ある日の午後ハリケーン小僧がやってきた。

彼は「オッス!オラ、ハリケーン小僧!」と叫ぶと
そのままリビングに入り込んできた。

「えっと、何の用事かな?」僕は尋ねる。
「万事休す」彼は答える。
「何が万事休すなの?」
「定規みたい。約束した柔道、まだ途中」
「・・・?!」

彼の話はいつもこうだ。僕はハリケーン小僧を易々と家に入れるべきではなかったのだ。まったく僕は肝心な時に無用心なのだ。

僕は途方にくれる。

「イミダイパー。よくよく、バッセド、バラセル!」

すでに何語かもよく分からない。
仕方なく僕はあきらめて(僕はすぐにあきらめるのだ)
本を読むことにした。最初は気になっていたが慣れてしまうとそうでもない。ハリケーン小僧も気が済んだらきっと帰るだろう。

「時には、ソマニミ、いわゆるムーン!」
・・・もうそれほど気にならない。

「嶋田さんったら、ハミー!」
これはちょっと気になる・・・。

そんな思いを僕は何度も繰り返して、静かに彼の去るのを待った。

そして、ハリケーン小僧が来てから3時間がたった頃、彼は急にうずくまって静かになった。
ちょっと気になって僕は本を閉じ近くに寄る。
彼は真っ赤な顔をして小刻みに震えていた。

「おい、どうしたんだ?」
僕が声をかけても全く聞こえていないようだ。
そして5分後ようやく声を出し始めた。

「・・・・・ハ・・・・・・・・・・・・・・・・」

そのまま彼は唸り続ける。

「・・・・・リ・・・・・・・・・・・・・・・・」

「まさか!」嫌な予感が頭をよぎる。

「・・・・・ケ・・・・・・・・・・・・・・・・」

間違いない。
彼は今まさにここでハリケーンを起こそうとしている!
冗談じゃない。今ここでハリケーンを起こされたら
たまったものじゃない。

大急ぎで僕は戸棚にあった「東京ばな奈」を彼の前に差し出した。
「東京ばな奈」を選んだのには特に根拠などは無かった。
それは単なる勘のようなものだったのだ。

ハリケーン小僧はカウント・ダウンのようなモノをぴたりとやめ「東京ばな奈」を美味しそうに食べ始めた。

もぐもぐもぐもぐ。

本当に良かった、ハリケーン小僧はなんと言っても「東京ばな奈」に目が無かったのだ。