夕方特有の赤い色の光線が少年を照らしていた。
勝利者である筈の彼が見つめる視線の先には深い谷の底に流れる川があった。
(下は川か、落ちても死にはしないと思うが。)
少年は少し後悔していた、彼としてはソラ達を殺す気はなかったのである。
自分が禊を受けられる可能性を高める為に少しばかり痛めつけるだけの筈だった。
しかし少年が思っているよりもソラが強すぎた。
最初の余裕を失い最期には無関係な少女を巻き込んでしまった。
木々が軋んだ音を奏でる中で橋の中央で止まって見下ろした。
「すまないな、本当に。」
少年は聞えるはずのない彼らに対しての謝罪を口にした。
しかし少年の目には後悔よりも決意が勝っていた、
「禊まで後二日。これで悪夢からも、」
刹那、百戦錬磨の体と百年以上の時を耐えた老獪な精神が共に打ち震えるほどの殺気を感知した。
少年は背負っていた長年共にした運命が捻じ曲がる原因である弓を構える。
橋を渡った森は暗闇で染まっているが闇の中に何かがいる存在感があった。
暗闇の中にいる誰かがこちらに向けて歩き始める。
そして赤い光が当たったその人物に少年は口を開く。
「なんだ、お前。」
シャリン。
彼の返答は奇妙な金属音だった。
その音の後に暗闇から多大な水が押し寄せる。
「なっ、」
少年に押し寄せる黒い水、その攻撃を防ぐために音を響かせる。
風の爆弾が黒い水を一掃する。
それと共に少年は気付いた。
(川の水位が!?)
少年に襲い掛かる水の触手は目の前の物だけではなかった。
遥か下にあった谷底の川がいつの間にかすぐ下にまで上がっていた。
その川もまた黒かった。
「くっそぉぉぉぉ!」
前方の水と足元の水に囲まれた少年は飛ぶ前に水に飲まれる。
沈黙が訪れるとシャリンと無機質に音が響いた。
*
(あれ?ここは、)
回りは暗闇、自分が立っているのか、それとも倒れているかも分からない暗闇。
跳びまくる感覚に頭がガンガンする。
時間感覚も変になっている暗闇なかで声がうっすらと聞え始めた。
「ミコト、ミコト、ミコト!起きろ!」
その声が聞え始め理解した時から一気に意識が覚醒する。
覚醒した瞬間にソラの顔面が目の前にあった。
「大丈夫か!?ミコト!」
「あきゃぁ!」
「へ、うあぁ!」
叫び声を挙げた私は咄嗟にソラを突き飛ばす。
不意打ちを諸に受け、転がり転がるソラは近くにあった巨石に頭をぶつける。
奇妙な体勢で止まったソラに私はやばいと思いながら声をかける。
「大丈夫?」
「あぁ、一応な。」
言葉に棘を感じるも、一応は大丈夫であるらしく手を振るソラに安堵する。
「よかった、」
あたりを見渡すと私達は川原にいた。
見たことも無い川原だった。
そして日はさっきよりも大きく傾いている。
「死んでないなら返事ぐらいはしてくれ。」
そういうソラは明らかに疲れを濃く見せていた。
「私達、どうなって。」
「谷に落ちて川に流された。ようやく川から上がったらミコトが息をしてなくてな、」
聞く前にすべてを答えたソラに私は冗談を込めて微笑んだ。
「もしかして心配してくれたの?」
するとソラは肩を落としてまた疲労の色を一段と濃くした。
「もういい。」
立ち上がろうとしたソラの足から一筋、二筋と血が流れているのが見て取れた。
「あ、足が。」
「最後の最後に矢が一本だけ当たった、これぐらいなら問題はない。」
他人事のようにいうソラだったがどう見ても問題がないようには見えなかった。
すぐさま私はソラの足を取る。
バゴン!
「・・・何をする。」
足を取られたソラは受身も取れずに顔を地面に叩きつけられたソラは怒ったようにこちらを向く。
「アタシが手当てしてあげる。」
「いや、いい。悪化しそうだ。」
確かに私が目覚めた時より怪我が増加しているのは認める。
「いいから貸しなさい!」
私が無理やりに足を持ってきて手当てを始めるとソラは諦めたように大人しくしていた。
「応急処置はしたけど、どうするの?」
「このまま天壌院に向かう。禊まで後二日もない、待っている時間はない。」
ソラが立ち上がろうとすると頼りなくフラフラとふらつく。
私はそれを支えるとソラはばつが悪そうに顔を逸らした。
「どこが治療しなくても問題ない、よ。血を出しすぎたのね。もっとちゃんと治療しないと。下流にアタシの村があるからそこに行きましょう?」
「しかし、・・・ミコトは嫌がっていなかったか?」
「そりゃぁイヤだけど。」
私がソラの顔を直視するとソラも心配したようにこちらを見ていた。
「アタシを守るために怪我した人をアタシの我侭で死なせたら死んでも死に切れないわよ。」
私がきっちりと肩をもらうとソラはまだしてもいいものかと悩んでいる顔をした。
その彼に苛立ちと優しさを感じた私は声だけでも元気を出した。
「さっさと行くわよ!」
「あ、あぁ」