バスに揺られていた。
日曜日。
バスは混んでいて、つり革を握っていた。
今日は仕事が忙しく疲れていた。
前に座っている男性は文庫本を読んでいた。
二重まぶたに長いまつげ、高い鼻の端正な顔立ち。
見惚れた。
何を読んでいるのだろう、と本のタイトルを見ようとした。
そこからは記憶がない。
気付くと病院のベッドに寝かされていた。
「バスの中で気を失ったみたいで・・・。乗っていた方が付き添ってくれていたんですが、もうお帰りになられたようで。」
と看護師さんに教えられた。
「どんな方でした?」と訊くと、
「名前をお訊きしてもおっしゃらなかったんですが、若い男性でした。」
「髪型とか?」
「きのこカット、っていうんでしょうかね~?あ、マッシュルーム?」
目の前で、本を読んでいたあの人!
もう一度会えるだろうか?と仕事のある日は同じバスに乗っていたが、会えなかった。
しかし
その人はテレビの中にいた。
♪バスの揺れ方で人生の意味がわかった日曜日
でもさ君は運命の人だから強く手を握るよ
「干したばかりの布団にくるまって眠るみたいな温かい歌を作っていきたいです。」
まさか!
そして、やっと会えたのだ。
同じバスで。
降りようとしたので、追いかけた。
私に気付いて振り返った。
「何か?」
「あの、この間はありがとうございました。病院まで付き添ってくださったのはあなたですよね?」
「あ~はい。」
それから、私の運命が動き出した。