「中古車市場に良車は集まらない」
彼は僕にそう言った。
そして「考えてもみろよ」と話を続けた。

「考えてもみろよ。君が車を業者に売るのに、買取価格が君の見積もりよりも低かったら、損をしてまで車を手放したりはしないだろう?」

確かにそうだ。と僕は思う。

「つまり、中古車市場には状態が悪く、平均以下の価値しかない車が持ち込まれてしまうんだ。でも、話はそこで終わらない。
 車を買い取った業者は買い取った時点で、今度は売り手に立場が変わってしまう。
 この車に低い金額をつけると状態の低さが判明してしまうので、ディーラーは良車としての金額をつける。
 すると市場には程度の低い中古車が実際の価値よりも高値で出回り始める事になる。ここまではわかるね?」

「うん」僕は短くうなづく。

「さて、僕は今中古車を買おうと思っている。僕はきっと、安い値段の付いた車を手に入れることになるだろう。
 つまり、高い金額で悪車を買うのなら、悪車でもあきらめの付く安い車に手を出すというわけだ。
 こうして、市場からは質のいいものが先に売れるという通常の原理モデルは排除され、下等な車によって市場が支配される構造が出来上がっていく」

「なるほど」僕は感心をする。

「そこでだ。君が車を手に入れようとするのなら、絶対に新車にするべきだと僕は思う。そして偶然にも僕は車の販売の仕事をしている。さらに幸運な事に、たまたま新車のパンフレットをここに持っている」

彼は僕の目の前にパンフレットを出す。
僕は手に取り目を通してみる。

彼は熱心に商品の説明を始める。

僕は耳を貸しながら、最近のセールス手法は手が込んできたものだなぁと、ぼんやりと考えていた。