疲れ切っていたミコトは食事を終え、片づけを終えると縁側でうとうとしていた。

いくら青年とはいえ男の体重をささえて村へとやってきた彼女の体力はボロボロで精神面に置いても老人の少年との戦いを間近に見て窶れていたのである。

肝心のソラはと言うと食事の時、出来るだけ胃袋に食べ物を詰め込むとそのまま布団へと潜り込んでしまった。

若干の寂しさを感じつつミコトが瞼を自然と瞑ろうとしていた。
そんな彼女に声をかける一人の人間がいた。

「そろそろ寝たらどうです?ミコトくん、」

瞬時に意識を覚醒させた私は声をかける人間に笑いかけた。

「いいえ、ちょっとボォッとしていただけですから。」

「そうですか、あまり無理されないように。」

ミコトの笑顔につられたのか又はそれが僧侶自身のものなのか万人に好かれるような笑みを浮かべる。

この僧侶は私とは顔なじみであった。

村に近いこともあって儀式全般の運営を任されたり、相談役に話に乗ったりとして村人達からは全幅の信頼を置かれていた。

もちろん、私自身もそれに当てはまっていた。

幼い頃はこの寺で友達と遊んで無茶をしお坊さんに叱られるなど、ほほえましい思い出がある。

それは私が村から売られるまで延々と続いていた。

そんな僧侶は夜空を見上げながら感慨にふける。

「それにしても懐かしいですねぇ、ミコト君が出て行ってもう四季を五巡ほどしましたか?美しくなられた。」

「やだ、そんなことないですよ。お坊さんは全然変わりませんね?」

「もう年ですからね。早々変わりませんよ。」

実際のところお坊さんは本当に変わらなかった、子供の頃から一緒にいるのだが今の老人とも中年とも言い表せない容姿も人を包み込み安堵させる雰囲気もなにも変わらずに昔のままそこに居続けた。

私はそのことを不思議に思わなかった、むしろ変わらずにいてくれることの方が数段うれしかった。

お坊さんは私の横に座る。

「少しお話をしましょうか、」

「えぇ、もちろん!」

私はたくさん話した。

売られた直後に暴力を振られた話をするとお坊さんは本当に憤ってくれた。

毎日の畑仕事に最初は嫌がりながらも他の仲間と協同して乗り越えてそれはとても有意義だったことを伝えるとそれはよかったと微笑んでくれた。

そして話を進めて過去からはようやく近況にまで遡り、つい先日にあったソラの話をした。

しかしソラのことを言った私にお坊さんは始めて怪訝な顔を見せて、私に聞いてきた。


「つまり彼は人ではないのですね?」
「えっ、」

そんなことを聞かれた私の思考は停止した、そんな私に畳みかけるようにお坊さんは話し続ける。

「不老で人ならざる力を持った彼は最早人ではない。貴方の村を潰した巨人となんら変わらない。そんな人を信用しているのですか?」
「ソラは巨人とは違う!力のために人を殺さないって、言っていた!」

どこか棘のある言葉に私はとっさに反論する。

「貴方は彼の何を知っているのです?彼が言った事が真実だとなぜ信じられるのです?」
「それは、」

確かに会って数日も経ってない、確かにソラは人の枠を超えている。

お坊さんはただ事実を見て私に忠告してくれている、それは理解出来た。

しかし私にはソラを恐怖の対象としては捉えられなかった。

それは何故か?



走馬灯のように数日の記憶が頭を巡る。

私を守ってくれるソラ、

私が支えて支えるソラ、

名前を聞かれたときに戸惑うソラ、

怪我をしているのに自分の思いを果たそうと無理するソラ、



それらの映像を再度思い直して私は思った。



「それは女の直感です。」

私は彼を、ソラを信用する。そう言い切った。



「ふふふ、ははははは!直感か!それは実に君らしい答えだ!」

私の答えを聞いた途端にお坊さんは声高に笑い始めた、面を食らう私をおいてお坊さんはそのまま奥へと去っていく。

「まぁ、眠りなさい。それなら明日は忙しくなるでしょう。」

私はお坊さんの言葉に違和感を抱いた。