「国内で消費されるノスタルジーの約8割が、普通の民家で作られてるなんてちょっと意外な気がしないか?」

彼はピーナッツをいじりながら僕に言った。
「そうだね」
「今じゃ本場フランス産のノスタルジーなんて、ほとんど手に入らないなんてがっかりだよ」彼は笑う。
僕もつられて少し笑う。

「で、この話は何かの参考になったかい?」
彼は僕の顔を興味深く観察する。
「正直なところ、よく分からないな」
僕は素直に口にした。
「そうだろう。そんな気がしたんだ」
彼はテーブルの上のセブンスターをくわえると
マッチをこすり火をつける。
紫色の煙が店のライトで色を変えて立ち上ってゆく。

本当のことを言うと
「途中から工場の事よりムラセさんの事が気になった」
というのが僕の本音だった。
でも、なんというかそれは言うべきではないような気がした。

そして僕は工業地帯にある民家から生み出されるノスタルジーと、まだ見ぬムラセさんの事を思い浮かべてみる。でも僕には、何ひとつリアルなものは思い浮かべる事は出来ない。

国内で消費されるノスタルジーの約8割がノスタルジー工場で作られている

僕が知ったことはただそれだけの事だ。
それ以上でもそれ以下でもない。