11時29分。
1両編成の桐生行き列車は、定刻通り間藤を出発した。
桐生から間藤に向かった時と同じように、進行方向の右側のクロスシートに座る。
あの長いトンネルの手前までは、渡良瀬川は進行方向右側に姿を現すからである。
間藤から3分程で、足尾駅に到着。
長閑な雰囲気の中に佇む、歴史を感じる木造駅舎と、ホーローで出来た駅名標は非常に印象的である。
国鉄時代に稼働していたと思われる気動車も、何両かこの駅にて静態保存されていた。
足尾を後にすると程なくして、通洞(つうどう)という駅に着く。
観光客と思われる人たちが何人も乗り込んできた。
この駅の付近には、国内最大の坑内観光「足尾銅山観光」がある。
実際に銅の発掘が行われていた坑内を開放し、400年続いた銅山の歴史が学べる。
通洞を後にして、廃墟と化した銅山の施設跡を横目に列車は進み、進行方向右側に渡良瀬川の清流が見えてくる。
原向駅を過ぎてしばらく進むと、同線で最も急曲線の「坂東(ばんどう)カーブ」にさしかかる。
このカーブは、わたらせ渓谷線沿線で最も急曲線のカーブであり、列車もかなりスピードを殺して走行する。
この辺りの景色は、列車からでしか臨むことができない、という車内放送での案内があった。
11時59分。
長いトンネルを抜け、到着した駅にて私は下車する。
「神戸(ごうど)駅」
国鉄時代は、兵庫の神戸(こうべ)駅と区別を付けるため、この駅は「神土駅」と標されていたらしい。
第3セクターに転換した際に、本来の地名である「神戸」に改称されたとの事である。
相対式ホーム2線2面を構え、殆どの列車は、この駅で上下の交換が行われる。
立派な木造駅舎も構えられている。
しかしこの駅の最大の特徴は、桐生方面のホームに列車が2両止められており、この列車をそのままレストランの建物にして営業されていることである。
レストランの名前は「清流」。
列車は元東武鉄道の特急、デラックスロマンスカーとして運営されていた1720系だ。
時間も時間なので、早速「清流」にて昼食をとる事にする。
注文は食券の購入にて行う。
私の好物のカレー(キノコ入り)を注文して、クロスシートの席についてみる。
車両の内装はほとんど改造されていないらしい。
車内、というかレストランの中は、時間帯もありそれなりに混雑していた。
カレーの味は…
個人的に、もう少しスパイスが効いていたほうがよかった。
再びここに来た時に、同じカレーを注文するかどうかは非常に疑問である。
わ鐵名物の、トロッコ列車にちなんだ「トロッコ弁当」なるものがあるらしく、次の候補はそれだと決めた次第であった。
食事も終わり、次の列車まで時間もあったので、少し駅周辺を散策してみることにした。
すると、レストランの車両の脇に細い道を見つけた。
その道に沿って歩いてゆくと、
渡良瀬川の岸辺までたどり着くことができた。
どうやらここは小さな広場になっている。
この場所はあまり知られていないのか、人の姿はまばらであった。
川のほとりまで近づき、誰にかけるでもなく、川の水を手でぴちゃぴちゃ一人ではねたりしてみる。
秘密の場所を見つけたような、童心に戻ったような気分になり、川の優しい流れを眺めて次の列車を待つ。
それにしても、山奥まで来てみても暑さからは逃れられない。
今日は随分汗をかいた。
一刻も早くこの汗を流したい。
そんな欲望をも満たしてくれる駅が、わ鐵にはあるのだ。
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