
204P 15cm
真哉は、隣家から聞こえてくるユーモレスクが好きだった。
6年前に行方不明になった弟。
それ以来、隣家は「近くて遠い」場所だった。
しかし、物語は、再びゆっくりと動き始める。
隣家のすみれさんの死。その弟・文彦との再会。
彼の教え子で高校生の和の煩悶。弟はなぜ?
…姉・周子の目を通して語られる、切なさいっぱいの物語。
文庫化に当たり、書き下し短篇「アラクネ」を収録。
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物語は、わたし:舘家の長女:周子の目線で語られる。
女性目線の話は初めてだ。
弟の真哉は5年生の時、貯水湖に遠足に行ったまま戻らなかった。
真哉の遺体がみつからないままなので、家族は未だに
真哉の死を受け入れられずにいた。
あれからもうすぐ7年になる。法的には死亡とみなされる。
もう4人家族のふりは出来なくなる。
隣家の文彦とわたしは同級生ではあったが挨拶程度の付き合いだった。
けれど文彦と真哉は割と仲がよかったようだ。
そしてすみれさんは、わたしたち姉弟が嫌いだったようだ。
真哉が戻らなかった日から、隣家との関係はギクシャクしだした。
遠足の引率教諭が、すみれさんだったからだ。
誰もすみれさんを責めたわけではない。
あれは事故だと納得していた。
そこで何があったのか知ろうとはしなかった。
あれからもうすぐ7年という時。
まるで機会を待っていたかのように
少しずつ色んな事が動き始める。
隣家のすみれさんの死。
すみれさんの弟で、同級生の文彦との再会。
勤め先の紳士服売り場に現れた男子校生。
意外な場所での再会。
切り裂かれたネクタイの代わりを買いに来た紳士。
長年住んでいた借家の取り壊し。
貯水湖の水抜き・・・
真哉は隣家から聴こえてくるユーモレスクが好きだった。
ピアノの音色が聞こえるとわざわざ外に出て聞き入っていた。
ユーモレスクはヴァイオリンで聴く方がメジャーなのに・・・
7年前、本当は何があったのだろうか・・・
これがミステリだったら、テーマ読みに加えたんだけど
ミステリ風な作りにはなっているけどミステリではない。
長野作品ですから・・・やはりBLだったりしますが・・・
長野さんは、誰しもが必ず見ていたであろう風景を
描写するのが上手いと思う。
似た風景はたくさんあるんだろうけど、忘れていたはずの風景を
ピンポイントで引っ張り出される。
どこか懐かしい気持ちにさせられるのは、そういうことなんだと思う。
やはり女性目線なので、不思議な感じがします。
語り手である「わたし」の職場が百貨店の紳士服売り場なので
ネクタイを選びに来る男性のタイプから、その人に似合う
ネクタイがどんなものなのかが細かく語られている。
今までネクタイを選ぶということをしたことがなかったので
まるで未知の世界の話でした(^◇^;)
従業員同士の生々しい会話。色々な登場人物たちの行動。
そして最後に全てが繋がる。
真哉の死によってもたらされた悲しみと、
そこから派生した新たな切なさと傷。
7年目を区切りとして、少しずつ変わっていくのだろう。
色んな情景を思い浮かべて切なくなりましたぁ~
紳士服売り場のやり手の先輩曰く
「ネクタイって、男そのものだと思うと理解しやすいわよ。
人格とは別って説明にもなるしね。
要するに知性を求めてはダメってこと」
(。・o・。)ほーっ φ(.. )メモシテオコウ
同時収録の「アラクネ」も好きです。
アラクネは蜘蛛をあらわすギリシャ語で、ギリシャ神話では
機織の腕を過信して女神アテネと競って命を落とす女の名前。
ってことでレースを扱うお店での男女のお話。
ユーモレスク(ドヴォルザーク)ピアノ