「先生、今度のサスペンス劇場のシナリオの件なんですけど・・・」

担当が切り出した。

「殺人の手口がひき逃げというのはちょっと・・・。今回新たに加わったスポンサーさんに自動車メーカーが入ってまして、自動車が凶器というのには問題が・・・」

「じゃ、薬殺は?」シナリオ・ライターは聞き返す。

「申し上げにくいんですけど、大手の薬局チェーンも・・・。」

そう言うと担当はスポンサーリストをシナリオ・ライターに手渡す。

「結論から言うと、絞殺か撲殺というトコロが無難かと」

担当は申し訳なさそうに言った。

そして、さらに付け足した。

「でも、凶器にスポーツ用品と家電品はやめてください」

「うん」

彼ほどのライターになるとそれくらいの修正はどうって事は無い。

さっそくシナリオを書き直す。

彼の愛用のウォーターマン・カレンは独特の渇いた音を立てながら新たな手口を紡ぎ出す。

かりかりかりかり。

担当がまた申し訳なさそうに言う。

「ラストの動機なんですけど、後半は大手消費者金融さんがスポンサーになってまして、借金苦というのは・・・」

「うん」

さらに脚本に手を加える。

かりかりかりかり。

「10時を過ぎればスポンサーさんが変わりますので、出来ればカーチェイスや、銃撃戦も入れてもらえませんか?」

「うん」

かりかりかりかり。

シナリオ・ライターは今日もこうして筆を走らせている。