽に経過を見せに来てもらうにはちょっとおうちが遠いことから

定期的な通院は終了として『何か困ったことがあれば受診する』でOKとしました。

 

そして今回の写真がこちら




傷痕の赤みは消えて、2年前よりもさらに硬さは取れてしなやかに伸び縮みするようになっていました。


これを見たとき思わず


ああ、ヤケドの跡、本当に綺麗になってきましたね!


という言葉が私の口を突いて出ました。

あれだけ深かったヤケドが、こんなに治ってくれて、という感動から。


お母さんも肯いてくださいました。


「そうですよね。ここのところさらに赤みが無くなって、目立たなくなったなって、私も思います。


でも」


ふと、お母さんの表情が翳りました。


「幼稚園でほかの男の子に言われたらしいんです。跡のこと。


『気持ち悪い』って。


なんて言うか、私の方がショックで……。」





すぐに返す言葉が見つかりませんでした。


安易に「綺麗になった」と表現した医者目線の物差しの甘さを悔い


落ち込むお母さんを力付けなければならないのに


多分私はそのとき


お母さんと一緒になって傷ついてしまったのです。


なんなら泣きそうでした。ぶっちゃけ。



鼻の奥がツンとしながらどうにかこうにか言いました。


「そういうこと言っちゃうヤツは、残念ながらいるんです。


知らないから、見たことがないから何となく怖くなって、貧弱な語彙の中からそういう言葉を選んでしまうのかもしれない。


意地悪してやろうという性根の曲がったヤツもいるかもしれない。


でも、どんな理由であれ言っていいことで無いのは確かで、それをお母さんやお嬢さんが気に病む必要なんてひとつもない。



でも…それでも、つらいですよね。」



お母さんと2人して、しんみりとした空気が流れてしまい、振り返るとあれは、やっぱりアカンかった。


何に対してって、娘さん本人に対して。


大の大人が2人してしょんぼりって。


「ひょっとしてこれわたしのせい?」


と、不安になったかもしれない。だとしたらごめんなさい。


当のご本人、診察椅子で弟くんとぐーるぐる楽しそうに回っていたので、大丈夫そうな気もするのだけど、少しでも何かしら感じていたら、悪いことをしたと思います。


お詫びというのも変だけれど、ここで娘さんと、お母さんに改めて伝えさせてください(たしか、お母さんはこのブログを読んでいてくれたから)。




この先、いろいろな人がいろいろ言ってくるかもしれません。


その言葉に傷つくときもあると思います。


過去を振り返って、あの時ああすれば、こうしておけばと悔やむこともあるでしょう。




それでも私は知っています。


娘さん本人が、小さな身体で頑張って治療を受けてくれたことを。


妊娠間もないお母さんが、悪阻に耐えながら通院に付き添い、おうちでも丁寧に処置してくれたことを。


お仕事の忙しいお父さんが、通院のために車で送迎してくれたことを。


お腹の中にいた弟くんが産まれてきて、きょうだい楽しそうにすくすく育っていることを。


私は魔法使いではないから、ヤケド跡を綺麗さっぱり消してあげることはできなくて、


親御さんの不安や後悔を消し去ってあげることもできないけれど


幼い2人を見ていると、親御さんがそこだけにとらわれずに、毎日繰り返す日々を大事に紡いでいる様子が伝わってきます。




へこんでも、心折れそうなことがあっても

彼女には、そんな家族がいるから大丈夫。


そしてあれだけのケガを乗り越えた彼女だから

きっと将来強くそして、

ひとの痛みのわかる、優しい女性になると思います。

そんな彼女の周りには、いい人がたくさん集まるはず。


これからの長い人生に、心からのエールを。


おばちゃん先生は応援しています。