発売日 : 2015/11/28
文 庫 : 381ページ
昭和48年、
小学校3年生の裕樹は県境に建つ虹ヶ本団地に越してきた。
一人ぼっちの夏休みを持て余していたが、同じ歳の
ケンジと仲良くなる「遠くの友だち」。
あなたの奥さまは私の妻なんです―。
お見合い9回の末やっと結婚にこぎつけた仁志が
突然現れた男にそう告げられる「秋に来た男」。
あのころ、巨大団地は未来と希望の象徴だった。
切なさと懐かしさが止まらない、連作短編集。
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引き続き、昭和を感じるお話をチョイス。
巨大団地は、まさに昭和の象徴です。
そんな団地を舞台にした7つの連作短編集です。
『かたみ歌』の舞台である「アカシヤ商店街」から
虹ヶ本団地という巨大団地に舞台を移した続編?
登場人物達がリンクしてます。
「遠くの友だち」
夏休みに団地に引っ越したものの、友達がいない中
団地内を探検している裕樹は、変な生き物を目撃。
その後、公園でケンジに声を掛けられ
仲良しになったが・・・
家族の都合で急に決まった旅行の為に、
約束を守れなかった裕樹だったが、
本当のケンジは・・・
「秋に来た男」
突然、訪ねてきた男に「妻」を返して欲しいと言われ
あなたの妻は私の妻だという。
男が語る妻の腕の痣の特徴も、妻と同じで・・・
テレビでコメンテーターが語っていた
「自ら命を捨てた者は、事故や病気で死んだ人とは
別の場所に行かされて、後追い自殺しても、
死後の世界では会えない」と言っていたのは
こういうことなんだと思いました。
この考え方は、ちょっと信じていたりします。
とても寂しいお話でした。
「バタークリームと三億円」
三億円事件が発生した日、従姉のマリアが自殺した。
美人で活動的で輝いていたマリアに嫉妬のような感情を
持ってはいたのだが・・・
路子の危機を救った幻のような手
熱を出した息子を介抱した見知らぬ女性は・・・
そしてまた、イスがギシっと音を立てて・・・
「レイラの研究」
胸元まで届く艶々の長い髪だった怜子が
モンチッチのように髪をバッサリ切っていた。
ホームズにハマって、探偵気分の良輔は
怜子がガラリと変わった理由を捜査して・・・
頭の中で「いとしのレイラ」を響かせて
捜査する涼輔
頭の中で曲がリピートする感じはわかる。
「ゆうらり飛行機」
息子を亡くした私は、飛行機おじさんの
異名を持つ初老の男性:森沢氏と繋がりを持ち
更に苦手な印象だった菊谷氏と繋がったのだが・・・
亡くなった息子の誠が結んだ縁。
新しい飛行機の試運転では人が集まり
ゆうらりゆうらりと、飛んでいく飛行機に
新たな決意が芽生えていた。
「今は寂しい道」
亡くした妻へ、日記のように日々の事を綴る俺
ある日、雷が落ちた場所にイタチのような
動物を発見して、家に連れ帰ったのだが・・・
今は寂しい道・・・それは、ここさえ通り過ぎれば
事態はきっとよくなる。という二人の思い。
だから、この道を歩き通せば、きっとまた会える。
「そら色のマリア」
三億円事件の日に自殺したとされたマリア
マリアを愛していた尚希は、捜査依頼を続け
とうとう自殺に偽装された事件だとわかり・・・
人間は、どんな悲しみにも馴れ、やがて忘れていく。
それを「時薬(ときぐすり)」と呼ぶ人もいる。
彼女が遠くなるくらいなら、いつまでも胸が
痛いままでいいのに・・・
これは本当に切ないです(T□T)
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「8時だョ!全員集合」が放映され、
「三億円事件」の時効が成立した時代。
まさしく昭和レトロ・・・
日常に紛れ込んでくる非日常。
物語がリンクしてくれているので雷獣の
その後がわかって、ちょっと安心。
ただ、マリアの話は理不尽かと・・・(-。-;)
人は自分の経験則だけで全てを判断しがちだが
のど元過ぎれば熱さ忘れるという落とし穴が
付き物だったりする。
これには、納得するしかないなぁ~
まだ夢を夢として語れた時代だったのかもしれない。
しんみりと楽しめました。