愛読しているカメラ雑誌CAPAの企画で北海道・帯広でばんえい競馬を撮影するというツアーに参加してきた。
撮影指導は、プロカメラマンの山岸伸氏である。
アイドルタレントのグラビア写真ではかなり有名な人である。
実際に会うと実に気さくな人だ。
年齢を感じさせないパワーがあり、実に若々しい。
但し、アシスタント(要するに「お弟子さん」ね。)にはかなり厳しい面も伺わせた。
プロカメラマンにも何人か面識のある方はいるが、お弟子さんを連れ歩いている光景を見たのは初めてだった。
よくドラマの中などでカメラマンが弟子に厳しく指導?するシーンをみるが、実際のところ、やはり自分の腕ひとつ、実力の世界だけに、かなり厳しそうだ。
我々の目があるので相当遠慮していた部分もあると思うが、やはりそこはかとない言動に「徒弟制度」の世界を伺わせるものがあり、なるほど~っと思ってしまった。
話は違うがカメラマンでマネージャーがいる人には初めて出会った。
マネージャーさんが今回のツアーにも同行していた。やっぱり相当稼いでいるんだろうなぁ~。
写真集などの出版実績だけを取っても被写体は有名タレントばかりだしなぁ~。
「激写」という流行語や「写真小僧」などの通称?で知られる篠山紀信氏よりはひと世代下になるのかな???
しかし、タレントのグラビア写真では、現役カメラマンの中で1、2を争うくらいの人気カメラマンではないだろうか?
ちなみに篠山氏の写真集は少ししか見たことはないが、写真としてはあまりときめいた記憶はない。もちろん、若い頃はきわどい写真に釘付けになったこともあるが、それは「作品」としての写真にではなく、被写体であるアイドルの持つエロチシズムに共感したに過ぎないと今は思っている。
若さゆえ・・・と言うところか。
その点、山岸氏の写真は被写体の魅力を引き出すと共に作品としての完成度も高いように思う。
ま、素人が偉そうなことを言っても始まらないが。(でも、写真集とか雑誌を買うのは「素人」なんだよね・・・)
その山岸氏がばんえい競馬に魅せられ、それをもっと多くの写真愛好家に伝えたいということで生まれた企画だそうだ。
雑誌CAPAの企画で、オリンパスが協賛として機材の貸し出しをしてくれていた。
もっともボクは初めて撮るシチュエーションで使い方もわからない機材はイヤだったのですべて自前を持ち込んだ。
初日の昼前から競馬場入りし、撮影を開始するが、秋の日ざしとは言え、昼間は光が強すぎてあまり絵にならない。
おまけに帯広のばんえい競馬場は市内にありアクセスが良いのは有り難いが、後ろにビルだの電柱だのが山ほど写り込んでしまい、背景の処理が難しい。
仕方ないのでボクは望遠を使って寄り気味のカットにすることで背景を排除したり、下からのあおり気味のアングルにして背景を空に抜いたりしてみたが、何せ、馬なんか撮るのは初めてだ。
勝手がわからず、メクラ撃ちである。
馬が跳ね上げる砂を止めるには、あるいは躍動感を残すには、はたまた、鞭を入れる騎手の動きを捉えるにはどの位のシャッター速度が良いのか?
それに背景の問題もある。
なるべく絞りは開け気味にして少しでもぼかしたい。
・・・・などなどそれなりに考えながらいろいろ試してみた。
とは言え、撮影できるポジションがかなり限られているのでとれる「絵」のバリエーションはそう多くはない。
しかも狙っている馬が良い動きの時に手前の馬が被ってきたりと、なかなか思い通りには行かない。
しかし、ばんえいに通い詰めている山岸氏のおかげで、競馬場や帯広市の全面的な協力の下、普通だったら絶対に入れないゴールエリアからの撮影をさせて貰ったり、客席と反対側のコースサイドからも撮影できたりと、難しいながらもたくさんのカットを撮ることが出来た。
そんな感じで、初日は終わってしまった。
しかしメインは二日目の朝である。
夜明け前からの調教風景を撮らせて貰えることになっていたのである。
朝、3時45分にホテルを出発し、5時前には調教場にて撮影スタート。
空は満点の星空。
・・・とは言え、かろうじて水銀灯の明かりで足元が見える程度だ。
風がないのが幸いだが、かなり寒い。あとで知ったが0℃近くまで冷えていたらしい。
あまりの暗さにISO感度を1600まで上げて、F2.8の開放でも1秒という世界。
手ぶれと被写体ブレでどうにもならない。おまけに水銀灯のせいで思い切り緑かぶりしている。
調教中の馬を驚かせてしまうのは言語道断。したがってストロボを使うなんて論外だ。
しかし、空が白み始めると1/2、1/6、1/15と少しずつ早いシャッターが切れるようになり、なんとか1/30あたりのシャッターが切れる様になり、本格的に撮影を開始した。
70-200mmf2.8では空が白み始めた頃からAFが使えるようになったが、500mmf4はまるで動かず。
しかし、日が昇る寸前にはAFが動き始めたのでぐっと撮りやすくなった。
真っ赤な朝焼けの中、馬の吐く息や体から立ち上る湯気が逆光で赤く染まり、まるで炎に包まれているかのような光景である。
「Horse in the Fire」
撮りながら、何となく浮かんだキャッチコピーである。
ボクはフォトコンテストなどにはあまり興味はないが、撮った作品にタイトルを付けるなら、これだろうと思いながら撮影をしていた。
ついさっきまで寒さに指先がかじかんでいたのも忘れて、日が昇りきるまでの約1時間、夢中でシャッターを押し続けた。
キャッチコピーのイメージを追い求め、ひたすら逆光の中で輝く馬体をとり続けた。
しかし、所詮、そこは素人。
ISO感度は随時調整し、、露出補正も暗い内はマイナス補正、明るくなってからの逆光ではプラス補正と多少は、考えたものの、最後の一番光が綺麗なときは、秋とはいえまだ光が強すぎて、ハレーションを起こしてしまい、残念ながら画像が白っちゃけてしまった。
こういう光の変化が激しいときほど、補正をかけるよりはマニュアルで露出を決めた方が撮りやすかったかも知れない。
それにしても本当に手を焼いたのが「ハレーション」。
真正面からのぼってくる太陽をまともに捉えての逆光撮影である。
画面の中に直接太陽を入れたら、乱反射して話にならない。
・・・とは言え、あえて逆光を狙っている以上、ハレ切りをする方法はないしなぁ・・・・。
せめてもの努力として、太陽そのものは馬体の影になるように立ち位置やアングルを多少は微調整したが、それでも光が強すぎてどうにもならなかった。
どうしたら良いんだろう。
もう少し寄れれば、背景の空の量を減らすこともできるのだが、調教を邪魔しないためと安全のために立ち位置が規制されていたので、いかんともしがたかった。
テレコンを持っていれば、何とかなったかも知れないが、調教場の真ん中でレンズ交換をするのははばかれたのであきらめた。
あるいは潔く引いたカットにすればよかったのかも知れない。
また、そんな状況なのでちょっとした被写体との位置関係で光の量が大きく変わるため、いくら補正をかけているとは言え、カメラ任せの露出では限界があった。
次からはマニュアル露出で撮ることにしよう。
・・・とまあ、いろいろ失敗も多かったが、初めて撮る被写体は、すべての面で良い勉強になった。
いきなり、うまくいかなくて当たり前である。
何よりも楽しかったので、後悔はない。
今度は、もう少し寒い時期に撮ってみたい気がする。
コースにはロードヒーティングがあると言うが、それでも周りが雪景色の時期や霜柱が立つような気温の中で夜明けの撮影をしてみたい。
その頃には日差しももっと柔らかくなっていい感じだと思う。