西吉井駅 を出発した列車は、住宅街の中を分け入るように進み、住宅街が途絶えた途端に、おなじみの田園風景が広がる。
車窓からの田園風景と言えば、先のひたちなか海浜鉄道湊線の旅 で見た、金上~那珂湊間の田園を思い出す。
湊線で見た田園は、どこまでも果てしなく田んぼが続いているが、それほど長くその風景が続かなかったのが印象的だった。
一方こちらの上信線は、どこまで走っても田園風景が飛び込んでくる。
つまり湊線沿線の田んぼは線路と垂直に広がり、上信線沿線の田んぼは線路に沿って広がっているという事がわかる。
その田園風景の途中で、線路が突然二手に分かれる場所があった。
ここは上信線に3つある信号所の一つで「新屋(にいや)信号所」と呼ばれている。
しかしこの信号所は、普段使われることは少ないらしい。
私が乗った列車も、信号所を利用するそぶりも見せずにスルーしてしまった。
前面にかぶりついていたので信号所があることが分かったが、普通にシートに着席していたら、そこが信号所であることすら気づかないであろう。
その信号所を通過するとすぐ、駅に停車した。
この駅で10駅目。ようやく半分だ。
「上州新屋(じょうしゅうにいや)駅」
ここで、前回の上信線の旅に引き続き、予想だにしていなかったハプニングに巻き込まれてしまった。
ホームに降りた途端、私と一緒に下車した女性が、発車しようとしてる列車を制止し、列車に向けておもむろにコンパクトデジカメを構え、運転手にポーズを取らせて写真を撮ろうとしていた。
この変なおば…
いや、この女性は何をやっているのだ?
こんな行為、都内の路線でやったら怒られるどころじゃ済まないぞ…
しかし、冷静に見ていると少し面白い光景だ。
私は、待合室に少し隠れるようにして、携帯でその様子を隠し撮りしてみた…
運転手にも女性にも、完全にバレてしまっていた…
無事に列車は解放され、私がカメラ撮影の準備をしてたら、女性がこちらに近づいてきた。
「あなた、学生さん?」
「え?私??とんでもない!結構いい歳です。大学は10年以上も前に卒業してます(中身は学生のまま成長していないかもしれませんが…)」
「今日は観光かなにかでこっちにいらしたの?」
「はい!今、上信線のすべての駅に下車しているところです!」
「あらま~偉いわね~!!写真とってあげましょうか?」
「い、いや、ごめんなさい、それは結構です…(私ほど、被写体に向かない人間はいないので)」
「あらそう?私、こういう者なんだけど…」
と言われて、名刺を渡された…
何とこの女性、この辺の町の町議会議院であるらしい!
変なおば…などと言ってしまって、大変失礼仕った。
名刺の裏には彼女のプロフィールが書いてあって、よく見るとその中に…
「上信電鉄に銀河鉄道999列車を走らせよう実行委員会委員」
驚くことにこの女性、上信電鉄のご意見番だったようだ。
西山名駅 で見かけた999号は、彼女の意見によって走っていたものであった。
ようやくここで、駅の紹介である。
単式ホーム1面1線と小さな駅舎、そしてホーム上に小さな待合室を有する無人駅。
こちらも、先の西吉井駅と同じく、窓口の跡が残されていることから、元は有人駅であった事が伺える。
小さな木造の駅舎は深い茶色の塗装が印象的である。
先ほどの先生の印象があまりにも大きくて、駅自体の印象が薄れがちである…
良くも悪くも、折り返し地点にさしかかった。残すはあと10駅。
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