夜明けも近く、薄明かりの中。
音も立てずにソラの寝室にお坊さんが入ってくる。
その顔にはミコトと話したときの優しさも包み込む安堵も何も無い、無表情だった。
ソラは来訪者に気づいておらず、布団にくるまって惰眠をむさぼっていた。
お坊さんは錫杖を構えるとソラの布団へ狙いを定めて一気に放った。
ヒュッと軽い音だけを放つと錫杖の先は布団を貫いて床に突き刺さるほどの勢いを見せる。
しかしお坊さんの顔は一気に影が差す。
布団も床も貫いた、なのに肉の感覚がない。
何よりも信頼する自身の感覚にお坊さんが首を傾げると、後ろから声が聞こえる。
「やっと、本性見せたか。坊さん。」
お坊さんの後ろにはソラがいつの間にか立っていた。ソラはすこし笑みを浮かべながら彼を見つめていた。
お坊さんは一転笑顔になってこちらに振り向く、しかしその笑顔は先ほどの表情を見た後ではあからさまに取って付けた歪な印象をもった。
そんなお坊さんにソラは問う。
「アンタも呪われた者か、」
「いつから気付いていた?」
逆に聞かれたソラは淡々と述べる。
「端から、と言いたい所だがお前が縁側でミコトと話していた時に確信した。坊さんにしては殺気が立派過ぎる。」
あのときか、とお坊さんは思っていた。
刹那、あの馬鹿女の発言に苛立ちを持ってしまった。
そのときを感づかれたか、いや最初から怪しまれていたのかもしれないな。
最初の奇襲が失敗に終わってもなお、いやむしろ落ち着いた表情でお坊さんは笑いかける。
「ふ、これで倒せるとも思ってはいないが。」
ソラは正面に立ったお坊さんからの圧倒的な圧を感じ取っていた。
こいつ、昨日の少年よりも強い。そう感じ取っていた。
「坊さんも禊狙いか?」
「小僧は禊を行う気か?」
「まぁな、坊さんには悪いが此処で足踏みしてもらう。」
ソラはスラリと刀を抜いた。
「殺しはしない。少しばかり痛めつけるだけだ。もう百年待ってもらうぜ?」
しかしお坊さんはソラの言葉を聞くと笑顔から一転まじめな顔になった。
「残念だが、ワシは禊を受ける気はない。」
「何?」
それは意外な言葉だった、だからだろうか動きを止めてしまった。
「考えてもみろ。ワシらは神に近い力を得たのだぞ?それを削ぐ真似をどうして犯す?」
「それは、」
それは呪いが・・・
「悪夢が怖いのか?はっ、悪夢が何だ?幻がどうした?存在しない事を恐怖してどうする?」
自然とソラは聞き込んでいた、本来そんな隙を見せてはイケナイ相手であったことを感じておきながら失念していたのである。
だからこそソラは
「そんな怖いならワシがその呪を引き受けてやろう。」
「!?」
お坊さんの攻撃を予測できなかった。
シャリン。
軽い金属音の後、暗闇から現れた黒い水がソラに襲い掛かる。
刀で防御するも圧倒的質量の前に庭へと押し出される。
その轟音が寺に響き、ミコトが飛び起きる。
「な、なに?」
何事か理解できずに寝室から廊下に出るとギョッとした。
廊下がまるで洪水でもあったかのように濡れている、雨なんか降っていないのにどうしたというのだろうか、
疑問に思う私は轟音のした部屋へと走って向かった。
「一体どうなっているのよ?」
水は床だけでなく壁も天井も濡らしていた。
だんだんと濡れ方が酷くなっているのが分かった、その中心はソラの寝室だ、
「ソラ!?」
ソラの寝室についた私の眼に飛び込んできた光景は異様の一言だった。
全身ビショビショのソラが膝をついて刀を構えている。
その相手はお坊さん。
お坊さんは刀を向けられているのにも関わらず錫杖を持ち堂々と立っていた。
私が自体を飲み込む前にお坊さんが私に気づいた。
「ミコト君、残念ながらやはり彼は化け物です。私を殺そうとしました。」
ソラが?と私が声を出す前にソラが鬼気迫る声で叫んだ。
「ミコト!坊さんから離れろ!そいつは俺と同類だ!」
同類って呪われた人間って事?そんなことあり得ない、
私が事実を飲み込めずにいるとお坊さんが笑顔で声をかける
「ミコトさん、彼を信じないで下さい私を信じてください。彼は鬼です。危ないですからこちらに来てください。」
今度はソラが必死に叫ぶ。
「そいつの言葉を信じるな!早く逃げろ!」
お坊さんの優しい言葉とソラの厳しい叱咤に挟まれた私は、
一歩、お坊さんに近づいた。
しかし
刹那、一度だけ見せたソラの弱った微笑が脳裏をよぎる。
その瞬間に私は一気にソラに近づいて彼の影に隠れた。
お坊さんは信じられないといったように叫ぶ。
「どうして!」
私はソラの肩を掴んで言ってやった。
「だから言ったでしょ?女の直感だって。」
私がそういうとお坊さんは今まで付き合ってきて見たことがないほど顔をゆがめた。
一方、私に選ばれたソラは私に嘆息しながらいう。
「俺は逃げろといったはずだぞ、俺を信じるなら逃げて欲しかった。」
「うるさいわよ。ソラの言う事は信じるけど従いはしない。」
ソラは深いため息をついた。
お坊さんは、顔をうつむかせて怨念がましくぶつぶつと口に出す。
「愚かな、素直にこっちに来ておれば良い夢を見せてやるのに。」
そんな暗い表情だったお坊さんだが唐突に表情が笑顔に戻る、いや戻ったんじゃないどこか歪だった。
そして今度は歌うように私にいう。
「ミコト君!君も家族の元に行くか?」
「えっ、どういう意味。」
「聞くな!ミコト!」
ソラの忠告も聞こえない私はお坊さんの言葉に耳を貸しきっていた。
「すまないね、私は色々と嘘をついていたんだ。ホントはね君の村人はね」
その後の台詞は声が聞こえなかった、しかし口元だけで理解させられた。
全員死んだよ。
怒りか恐怖かはたまた他の何かが私の体を震わしていた。
「最初の水害で半数以上を死んだ。そして残りは私が直々に殺した。」
死の歌を口ずさむお坊さんは私の思い出に残る優しい人ではなかった。
「水害が起きた時に私に助けを求めた者もいたな、全く持って面白かった。私が命を奪う直前まで私を信用していた、その中には君の家族もいたんだよ。」
ソラが刀から吹き出る青い炎の出力を強める。
彼は私と同じように憤怒していた。
「てめぇ!」
「君の家族の最後の言葉を教えてやろうか?」
歪んだ笑顔を浮かべるお坊さんに我慢できなかった。
「きさまぁ!!」
ソラが叫ぶと同時に私は無言でお坊さんに向って走っていた。
「待て、ミコト!!」
どうあっても私はこいつを叩きのめしたかった、命で償わせてやろうと思った。
何が出来るかと言われれば何も出来ない。
ソラみたいに武器を持っているわけでも、巨人のように怪力を保有しているわけでもない、少年みたいに裏技を知っているわけでもない。
ただアノ歪な笑顔を殴ってやりたかった。
しかし私の特攻はいとも簡単に止められる
お坊さんは只一突き、床をついた。
すると私とお坊さんの間に床の隙間から黒い水が立ちはだかる。
そして間に入った黒い水が枝分かれして私の体に取り付いた。
「いや、いやぁぁぁぁ!」
暴れて藻掻くが黒い水はだんだんと量を増やして動きを制限していき、最後には身動き一つとれなくなってしまった。
「ミコト!」
私を助けようと走るソラだったがそれを制するようにお坊さんは錫杖を私の首筋へと持ってくる。まるで今すぐにでも殺せるぞと言わんばかりに、
「これで一対一。好きに戦えるだろう?」
「分が悪くなったら、人質に取る気だろう。」
「どうだろうね?」
庭に降りたお坊さんに続いて後ろの寺の隙間という隙間から黒い水が僧侶の周りを囲みつつ量を増やす。
ソラは尚一層青い炎を更に強める。その炎は暗闇に光る一筋の希望の光のように私の目に映っていた。
「さて、始めようか。」
お坊さんが笑った。
音も立てずにソラの寝室にお坊さんが入ってくる。
その顔にはミコトと話したときの優しさも包み込む安堵も何も無い、無表情だった。
ソラは来訪者に気づいておらず、布団にくるまって惰眠をむさぼっていた。
お坊さんは錫杖を構えるとソラの布団へ狙いを定めて一気に放った。
ヒュッと軽い音だけを放つと錫杖の先は布団を貫いて床に突き刺さるほどの勢いを見せる。
しかしお坊さんの顔は一気に影が差す。
布団も床も貫いた、なのに肉の感覚がない。
何よりも信頼する自身の感覚にお坊さんが首を傾げると、後ろから声が聞こえる。
「やっと、本性見せたか。坊さん。」
お坊さんの後ろにはソラがいつの間にか立っていた。ソラはすこし笑みを浮かべながら彼を見つめていた。
お坊さんは一転笑顔になってこちらに振り向く、しかしその笑顔は先ほどの表情を見た後ではあからさまに取って付けた歪な印象をもった。
そんなお坊さんにソラは問う。
「アンタも呪われた者か、」
「いつから気付いていた?」
逆に聞かれたソラは淡々と述べる。
「端から、と言いたい所だがお前が縁側でミコトと話していた時に確信した。坊さんにしては殺気が立派過ぎる。」
あのときか、とお坊さんは思っていた。
刹那、あの馬鹿女の発言に苛立ちを持ってしまった。
そのときを感づかれたか、いや最初から怪しまれていたのかもしれないな。
最初の奇襲が失敗に終わってもなお、いやむしろ落ち着いた表情でお坊さんは笑いかける。
「ふ、これで倒せるとも思ってはいないが。」
ソラは正面に立ったお坊さんからの圧倒的な圧を感じ取っていた。
こいつ、昨日の少年よりも強い。そう感じ取っていた。
「坊さんも禊狙いか?」
「小僧は禊を行う気か?」
「まぁな、坊さんには悪いが此処で足踏みしてもらう。」
ソラはスラリと刀を抜いた。
「殺しはしない。少しばかり痛めつけるだけだ。もう百年待ってもらうぜ?」
しかしお坊さんはソラの言葉を聞くと笑顔から一転まじめな顔になった。
「残念だが、ワシは禊を受ける気はない。」
「何?」
それは意外な言葉だった、だからだろうか動きを止めてしまった。
「考えてもみろ。ワシらは神に近い力を得たのだぞ?それを削ぐ真似をどうして犯す?」
「それは、」
それは呪いが・・・
「悪夢が怖いのか?はっ、悪夢が何だ?幻がどうした?存在しない事を恐怖してどうする?」
自然とソラは聞き込んでいた、本来そんな隙を見せてはイケナイ相手であったことを感じておきながら失念していたのである。
だからこそソラは
「そんな怖いならワシがその呪を引き受けてやろう。」
「!?」
お坊さんの攻撃を予測できなかった。
シャリン。
軽い金属音の後、暗闇から現れた黒い水がソラに襲い掛かる。
刀で防御するも圧倒的質量の前に庭へと押し出される。
その轟音が寺に響き、ミコトが飛び起きる。
「な、なに?」
何事か理解できずに寝室から廊下に出るとギョッとした。
廊下がまるで洪水でもあったかのように濡れている、雨なんか降っていないのにどうしたというのだろうか、
疑問に思う私は轟音のした部屋へと走って向かった。
「一体どうなっているのよ?」
水は床だけでなく壁も天井も濡らしていた。
だんだんと濡れ方が酷くなっているのが分かった、その中心はソラの寝室だ、
「ソラ!?」
ソラの寝室についた私の眼に飛び込んできた光景は異様の一言だった。
全身ビショビショのソラが膝をついて刀を構えている。
その相手はお坊さん。
お坊さんは刀を向けられているのにも関わらず錫杖を持ち堂々と立っていた。
私が自体を飲み込む前にお坊さんが私に気づいた。
「ミコト君、残念ながらやはり彼は化け物です。私を殺そうとしました。」
ソラが?と私が声を出す前にソラが鬼気迫る声で叫んだ。
「ミコト!坊さんから離れろ!そいつは俺と同類だ!」
同類って呪われた人間って事?そんなことあり得ない、
私が事実を飲み込めずにいるとお坊さんが笑顔で声をかける
「ミコトさん、彼を信じないで下さい私を信じてください。彼は鬼です。危ないですからこちらに来てください。」
今度はソラが必死に叫ぶ。
「そいつの言葉を信じるな!早く逃げろ!」
お坊さんの優しい言葉とソラの厳しい叱咤に挟まれた私は、
一歩、お坊さんに近づいた。
しかし
刹那、一度だけ見せたソラの弱った微笑が脳裏をよぎる。
その瞬間に私は一気にソラに近づいて彼の影に隠れた。
お坊さんは信じられないといったように叫ぶ。
「どうして!」
私はソラの肩を掴んで言ってやった。
「だから言ったでしょ?女の直感だって。」
私がそういうとお坊さんは今まで付き合ってきて見たことがないほど顔をゆがめた。
一方、私に選ばれたソラは私に嘆息しながらいう。
「俺は逃げろといったはずだぞ、俺を信じるなら逃げて欲しかった。」
「うるさいわよ。ソラの言う事は信じるけど従いはしない。」
ソラは深いため息をついた。
お坊さんは、顔をうつむかせて怨念がましくぶつぶつと口に出す。
「愚かな、素直にこっちに来ておれば良い夢を見せてやるのに。」
そんな暗い表情だったお坊さんだが唐突に表情が笑顔に戻る、いや戻ったんじゃないどこか歪だった。
そして今度は歌うように私にいう。
「ミコト君!君も家族の元に行くか?」
「えっ、どういう意味。」
「聞くな!ミコト!」
ソラの忠告も聞こえない私はお坊さんの言葉に耳を貸しきっていた。
「すまないね、私は色々と嘘をついていたんだ。ホントはね君の村人はね」
その後の台詞は声が聞こえなかった、しかし口元だけで理解させられた。
全員死んだよ。
怒りか恐怖かはたまた他の何かが私の体を震わしていた。
「最初の水害で半数以上を死んだ。そして残りは私が直々に殺した。」
死の歌を口ずさむお坊さんは私の思い出に残る優しい人ではなかった。
「水害が起きた時に私に助けを求めた者もいたな、全く持って面白かった。私が命を奪う直前まで私を信用していた、その中には君の家族もいたんだよ。」
ソラが刀から吹き出る青い炎の出力を強める。
彼は私と同じように憤怒していた。
「てめぇ!」
「君の家族の最後の言葉を教えてやろうか?」
歪んだ笑顔を浮かべるお坊さんに我慢できなかった。
「きさまぁ!!」
ソラが叫ぶと同時に私は無言でお坊さんに向って走っていた。
「待て、ミコト!!」
どうあっても私はこいつを叩きのめしたかった、命で償わせてやろうと思った。
何が出来るかと言われれば何も出来ない。
ソラみたいに武器を持っているわけでも、巨人のように怪力を保有しているわけでもない、少年みたいに裏技を知っているわけでもない。
ただアノ歪な笑顔を殴ってやりたかった。
しかし私の特攻はいとも簡単に止められる
お坊さんは只一突き、床をついた。
すると私とお坊さんの間に床の隙間から黒い水が立ちはだかる。
そして間に入った黒い水が枝分かれして私の体に取り付いた。
「いや、いやぁぁぁぁ!」
暴れて藻掻くが黒い水はだんだんと量を増やして動きを制限していき、最後には身動き一つとれなくなってしまった。
「ミコト!」
私を助けようと走るソラだったがそれを制するようにお坊さんは錫杖を私の首筋へと持ってくる。まるで今すぐにでも殺せるぞと言わんばかりに、
「これで一対一。好きに戦えるだろう?」
「分が悪くなったら、人質に取る気だろう。」
「どうだろうね?」
庭に降りたお坊さんに続いて後ろの寺の隙間という隙間から黒い水が僧侶の周りを囲みつつ量を増やす。
ソラは尚一層青い炎を更に強める。その炎は暗闇に光る一筋の希望の光のように私の目に映っていた。
「さて、始めようか。」
お坊さんが笑った。