発売日 : 2017/10/6
文 庫 : 446ページ
八歳の女児が乗用車に撥ねられ死亡する。
運転手は不起訴処分になるが、そこには罪深い大人たちの
様々な打算が働いていた。
患者よりも病院の慣習を重んじる医師、損得勘定だけで動く
老獪な弁護士、人生の再出発を企む目撃者……。
そして、遺族の疑心と刑事の執念が交錯した時、少女の死を巡る
衝撃の事実が浮き彫りになる。慟哭の長編ミステリー。
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初めましての作家さん。
ドラゴンボーイの憂鬱さんのレビューを読んで購入しました。
よく耳にする交通事故
スピード違反、信号無視、前方不注意・・・
結果、横断歩道を渡っていた小学2年生の少女が
重傷を負い、間もなく死亡。
申し訳ないのですが、本当によく聞く話です。
そして、運転手に責任があることになる。
しかし、そこに関わる大人たちによって、
ありがちな事故が、そうじゃなくなる。
少女を轢いたのは資産家のドラ息子。
事故直後を目撃した主婦は金に困っていた。
ドラ息子には、やり手の弁護士がついている。
加害者と唯一の目撃者の証言では、信号は青だった。
では少女が信号無視をして横断歩道を渡ったのか?
近所の人の知らせで母親は救急車に乗ることが出来た。
母娘を乗せた救急車が最初に向かった近くの病院。
しかし、外科医の指示によって受入れ拒否。
被害者の状態から、助からないと判断した外科医は
救急指定病院ではないからと、本来行くべき病院を指示した。
看護師は緊急手術中で受入れ不可能と、咄嗟に嘘を。
しかし、受入れていれば被害者は助かったかもしれない?
その後、外科医は愛人とサッカー観戦に行った。
その愛人は、もと同じ病院の看護師。
受入れ不可能と電話で伝えた看護師は、
実は外科医に好意を持っていて、愛人とは元同僚で、
二人の関係も知っていた。
ドラ息子の弁護士は、目撃者を操り執行猶予を勝ち取る。
ドラ息子は、自由の身である。
ストーリーは事故直後の様子と、関係者を観察する様子と、
関係者たちの動き。そして残虐な行為の描写。
やがて事件として発覚するものの、誰も交通事故と結びつけない。
しかし、捜査している刑事は、何かが頭で引っかかっている。
そのもどかしさったら・・・
被害者の少女は母子家庭だった。
少女の母親は、家族に父親は不要と思いこみ、妊娠を機に
子どもの父親と無理矢理別れてていた。
極端な思いこみに縛られてはいたが、
母娘の生活が幸せに満ちていた。
幸せに満ちていたからこその、計算しつくした行動と執念。
「よその子どもが死んだときと、自分の子どもが
転んだ時の気持ちが釣り合う」という一言にゾッとしたが
それが親としてのまともな感情なのだろう。
そして思い出したのが「レインツリーの国」の中の一文
「救急車で病院に担ぎ込まれるような重病人が近くにいても
自分が指を切ったことが一番痛くて辛い、それが人間だ」
そうだった。人間って自分も含めて、そんな生き物だった。
まずは自分。それから自分から見た優劣で判断する。
自分を守れなければ、それ以外を守れない。
ある意味正論であり、逃げ口上なんだよね。
語彙が貧弱ですんません<(_ _)>
証言1つで、加害者と被害者の立ち位置がこれほどまでに
変わってしまうという事に恐怖を感じました。
「かわいそう」の言葉の裏には無意識の優越感がある。
だから、その言葉は人を惨めな気持ちにさせる。
なるほど・・・確かにそうかもしれない。
そして、あの結末だと、大好きな娘と一緒にいられないと
個人的には思ってしまった。