営繕かるかや怪異譚(その弐)/小野 不由美 | mokkoの現実逃避ブログ

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単行本:328ページ
発売日:2019/7/31

営繕屋は 死者の声を聴き、修繕する。 
人々の繋がる思いに涙する魂の物語

かつて花街だった古い町の実家に戻ってきた貴樹。
書斎として定めた部屋の鏡を何気なくずらしてみると、
芸妓のような女が見えた。
徐々にその女から目が離せなくなり…。(「芙蓉忌」より)。
佐代は『通りゃんせ』の歌が嫌だ。
子供のころ、夕暮れの闇が迫る中、怖いのを我慢して
神社への石畳の道を走っていると、袴を穿いた鬼に出会い―。「関守」
三毛猫の小春は交通事故で死んでしまった。
あるとき息子が裏の古い空家から小春の声がするという。
得体の知れない「何か」は徐々に迫ってきて―。「まつとし聞かば」
住居にまつわる怪異や障りを、営繕屋・尾端が
いとも鮮やかに修繕し、解決へと導く―極上のエンターテインメント。
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第2弾

営繕とは、建造物の新築と修繕、また模様替(リフォーム)なども含む。
「かるかや」とは、山野に自生するススキに似た多年草。

屋根を葺 (ふ) くために刈り取る草 

優しさと哀しみと恐怖に満ちた全6篇。
これは日常の謎ならぬ、古い町や建物が連なる場所に現れる
日常に紛れ込んできた怪異。
その原因を営繕屋・尾端が建物を修繕したり、アドバイスしたりして
解決していくお話ですが、尾端の登場は少ししかないです。
そこがまた、ひかえめでいいんですよねぇ~
各お話の語り手は、怪異の最中にいる主人公達です。

「芙蓉忌」
花街だったという古い町並みにある町屋の実家に戻ってきた貴樹。
貴樹が書斎として定めた部屋の書棚に立てかけられた鏡を

ずらしてみると、柱と壁に深い隙間があった。
そしてその向こうに芸妓のような三味線を抱えて座る
はかなげな着物姿の人影が見えた。
やがて貴樹がその女を見ずにはいられなくなり……。

これは、覗いているという疚しい気持ちと猛烈な興味から
弟の死の原因がこの女だとわかっていながらやめられない。
尾端が修繕を加えた後が、逆に怖かったなぁ~
前作の時、また何か起こりそうな嫌な余韻を残さない!
とか書いたけど、思いっきり余韻あったなぁ~(^◇^;)

「関守」
佐代が生まれた家の町の一郭に神社があった。
その神社の脇に背戸があり、夕暮れになると暗くて怖い細道だった。
まるで『通りゃんせ』の歌のように。
忘れ物を取りに夕暮れの闇が迫る中、背戸に向かって走っていると、
瀬戸に豪華な模様の入った袴を着た鬼が立っていた。
その鬼は逃げようとする佐代の肩を掴み――。

童謡:通りゃんせの歌の謂れは色々あるんでしょうが
行きはよいよい帰りはこわい・・・このコワイが
通説では、「疲れ」の方言「こえぇ」と言われていますが
あえて、恐怖なのか、畏怖なのか。
主上の解釈がステキ過ぎます。(〃▽〃)ポッ

「まつとし聞かば」
離婚して実家に帰ってきた俊宏の母親が飼っていた三毛猫の小春。
半月前に交通事故にあって死んでしまった。
母親は2か月前に倒れて意識もなく病院で寝たきりの状態だ。
どちらも息子の航に告げることができないでいたのだが
あるとき航が「小春がいると思うんだ」という。
裏の古い空き家から声がするという。さらに「布団に来た」ともいう。
布団を調べると僅かな汚れと激しい異臭がする。
その得体のしれない「何か」は徐々に迫ってきて――

息子に言えずにいた死んだ三毛猫の小春が、息子の布団に来た?
毎日訪れる怪異に恐怖を感じていたところ、尾端が
導いた解決策は、優しさに溢れていて・・・

「魂やどりて」
古い民家をリフォームして住むことに憧れをもっていた育は、
築50年以上のこの物件を暇を見つけては手を加えてきた。
ある夜、ドライヤーで髪を乾かしていると女の呼ぶ声がする。
何かを責めるような強い語調だった。
このところ暗闇に人影が座り込んで何かを責めている夢と
煩い隣人との関係は――。その答えは意外なところにあった。

古民家のリフォームにも色々あるんだなぁ~
思い付きで元々あったものを作り変える事の意味
まさか、ここで青森が出てくるとは・・・
存在を知ってはいましたが、技法の1つだと思っていました。
けれど、尾端の解説で、改めて昔の津軽を知りました。


「水の声」
恋人に結婚を切り出すと、僕には結婚する資格がない。
たぶん僕はもうじき死んでしまうからと・・・
その理由は小学校五年生夏休み、広い川の大きな堰の先にある
ブロックで遊ぶ幼馴染のリュウちゃんを見殺しにしたから。
亡くなった翌年から、背後からふっと淀んだ水の臭いが
漂うようになる。臭いはどこかくるのか――。

小さい頃の罪悪感を引きずった結果、襲ってくる怪異は
リュウちゃんなんだと思い、視界の端に見える姿が
少しずつ近づいている事で恐怖は増したけど
その結末は、あまりにも切なくて・・・

「まさくに」
祖母の家に引っ越してきてから、両親の不仲から逃れるために
押し入れに寝場所を作ると、天井に屋根裏へ通じる隙間を見つけた。
上がってみると、誰かが作った屋根裏部屋だった。
その脇にゆらりと揺れる影――
項垂れた人の黒い影だった。
それは片眼のない片脚もないお腹も血だらけだった――。

描写的に一番怖かったんだけど、結果が分かった途端に
あぁ~本当に優しいんだなぁ~とシミジミ思いました
しかし、伝える方法がグロ過ぎますよ(^◇^;)

小野主上のホラーは、雨のシーンが大好きなんです。
何とも言えない描写が本当に美しいんです。
そしてホラーをただ怖がらせるだけの作品にはしない。
その中に優しさだけでなく色々な教えを紛れ込ませる。
恐怖だけでいうなら、前作の方が怖かったと思いますが
怪異を修繕で解決させるってのが、今作の方が
自然な感じで入って来たので、これはこれで好きです。

カバーイラストから、本作で尾端さんの関わる怪異がわかる。

 

  ↓前作のレビュー
営繕かるかや怪異譚