12時10分
殿山駅から勝田行き列車に乗って一駅戻る。
殿山駅を訪れる際に左に曲がって通過してきたカーブを、今度は右に大きく曲がり、列車は駅に停車した。
「那珂湊(なかみなと)駅」
単式と島式ホーム2面3線を有するこの駅では、全ての列車の交換が行われ、湊線の主要駅となっている。
駅名標も、鉄道にちなんだデザインとなっている。
ホームに降りると、キハ3710とは異なる、いろんな種類の車両が停留されているのが目に入る。
この駅には、ひたちなか海浜鉄道の車両基地である機関区が隣接されている。
それにしても、この日は不運だった。
停留されている珍しい車両は、この日1両たりとも運行されていなかったからだ。
1番線ホームに備え付けられている上屋は非常に味わい深く、その木造の柱などに歴史を感じさせられる。
駅舎の中は待合室になっており、そこで年輩の流し風のミュージシャンが、気持ち良さそうに唄を披露していた。
外に出てみると、駅舎は木造で大変良い雰囲気を持っていた。
今年で開業百年を迎えるこの駅は「歴史と伝統のある駅で開業当時の面影を残した駅」という理由で「関東の駅百選」に選定されている。
ところでこの駅を訪れた時は既に昼時であった。
昼食はもう決めていた。
ひたちなか市と言えば港町。
港町と言えば海の幸である。
駅から東へ10分ほど歩いたところに、那珂湊漁港に隣接する「那珂湊おさかな市場」があるという。
せっかくなので少し寄り道して、昼食に海の幸を頂くことにした。
市場に向かって歩いていると、道路には車が渋滞の列をなしていた。
車のナンバーを1台1台見ていくと、いろんな地名が見られる。
この近辺の「水戸」ナンバーは殆ど見られず、茨城以外の関東のナンバーが7割程度、東北のナンバーが2割、それ以外のナンバーが1割程度を占めていたと思われる。
彼らは、市場の駐車場の空きを狙って行列を作っていたのだ。
列車で来れば渋滞なんぞ関係ないのに、と一人得意になって市場に足をそそくさと運ぶ。
この「おさかな市場」は、水揚げされたばかりの魚介類が豊富に取り揃えられており、はるばる多方面から新鮮で非常にリーズナブルな魚を求めてやって来る人が後を絶えないという。
市場にたどり着き、そこに足を踏み入れるとまず感じるのは潮の香り。
天候は良くないが、この日は日曜日。市場としても書き入れ時であろう。
それにしてもこの辺の地域も、あの大震災で被災し、少なからず被害を被っている筈である。
しかしこの活気を見ると、被災したことなど全く感じさせられない。
あの震災から半年で、よくここまで復興できたものだと感心させられる。
私は人混みは苦手だが、こういった活気のある光景を眺めるのは嫌いではない。
さて私は、海の幸を味わえる店を散策する事にする。
そして、
1軒の回転寿司屋に入った。
この広大な海を目の当たりにしても、私の貧乏性は変わらないようだ…
無論回転寿司屋の中も超満員。
何組かのグループが行列を作っていたが、単独の私はすぐさまカウンターの1席に通された。
一人旅の特権である。
早速寿司を頂こう。
とにかくネタがでかい。
どんどん寿司が、私の胃袋の中に詰め込まれていく。
しかし…
寿司は美味いのに、店員の対応が雑なような気がした。
いくら忙しいからと言っても、仕事はきっちりやってもらわないと、店全体の印象がどうしてもマイナスになってしまい損だと思うのだが…
次来たとき、おそらくこの店はパスである。
店の紹介も控えておこう。
いかんともしがたい満腹感で店をあとにし、しばらく市場の雰囲気を味わってると、あっという間に列車の時間が来た。
急いでおさかな市場を後にし、那珂湊駅に戻る。
さてこの那珂湊駅、名物駅長がいると聞いていたのだが…
列車が来る時間が近づき、改札が始まった。
ホームに入ると、我が物顔で歩く1匹の黒猫が居た…
彼こそが、この駅の名物駅長、「おさむ」である。
名前の由来は、説明を受けなくても分かった。
昭和40年代半ばにヒットした「黒猫のタンゴ」。
それを歌ったのは「皆川おさむ」。
これ以上の説明は不要であろう。
日本に、いったい何匹の「おさむ」がいるのかは不明であるが。
数年前から那珂湊駅に住み付き、現在は1番線ホームに「指定席」のサボのある専用のベッドも与えられ、集客の役割を期待されている。